【コラム】
環境変化が激しい現代社会において、組織の力を伸ばすうえで欠かせないのは人の成長である。どの組織においても、組織目標を達成するための人材戦略を策定し、その戦略に沿って、優秀な人材の育成や獲得に向け、計画的に取り組んでいる。組織活動は定常業務と非定常業務で構成されるため、非定常業務の1つであるプロジェクト活動においても人材育成の観点が不可欠である。
この『プロジェクト活動を通じた人材育成』を実現するためのプロセスは、次の2点に集約される。
まず「1. 組織の人材戦略に基づくプロジェクトへのメンバーアサイン」である。組織としてどのような人材を育てていく必要があるか、またはアサインされるメンバー自身がどのようなキャリアプランを描いているかを常に把握し、プロジェクトへの戦略的なメンバーアサインを実施すること。
次に「2. アサインメンバーに対するプロジェクトでの成長支援」である。プロジェクトマネジャーを想定読者とする本連載では、"2."にフォーカスして、成功のポイントを紹介していく(下図の太枠部分)。
プロジェクトアサイン時、まずメンバーに対して行うべきことは、ミッションを明確に伝えることである。プロジェクトのミッション、チームのミッション、そして各メンバーのミッション。プロジェクトのゴールを見据えた上で、メンバー自身がミッションを明確に認識できるようにする。
※ 本稿では、プロジェクトへのメンバーの参画を「プロジェクトアサイン」、プロジェクトからのメンバーの解放を「プロジェクトリリース」と記載する。
次にメンバーがプロジェクトを通じてどのような成長を実現したいのか、成長目標について話し合う。目標が明確になっていないメンバーに対しては、例えば3年後にどのようなシステムエンジニアやコンサルタントになりたいのか、という将来像から話をするとよい。
最後に、掲げた成長目標の実現に向けて、具体的な役割分担や作業の進め方について議論をする。与えられたミッションと成長目標との繋がりが明確であれば、メンバー自身からの主体的な提案も期待でき、プロジェクト業務に対するモチベーションアップに繋がる。
このプロセスには相応に時間がかかるが、何事も最初が肝心である。一人ひとりのメンバーとしっかりと議論を行うことで、各メンバーがゴールを見据えながら、決意を持った形でプロジェクトをスタートすることができる。
プロジェクト期間中はメンバーの活動を注視し、状況に応じて適切な支援を心掛ける。朝会等により、日常的にメンバーとコミュニケーションを持つことが理想的であるが、作業場所が離れている等、難しい場合もある。そのような場合はメールによる日次報告などにより、小まめにメンバーの活動状況やモチベーションを把握する。
例えば、一時的にせよ作業負荷が高い状態にあるメンバーは、目先のタスクに追われ、客観的に自己を振り返る余裕が無くなり、目標を見失いがちである。メンバーがそのような状態にある場合は、リーダーとしてアサイン時にともに策定した成長目標を踏まえ、日々の業務への取り組みが自身の成長に繋がることの再認識を促す。
特にメンバーの成長を見据えて、難易度の高い業務や責任の重い役割を任せた場合には、精神面での支援を意識したい。リーダーは任せたメンバーに全幅の信頼を置き、厳しい状況であっても安易に口や手を出さず、時には我慢強く見守る。メンバーにとっては、最後はリーダーがバックアップしてくれるという精神的な安心感が大きな支えになるはずである。
プロジェクトリリース時には、チームやプロジェクトへの貢献について、誠意を持って感謝の気持ちを伝えるとともに、アサイン時に設定した成長目標を踏まえ、振り返りを行い、リーダーの観点からフィードバックを行う。
フィードバックの際には、メンバーの作業実績(作業品質や作業アプローチ)が、チームやプロジェクトに与えた影響、結果を具体的に指摘する。この際、メンバーの視点(局所的)とリーダーの視点(大局的)の違いに関するアドバイスは有効である。
最後に、さらなる成長に向けて、今後のキャリアプランについての議論を行う。プロジェクトにおけるリーダーとしての責務は超えていると思うが、そのようなレベルまで、コミュニケーションを行ったメンバーとはプロジェクトリリース後も信頼関係が続いていくものである。
