「Intuos4」の数あるオプションペンの中でも異彩を放つのが、エアブラシペンだ。見るからに他のペンとは異なる特殊な形状が目を引くエアブラシペンを今回は紹介する。

ユニークな形状のエアブラシペン。長さはグリップペンなどと同じだが、大きく膨らんだグリップ部分が印象的だ。ペン先は標準グリップペンと同じものが使える

このペンの特殊な形状は模型塗装などで使われる「エアブラシ」を模したもの。現実のエアブラシは建築や家具の塗装で使われる「スプレーガン」を小型精密にした塗装用具で、塗料を霧状に噴霧、筆では不可能なボカシ塗装ができるのが最大の特徴。登場当時はアナログ写真のレタッチによく使われ、その後、ペーター佐藤や空山基といったイラストレーターが未来的なイメージを描いて一世を風靡した。その後もイラストレーションやアニメーションの世界で「ぼかし」、「グラデーション」を表現するツールとして長い間使われてきたが、フォトレタッチやイラストレーションがデジタルに移行した現在は、模型塗装など立体の世界で多用されている。

実際のエアブラシ。カップ部分に塗料を入れ、コンプレッサーなどの空気圧で噴霧する

アナログの世界では「幅広く、筆ムラなく塗れる」、「筆致を残さない、ぼかした描画ができる」というのがエアブラシの魅力だが、これらの特徴はデジタルペイントではごく当たり前。実はIntuos4のエアブラシペンは、そういった機能面ではなく、その操作性を再現しているというのが大きなポイントなのだ。まず、このペンはホールド感が他のペンとは全く違う。大きなグリップ部分を親指と中指で挟みこむ形になるので、非常に安定するのだ。軸が回転してしまう他のペンと違い、サイドスイッチ部分が常に人差し指の方向にあるのも使いやすい。ただし、ペンのように指先で傾き度合いを変えるような使い方には向いていないので、ペン画タイプよりも、腕全体で描く人向きだろう。

エアブラシペンの握り方。人差し指が自然とホイールに当たるよう、デザインされている。見た目がごつい感じだが、実際は軽量なので疲れるようなことはない

また、このペンのサイドスイッチの前方に設けられた「ホイール」もエアブラシ的だ。形状はマウスのホイールと似ているが、手前から奥へ約90度の範囲で可動する「ダイヤル」として機能する。これを操作することで、通常筆圧でコントロールするような「濃さ」や「太さ」といったブラシの要素をホイールで調整、一定の値で固定することができるのだ。

「PhotoShop CS5」のブラシパネル。それぞれの項目にある「コントロール」で「スタイラスホイール」を選ぶと、エアブラシペンのホイールでコントロールできるようになる

では、実際にホイール機能に対応している「PhotoShop CS5」でどのようにこのペンが機能するのか試してみよう。PhotoShopのブラシでは様々な要素をIntuos4のどの機能でコントロールするか変更することができる。たとえば、筆圧によって幅が変化するブラシでは、「シェイプ」の項目にある「サイズのコントロール」が「筆圧」になっている。これを「スタイラスホイール」に変更すると、筆圧ではなく、エアブラシのホイールの回転角度でブラシの大きさを調整することができるようになるのだ。

サイズ以外に透明度、色の濃さ、散布など、様々な要素がスタイラスホイールでのコントロールに対応している。これらのコントロールは筆圧でも可能だが、ホイールで行うことで、一定の値で固定して使うことができるのだ。

「PhotoShop CS5」のブラシでの使用例。左はサイズを、右は散布をそれぞれホイールでコントロールしてみた。筆圧とは違い、一定の設定で固定して描ける

現実のエアブラシでは「ニードルアジャスター」というダイヤル機構を使うことで、塗料の最大噴出量を一定に保つことができる。通常は噴出ボタンの強弱や吹きつけ面との距離で吹き幅を調整するのだが、この機構により、極細吹きなど、幅を一定に保つことができる。Intuos4のエアブラシペンの「ホイール」はいわばその機構を模したもの。筆圧では一定に保てない要素を固定して描くことができるわけだ。

実際使ってみると、指先に気をつかわなくてもいいこと、いちいち、ブラシ幅を調整しなくていいのは、ペンタブレットというよりマウスで描画している感覚に近い。マウスと違い、ペン先は細かくコントロールできるので、ちょっと他にはない書き味だ。人差し指がいい感じでひっかかり、思った以上に安定して描くコトができる。実際、この形状を好むユーザも多いという。また、透明度とサイズなどふたつの項目を、わざわざアプリケーション上で数値調整しなくても、ホイールと筆圧それぞれでコントロールできるのも嬉しい。

このブラシの利用方法としては、やはり写真のレタッチだろう。覆い焼き、焼き込みツールなどを使う時、慣れないと筆圧のムラが画像上に出てしまうことがあるが、効果を一定に保てるエアブラシならなめらかに広範囲を処理することができる。

残念ながら、エアブラシのホイール機能はアプリケーションはアプリケーションに依存しており、現在はPhotoShopCS5、「Painter」(「Essential」は細目ホイールブラシのみ対応)のみが対応している。

エアブラシペンのコントロールパネル。ペン先やサイドスイッチのカスタマイズは他のペン同様に多彩だが、ホイール機能はコントロールパネルで設定できない。マウスホイールのようにスクロールなどを割り当てることはできないので注意

PhotoShop CS5の強力なブラシのカスタム機能を使えば、筆圧をサイズ、ホイールを濃さなど、詳細に設定ができるが、設定項目が広範囲なので、使いこなすにはブラシの機能に精通している必要がある。それ以外のアプリケーションでは、ホイールが機能しないだけで、筆圧検知のペンとしては問題なく使える。ただし、ペン先の筆圧検知の性能はグリップペンよりも精度が落ちる(Intuos3同等)ので、筆圧の精度にこだわる人は注意して欲しい。

Illustration:まつむらまきお