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署名、メモ、手紙…パソコンがどれだけ普及しても、私たちは「手書き」から逃れることは困難です。とすれば、誰もが「少しでも字をキレイに書きたい」という思いを隠し持っているのではないでしょうか?

この連載では、ペン字講師の阿久津直記さんに「そもそもキレイな字とは何か?」から、キレイな字を書くために覚えておきたいペン字スキルまでご紹介いただきます。
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さて、皆さん、"縦ハライ"はキレイに書けるようになりましたか? 漢字では、縦画は横画に比べ圧倒的に本数が少なく、そのぶん長いものが出てきます。長い縦画が曲がったり短くなってしまうだけで、キレイ・カッコイイ字にはなりません。

まずは、「え? これボールペンで書いたの?」と見まがうばかりの縦ハライを目指してみましょう。

字を書くときの"心得" - 『カンペキは求めない』

初めから完璧を求めない(画像はイメージ)

キレイな字を書こう、というと、なぜか皆さん、カンペキなお手本のような字を目指そうとします。私のセミナーに参加される方はそもそも悪筆に悩んでいたり、コンプレックスを持っているので、いきなりなんて無理な話ですよね。

最初から文章すべての字をそろえて書こう、という意識も無駄です。大切なのは、ちょっとくらい曲がったって気にしないこと。例えばプロゴルファーの方だって、常に理想の打球を打てているわけではなく、ラフやバンカーにだって入ってしまいます。字を書く行為も同じく運動なので、必ず誤差は出るのです。そのあとにしっかりとリカバリーできればいいのです。

実際、私が書籍等でお手本を依頼する書家の渡邊氏は非常にうまい方ですが、ノートに50字書こうとしても、すべて一発で書けているわけではありません。ちょっと納得がいかなければ書き直しています。また、私の書籍ではすべての字の中心を、私が微調整します。

まずは、ちょっとくらい曲がっても、線が一本短くなってしまっても、気にしないこと。それを気にするのは本人と、私のようなマニアックな見方をしている人間だけでしょう。字を書く目的さえ達成できていればいいわけです。

『書き方』を考え、筆記具を使いこなす

小学校の教科書に、書写・習字といった呼び方の他、『かきかた』と呼ぶことがあるのをご存知でしょうか? 書写とは、その名の通り、文字の書き方を学ぶ課目だということです。それでは、書き方とはどういうものでしょう?

前回までにご紹介しました"縦ハライ"について考えてみます。セミナーでこれをお話しすると、「ハライがキレイに書けない」という方が多くいます。ただ徐々に筆圧を弱くすればいい、と頭では理解していることができないのです。

そこで、「現状の筆記具の持ち方、指の動かし方で書くことができないなら、逆に書くことのできる方法を工夫して探してください」と私は伝えます。すると、すぐにできてしまう方がほとんどなのです。

仮に、すばらしいお手本が横にあってもその通りにまねて書くことができないのはなぜか考えてみましょう。それは、書き方を知らないからです。これが毛筆の場合には「筆を使いこなすのが難しい」と考え、角度を変えたり自分で試すでしょう。しかしボールペンになると、そのような工夫が必要だという考えに至らないようです。

書きたい字の大きさを決め、目的を明確にしたら、それをどうやって具現化するかを考えなければならないわけです。今手にしている筆記具は、どのような力を入れたらどのような線になるのかを知ることはとても大切なことなのですね。

私は日頃、筆記具の持ち方をうるさく言いません。それは幾つか理由があるのですが、その一つとして、正しく字を書こうとすると、自然とそれに近くなってくるからなのです。

是非とも、手元にある筆記具から見直してみませんか?


阿久津直記
ペン字講師。Sin書net代表。1982年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。6歳から書写をはじめ、15歳から本格的に書道(仮名)を学び、18歳で読売書法展初入選。23歳で書家の道を辞し、会社勤め時代に立ち上げに携わった通信教育で企画・運営を行う。2009年にSni書netを設立。著書は『たった2時間読むだけで字がうまくなる本』(宝島社新書/2013年)、『ボールペン字 おとな文字 練習帳』(監修/高橋書店/2013年)など。ブログ「恥を掻かない字を書こう」