【コラム】

ペンタブレット「Intuos4」の全てがわかる大百科

16 「Intuos4」と「comic studio」による漫画制作テクニック(トーン表現編)

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「Intuos4」はグラフィックや映像など幅広い分野で愛用されているが、その中でもマンガ、コミックイラスト制作は最も人口の多いジャンルではないだろうか。今回はセルシスのマンガ制作アプリケーション「comic studio」を使い、Intuos4を使ったデジタルマンガならではのトーン表現を紹介しよう。

漫画ならではの画材「スクリーントーン」

漫画はもともと、製版コストを抑えるため、グレースケールではなく白黒二値で描かれてきた。グレーの表現が必要な時はハッチングや掛けアミ、点描などをペンで描くか、製版指定で行うしかなかった。1950年代になって製図/図案作成用としてスクリーントーンが登場し、豊富な柄を自在に使い分けられることから漫画の定番ツールとなった。デザイン、製図が完全にデジタル化している現在では、スクリーントーンは他のジャンルではあまり使われることがなく、漫画専用の画材といってもいいかもしれない。

トーンは主にグレー表現として用いられるが、本当のグレーではなく、かなり荒い点であるところが大きな特徴。写真のグレー印刷物もアミ点で表現されるが、その点はルーペで見ないと認識できないほど細かい(175線)のに対し、マンガは雑誌サイズであれば肉眼でもアミ点がわかる(60~70線)。印刷がデジタル化されている現代では、グレーで制作した方が楽なのだが、もともとマンガは線画なので、グレーでベッタリとした塗りをするよりもツブがはっきりしている荒いアミ点を使った方が、線や画面全体がくっきりと見える効果があるのと、スクリーントーンならではの様々な技法が発達してきたため、この荒いアミ点がマンガ表現には必須なのだ。

グレー印刷(左画像)とスクリーントーン(右画像)の違い。スクリーントーンを使った網点は荒く、点のひとつひとつがはっきりとわかる。これがマンガならではの雰囲気作りになっている

デジタルでスクリーントーンを使うのは難しかった

ところが「PhotoShop」のようなピクセルを直接扱うアプリケーションで、スクリーントーンのアミ点を扱うには、非常に高い解像度が必要となる。また、アミ点部分はひとつの面にならないので、修正、塗り直しが難しい。そのため、漫画作成のデジタル化は他のグラフィックジャンルと比べて立ち後れていたが、現在ではPCのスペックもあがり、comic studioなど漫画作成専門のアプリケーションも登場、デジタル制作も一般化してきた。今回使用するcomic studioはスクリーントーンを内部的にグレーの面として扱い、画面及びデータ出力時にアミ点表現としてラスタライズするのが大きな特徴。これにより貼り直しなどの修正が非常に簡単にできるように工夫されている。

comic studioで使える豊富なスクリーントーン。アミ点、柄などひと通りのパターンがそろっている

トーンで描く

アナログのトーンはカッターで切り抜き、細かい部分は削る、という方法をとる。comic studioでは、閉鎖している領域にバケツツールで塗るというのが基本。どんな複雑な形状でも一瞬で塗りつぶせるのは当然として、より魅力的なのがペンタブレットを使い、トーン柄で直接描くことができるという点だ。たとえば、服などの陰影表現。アナログのトーンであれば、複雑な形状を多数貼り込むことになる服のシワの影も、ペンタブレットを使えば「描く」という自然な作業で実現できる。

樹の茂みはバケツツールで塗り込んだあと、ハイライト部分を消しゴムで消している。奥のトラスの影はブラシで直接描いている。「Intuos4」の筆圧表現のおかげで、まるで筆で塗っているかのようにトーンワークを行うことができる

シャワーのしぶきをトーンを使って直接描いた例。これをアナログのトーンで切り抜いたり、ペンツールでパスを作成するのは大変

もちろん絵柄にもよるが、トーンを「貼る」から「描く」という動作になることで、絵作りの意識は大きく変化する。アナログのトーンは「失敗しても貼り直しができる」ことがひとつのメリットだったが、貼る範囲を決めたり、網の濃さを決めたりするには、完成を明確にイメージする必要があった。これに対し、直接描くのは絵を描く思考、順序そのまま。鉛筆デッサンと同様、影を描けばいいのだからよっぽど自然だ。

