先日Facebookを見ていたら、「プレゼンテーション会場でパソコンが動かなくなったけど、何とか紙だけで切り抜けました! ドヤ!」みたいな投稿を見つけました。

いざというときにも慌てず対応できたことをご本人は誇らしげな口調で語っていたのですが、実はこれはダメな例。もちろん、いざというときの対応は大事ですが、もっと大事なのは「いざ」とならないように準備をしておくことです。そう、実は大事なプレゼンテーションの際にはパソコンは2台持っていくというのが「常識」です。

1台はメインのパソコンでプロジェクターに接続してスクリーン投影用です。そしてもう1台はバックアップのため。つまり、メインのパソコンが万が一うまく動かないときは、こちらに切り替えて投影するのです。ただ、バックアップのパソコンを持っていくのは、通常の(万が一でない)ときにも大きなメリットをもたらします。それはメインのパソコンでスクリーンに投影するものとは別の画面を手元で見られるというもの。

上手なプレゼンターがひそかに見ている「その次」

実は上手なプレゼンターは、スクリーンに投影されているスライドの次のスライドをバックアップ用のパソコンに表示させておくのです。もちろん、こちらの画面はプレゼンテーションの聞き手には見せずに、あくまでも自分用。そして心の中で、「そうそう、次はこういう風につなげるんだ」と考えながら話すので、スムーズに次のスライドにつなぐことができ、なめらかな話し方を自然とできるようになるのです。

ちなみに、この観点ではバックアップ用はノートパソコンでなくてもタブレットでも全く問題ありません。ただ、いざというときに投影できるものがベターで、筆者の好みでいえばTekwind社のCLIDE W08Aは、コネクタを接続すれば、VGAでプロジェクターにも接続できるので便利です。軽さといい性能といい、バックアップの用途に現時点ではこれがベストと個人的には思います。

聞き手との距離を縮めるわずかな工夫

この「パソコンは2台」以外にも、プレゼンテーションをやるときの運営面でのチェックポイントというのは意外と大事なので、下記にまとめておきました。

プレゼンテーションの運営面チェックリスト22項目

プレゼンテーションの運営面チェックリスト22項目

注意が必要なところだけ解説を加えましょう。まずは最初の「会場」ですが、プレゼンテーションの部屋がどのくらいの広さなのか、そして机の配置がどのようになっているかを事前にチェックすることは、意外なくらい大事です。だだっ広い部屋にぽつんとプレゼンターがいるというのは何とも話しにくいものですし、机がロの字型に組まれていて、聞き手のキーパーソンとの距離があきすぎているも問題です。

プレゼンテーションの目的は、LeADER原則(リーダー原則)、すなわち聞き手に期待した行動をとってもらうことですから、聞き手の表情や仕草から、今頭の中はどんな状態かを見抜きながら話を微妙に変えていく方がベターです。そのためには、聞き手との距離は物理的にも心理的にも近い方がいいのはいうまでもありません。仮にロの字型に机が配置されていても、角に座ることで距離をグッと縮めることができます。座席の配置は一見ささいなことですが、やってみると違いに驚くはず。少しでもプレゼンテーションの効果を上げるために、是非採り入れてみてください。

似たような話は、マイクを使うか否かもあります。慣れていない人はマイクを通した自分の声に違和感があり、いつものように話すことができなくなるものです。プレゼンテーション当日はマイクを使うかどうか、そして使うとしたらワイヤレスかコード付きか、手持ちかピンマイクかスタンドマイクかを確認できると、それと同じ状況でリハーサルができて安心です。

時にはあり得る「外れ」プレゼン

そして、もう一つ大事な要素が、聞き手。誰が、何人というのは当然として、「どのような期待値を持ってプレゼンテーションに臨んでいるのか」を確認しないと、とんちんかんなプレゼンテーションをしてしまうことがあります。例えば、営業でのプレゼンテーションを考えてみましょう。一口に営業といっても、お客様が購入するまでの意思決定のどの段階にいるかによって、話す内容は変えるべきです。例えば、何かを導入するに際して、幅広くどんな業者がいるかを探しているところであれば、業界の概要や最近のトレンド、そして他社と比較した場合の自社製品のメリットなどを説明すべき。

そうではなく、お客様が既に製品は絞り込んでいて、あとは「買うか、買わないか」の判断であれば自社製品を導入したときのメリットと、最後に「背中を押す」ための心理的な仕掛けを盛り込むべきです。ところが、このお客様の期待値を読み間違えてしまうと、どれだけすばらしいプレゼンテーションであっても、「いや、そういう話じゃないから」と的外れになって、聞き手を満足させることができないのです。

これも営業の場合良くありますが、ふだんからコミュニケーションをとっている担当者の上司がプレゼンテーションの聞き手のキーパーソンの場合には要注意。その上司の方の期待値を事前にリサーチするか、あるいは担当者を通して適切な期待値を形成してもらうなどの工夫をすべきです。例えば担当者の人に事前にプレゼンテーションの内容を説明し、「このようなプレゼンテーションは、上司の○○さんの期待に添うものでしょうか? 」とダイレクトに聞いてみるのも状況によっては許されます。そして、実際にプレゼンテーションが始まったら、「本日のプレゼンテーションの位置づけは……」と、改めて冒頭で聞き手の期待値を確認すると、より効果的に話せることは間違いありません。

執筆者プロフィール : 木田知廣

シンメトリー・ジャパン代表、米マサチューセッツ大学MBA講師。米国系人事コンサルティングファーム、ワトソンワイアットにてコンサルタントとして活躍した後英国に渡り、ロンドン・ビジネススクールの故スマントラ・ゴシャールに師事する(2001年MBA取得)。帰国後は、社会人向けMBAスクールのグロービスにて「グロービス経営大学院」の立ち上げをゼロからリードし、苦闘の末に前身的なプログラム、GDBAを2003年4月に成功裡に開校にこぎつける。2006年シンメトリー・ジャパン株式会社を立ち上げ、自ら教壇に立つとともに後進の講師の養成を始める。ライフモットーは"Stay Hungry, Stay Foolish" (同名のブログを執筆中)。