最後にここまで紹介してきた3つのポイントの振り返りとして、ある基幹系システムの再構築プロジェクトにおけるシステム基盤チームのリーダーXさんとメンバーAさんのケースを紹介しよう。
メンバーのAさんはシステム基盤設計に関する経験とスキルを評価され、プロジェクトにアサインされた。
リーダーのXさんはアサイン時の面談でAさんにキャリアプランと本プロジェクトでの成長目標を聞いたところ、将来はシステムエンジニアからシステムコンサルタントへの転進を考えており、システム基盤に関する設計業務だけではなく、要件定義にも参画し、顧客折衝スキルやコミュニケーションスキルの向上に取り組みたい、とのことであった。
そこでXさんはAさんの意向を尊重することにした。要件定義の進め方や顧客打合せに臨む際のポイントなどをレクチャーした上で、一部領域の要件定義を任せ、顧客対応の機会を与えたのである。
機会を得たAさんは要件定義が始まると全力で業務に取り組んだ。しかし顧客要望をうまくコントロールできず、進捗の遅れが拡大していった。
Xさんは、アサイン時に比べ、Aさんの言動や振る舞いから覇気が感じられなくなってきた点が気になり、声を掛けた。Aさんは、経験とスキル不足を痛感し、また持ち前の責任感から来るプレッシャーに追い込まれていたのである。
Xさんは安易に担当者を替えることはせず、Aさんが担当を継続し、完遂できるような支援を行った。経験とスキルの不足に対しては、経験者をスポットアサインし、Aさんを支援する形を取った。プレッシャーに対してはひとりで抱え込まないよう、メンタル面での支援をXさん自身が定期的に行うようにした。
Xさんの支援を受けたAさんは気持ちを切り替えることに成功し、顧客対応や要件定義の難しさに苦戦しながらも、与えられたミッションを完遂した。貴重な経験と大きな自信を得ることができたAさんは、その後、いくつかのプロジェクトを経た上でシステムコンサルタントへ転進を図り、活躍中である。
Aさんは、Xさんが与えてくれた成長機会を大変有難がたく思っており、現在も頼れるメンターとして慕い続けている。
最後に。プロジェクト活動を通じたメンバーの成長を考える時、その成否を左右するものは何か。メンバー自身の業務への取り組み姿勢が重要であることはもちろんだが、メンバーを取り巻く環境も同じように大切である。リーダーを含めたチームメンバーの研鑽意欲、成長意欲の程度が、メンバーに様々な影響を与える。
意欲的なメンバーによりチームを構成することができれば理想的であるが、そのようなケースばかりとは限らない。リーダーはメンバー全員が高い研鑽意欲、成長意欲を持ったチームとなるように、率先して模範を示し、お互いに切磋琢磨できるようなチーム作りに取り組みたい。
メンバーの成長支援に意識的に取り組むことは、間違いなくリーダー自身の成長に繋がる。是非、積極的に取り組んで欲しい。
執筆者紹介
土出康弘(DODE Yasuhiro) - 日立コンサルティング マネージャー
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システムインテグレーター、システムコンサルティング会社を経て、現職。さまざまな業種のシステム構築プロジェクトにおいて、要件定義、設計、開発、定着化支援等に取り組む。監修者紹介
篠昌孝(SHINO Masataka) - 日立コンサルティング ディレクター
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国内最大手のファイナンシャルグループで、BPRプロジェクトや、数多くのEコマース構築プロジェクトにて、PMを歴任。2001年に外資系大手コンサルティングファームに入社、主にERP導入や、SOA技術を駆使した大規模SIプロジェクトを成功に導いた。同社のパートナー職を経て、2007年より現職。
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