ところでトーン表現は、印刷物としては効果的だが、電子書籍などモニターでみる場合はそれが問題となる場合がある。縮小するとアミ点がつぶれたりするのだ。comic studioでは、その点もよく考えられている。内部的にトーンをグレー領域で管理しているため、トーン部分をアミ点ではなくグレーで書き出すことも可能(最初に掲載したグレーとトーンの比較画像はこの機能を使って表示させている)なのだ。様々なメディアに対応できるというのは、描き手にとっても嬉しい部分だろう。

次回はより具体的なトーンワークのテクニックと、漫画におけるフルデジタル制作のメリットをさらに紹介していきたい。

Illustration:まつむらまきお

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インデックス

連載目次
第36回 大百科のまとめ ~「Intuos4」のメンテナンスや使用環境を考える
第35回 「Intuos4」を音楽制作に活用する(後編)
第34回 「Intuos4」を音楽制作に活用する(前編)
第33回 次世代イラストレーションアプリ「clip paint lab」の編集機能を試す
第32回 次世代イラストレーションアプリ「clip paint lab」の機能を試してみる
第31回 「Intuos4」でセルシスの最新アプリ「clip paint lab」ベータ版を試す
第30回 「Adobe Illustrator」に最適な「Intuos4」の設定とは
第29回 「Adobe Illustrator」を「Intuos4」で使いこなす
第28回 「Adobe Illustrator」の「線の補正」機能を「Intuos4」で試す
第27回 「Adobe Flash」の「線の補正」機能を「Intuos4」で試す
第26回 国産アプリケーションの「線の補正」機能を「Intuos4」で試す
第25回 「Intuos4」を使って上手に線画を描いてみる
第24回 「ArtRage」のトレース機能を使って「Intuos4」で絵画調のイラストを描く
第23回 「Intuos4」とグラフィックアプリケーション「ArtRage」で絵具を楽しむ
第22回 ペンタブレット「Intuos4」で使える専用マウス
第21回 ユニークな形状とホイールが魅力 -「Intuos4」のエアブラシペンを試す
第20回 回転検出が可能にする抜群の操作性 -「Intuos4」のアートペンを試す
第19回 「Intuos4」で超軽量クラッシックペンとボールペン内蔵インクペンを試す
第18回 「Intuos4」のオプションのペンの特徴や機能を徹底解剖
第17回 「Intuos4」と「comic studio」による漫画制作テクニック(応用編)
第16回 「Intuos4」と「comic studio」による漫画制作テクニック(トーン表現編)
第15回 ドライバ設定や様々なカスタマイズで「Intuos4」の描き味をさらに探求する
第14回 「Intuos4」のドライバによる筆圧設定で描き味を探求する
第13回 「Intuos4」の用途に合わせて電子ペンの芯を選択する
第12回 「Intuos4」のマッピング設定をマスターしよう
第11回 「Intuos4」の筆圧感知を駆使した、水彩タッチの塗り重ねテクニックを紹介
第10回 ケーブルからの開放! 「Intuos4 Wireless」の機能と有効な活用法
第9回 かなり使える「Intuos4」のラジアルメニューとは
第8回 好みに応じて自由にタッチホイールを使いこなそう
第7回 「Intuos4」のタッチホイールで出来る様々な事
第6回 「Intuos4」のファンクションキーをカスタマイズする
第5回 「Adobe Photoshop Elements」を活用して「Intuos4」でイラストを描く
第4回 ペンタブレット初心者が上手に「描く」ための練習法とドライバ設定とは
第3回 『Intuos4』を設置、環境設定して、実際に描いてみよう
第2回 使用目的や機能からペンタブレットを選ぶ
第1回 ペンタブレットとマウスの違いとは

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