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署名、メモ、手紙…パソコンがどれだけ普及しても、私たちは「手書き」から逃れることは困難です。とすれば、誰もが「少しでも字をキレイに書きたい」という思いを隠し持っているのではないでしょうか?

この連載では、ペン字講師の阿久津直記さんに「そもそもキレイな字とは何か?」から、キレイな字を書くために覚えておきたいペン字スキルまでご紹介いただきます。
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通信教育やペン字練習本だと数ページで済まされてしまう準備が、実は非常に大切で、工夫をすることができると気づいていただけましたか?

長い準備も終わり、ようやく実際に文字を書くところまできました。私はいつも、お手本をまねるのではなく、"自分で考えながら"字を書くことができるよう、そのポイントをお伝えしています。

是非とも自身の書いた字を見て、「あ、できてない!」と気づくことができるようになる、また書くときには私の鬼のような顔が自然と思い浮かぶくらい考えて書く、を目指してみましょう。

漢字は横画の多い文字。そろえるか、しっかり伸ばすか。

私がふだん、「三のルール」としてお話しているのが、漢字の"三"のそれぞれの横画の長さです。どうやらほとんどの方は小学校のときに習う「1画目は右上がり、2画目は短く、3画目は長く」という言葉ばかり記憶してしまっているようです。

もちろん間違いではないのですが、それは半紙サイズでようやく書きわけることのできる差であることを忘れてはいけません。私たちが日ごろ書く字のサイズは大きくても1~2cm。このとき、理想的な1画目と2画目の長さの差は1mm未満です。なかなか書き分けられるものではありません。最もよくないのは、極端に真ん中が短いこと。

そこで、2択にしてしまいましょう。しっかり伸ばすのか、そろえるのか。「微妙に短く」と考えるのは止めにしましょう。それよりも3画目をしっかりと伸ばすことの方がはるかに重要です。

「三のルール」

また、これは様々な字に応用できます。よく使う"様"にも"三"が隠れていますね。"拝"も4本の横画が並んでいますが、一番下だけをしっかり明確に伸ばす、とだけ覚えておきましょう。

間隔はそろえ、基本は平行 - 右下がりはNG。

短い横画の基本は、ほんの少し右上がり、という覚え方は残しておきましょう。しかし上がりすぎも駄目。3~5度くらいですね。それがどのくらいなのかは、非常に細かいので、イメージとして持っておくといいでしょう。上がり過ぎはもちろんNG。0度も駄目。その範囲の中で、自分の書きやすい(骨格等にもよりますし、好みもあるでしょう)角度を固定してしまうのがポイントです。

横画の角度

また、長い横画("三"の3画目)は、同じように上がって、始点と同じくらいの高さまで下がる、緩やかな山なりです。日本語には、完全な直線はない、という意識を常に持っているといいですね。

まれに、これらを混同してしまっている方がいます。短い横画の最後も下がってしまう。元々短いので、山なりのカーブが当然急になります。そこは無理やり下げる必要はないのです。私たちが書いている日本語は、元々筆文化であることはお話しました。筆の自然な流れで書かれたものなので、書き順を含め、無理な書き方はされないようにできています。気負わず、自然にペンを動かしやすいように書いてみると良いかもしれません。

横画は本数が多いので、等間隔に書かないと無駄な空間や詰まってしまったところがすぐに浮いて見えてしまいます。線と線がくっついてしまう場合には、ペンが太すぎる可能性もありますので、見直してみましょう。

平行、等間隔は、図形ならば書けるわけですから、字でも書けないわけがありません。「この線とこの線を平行に書くぞ!」と明確に意識をしてから書くようにしましょう。


阿久津直記
ペン字講師。Sin書net代表。1982年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。6歳から書写を始め、15歳から本格的に書道(仮名)を学び、18歳で読売書法展初入選。23歳で書家の道を辞し、会社勤め時代に立ち上げに携わった通信教育で企画・運営を行う。2009年にSni書netを設立。著書は『たった2時間読むだけで字がうまくなる本』(宝島社新書/2013年)、『ボールペン字 おとな文字 練習帳』(監修/高橋書店/2013年)など。ブログ「恥を掻かない字を書こう」