今回は、実践ケーススタディの最初のテーマ「ミッションコントロール」の後編である。いよいよ、ミッションコントロールの勘所について解説していく。それでは早速、ミッションコントロール(前編)にて紹介した5つのポイントに沿って見ていこう。

実行するプロジェクトのミッションを明確にすること

ミッションコントロールにおける重要なツールな1つに「ミッションステートメント」というものがある。ミッションステートメントとは、プロジェクトのミッションを定義するものである。当ステートメントを適切に作成することで、はじめて、プログラムの目的や意義を各プロジェクトに浸透させるとともに、個別最適視点で判断を行わないように注意を促すことが可能になる。

ミッションステートメントはプロジェクト実施期間中、様々な場面(例えば、キックオフ時、SI工程における各フェーズ終了時、プロジェクト完了時 等々)で継続的に参照される重要なドキュメントである。従って、プロジェクト開始前に、じっくりと腰を据えて、作成する必要がある。その際、下記の点に留意して作成してほしい。

  • 何時、誰が見ても、同様に理解できるよう、シンプルかつ分かりやすい文章で表現をする
  • 「なぜ(達成する)」「何を(達成する)」「どのように(達成する)」で構成し、読み手の納得感を醸成する
  • 個別プロジェクトの目的が、プログラムの目的に即したものになるよう、全体のミッションステートメントの「どのように(達成する)」と個別ミッションステートメントの「なぜ(達成する)」を関連付ける

コミュニケーションを行うステークホルダーを漏れなく抽出すること

ミッションステートメントをプロジェクトへ的確に伝達するためには、情報の受信者であるステークホルダーが"誰なのか"を明確化し、抽出する必要がある。

ステークホルダーを洗い出した後、プロジェクトでの役割を踏まえグルーピングを行うこともポイントである。このグルーピングを実施することで、ステークホルダーの抜け漏れを再確認し、後述する伝達すべき情報の検討や認知度の設定を容易にすることが可能になる(図1参照)。

図1: ステークホルダーの抽出とグルーピングイメージ

各ステークホルダーにどのような情報を伝えるべきかを明確にすること

さて、上記で抽出した全ステークホルダーに対して先のミッションステートメントを伝達することがミッションコントロールの基本になるわけだが、ミッションコントロールを行うには、情報を正確かつ効果的に伝達するという観点も求められる。これには、各ステークホルダーがどのような情報を必要としているのかを事前に明確にしておくのが効果的だ。

そこで、ステークホルダーのグルーピングを利用し、グループ毎にどんな情報を欲しているかを検討する作業を行う。必要とされる情報の例を図2に示す。

図2: ステークホルダー毎に必要になる情報(例)

ステークホルダー毎に求められる情報の違いをご理解いただけたと思う。しかし、この領域はプロジェクトを実行する組織の文化により、大なり小なり違いが出るところでもある。ステークホルダーのグルーピングパターンを含め、必要となる情報については注意深く検討することを、お勧めする。

各ステークホルダーに必要となる理解度を明確にすること

ミッションコントロールは情報を伝達するだけが目的ではない。情報伝達後にステークホルダーが"情報をどのように利用するか"という理解度の把握も重要となる。

そのためには、ステークホルダーが受け取る情報毎に、「受け取るだけか」、「活用する必要があるか」、「発信する側になるか」、といったレベル分けしておくと有効である。

事例では、理解度を認知レベル(認知Lv)というKPIを設けて管理した(図3参照)。レベルを4段階に分けて設定し、それぞれに対して望ましい状況と、レベルを上げる為に必要となるアクションを定義している。こうすることで、ステークホルダーに求められる情報の理解度を可視化することができる。

図3: 認知レベルの考え方

コミュニケーションを行う時期を明確にすること

情報は鮮度が重要であるため、伝えるべき情報毎に伝達する時期を明確にしておくことが求められる。こちらも工程表に合わせるかたちで、事前に定義しておくとよい。

ここまで計画するとプロジェクトで実施すべきコミュニケーションの全体像が浮かび上がる。図4は全体PMO※1が中心となりコミュニケーションを設計した例である。個別プロジェクトでは、この図を基に、コミュニケーションを実施していくことで、プロジェクトの開始から完了まで、終始一貫した目標の下で活動することが可能になる。

※1: 当該事例におけるPMO最上位組織、詳細は前編参照

図4: コミュニケーションの全体像

最後に

ミッションコントロールの実行意義と、その勘所について、前後編2回に分けて解説を行った。このスキームをプロジェクトに適用していくことで、目標に対するブレを防ぎ、目標自体の希薄化を防ぐことが可能になる。

特に、複数チームを抱える大規模プロジェクトや、会社レベルでのプログラムマネジメントを実行・検討されている企業においては、「失敗しないプロジェクトマネジメント」手法のひとつとして、有効なものであると自負している。

PMO組織によるミッションコントロールの実行に際しては、当連載の前編(理論編)となる「"PM力"向上に効く、12のレッスン 第11回Lesson10:PMO」も参考にしてほしい。 今回のケーススタディが、読者の皆様が直面しているプロジェクト運営の問題を解消するうえで参考になれば幸いである。

執筆者紹介

辻村裕寛(TSUJIMURA Yasuhiro) - 日立コンサルティング マネージャー


国内系SIerにてSE、PMとしてシステム構築を経験後、システム開発統括部門に籍を置き、レビューアーとして多数のプロジェクトレビューを実施。また、その傍ら、社内のシステム開発プロセス改善等に携わる。 2008年より現職。現在は、PMO案件を中心に活動している。


監修者紹介

篠昌孝(SHINO Masataka) - 日立コンサルティング ディレクター


国内最大手のファイナンシャルグループで、BPRプロジェクトや、数多くのEコマース構築プロジェクトにて、PMを歴任。2001年に外資系大手コンサルティングファームに入社、主にERP導入や、SOA技術を駆使した大規模SIプロジェクトを成功に導いた。同社のパートナー職を経て、2007年より現職。