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署名、メモ、手紙…パソコンがどれだけ普及しても、私たちは「手書き」から逃れることは困難です。とすれば、誰もが「少しでも字をキレイに書きたい」という思いを隠し持っているのではないでしょうか?

この連載では、ペン字講師の阿久津直記さんに「そもそもキレイな字とは何か?」から、キレイな字を書くために覚えておきたいペン字スキルまでご紹介いただきます。
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柔軟体操をしよう

私たちがスポーツをするとき、準備運動を必ずしますね。この準備運動には様々な目的があります。怪我の予防はもちろんですが、体温・筋肉の温度を上げることで本来の運動機能を発揮できる状態にするのです。またストレッチによって関節可動域が増大します。

逆を言えば、身体が冷えて固まっていると、思い通りの動きができない、ということです。寒さで手が震えているなんてもってのほかです。

私は普段、人の筆記具の持ち方を正すことはしません。字を書くために必要な筆記具の動き・スイングができるのであれば、持ちやすいように持てばいいと考えているためです。しかしそれでは説明はできないので、一般的に正しいとされる持ち方から考えてみましょう。

筆記具の持ち方と指の屈伸運動

字を書く行為は運動である、と第1回でご紹介しましたが、具体的にはどこの筋肉・関節を使うのか考えてみましょう。まずは、筆記具を固定し、下に押さえつける力が必要になります。

・親指で中指に押し付ける
・人差し指と中指で紙(机)に押し付ける

この二つの動きが基本となります。続いて、字(線)を書く時はどうでしょうか?

・人差し指・中指・親指の屈伸運動により、ペン先を動かす

重要なのは、この屈伸運動です。筆記具全体を動かすのではなく、人差し指の付け根付近に筆記具を置き、そこを支点としてペン先を動かすことに意識を集中しましょう。円運動ですね。この時、指が自然と曲がったり伸びたりします。

筆記具をしっかりと持ち、指を曲げたり伸ばしたりする

特に、日本語で使用する線の多くは上から下、左から右に書きます。

・人差し指・中指を曲げる→上から下の線
・親指を曲げる(押し出すように)→左から右の線

つまり、この2つの動きがスムーズにできることが不可欠なのです。

準備運動をしてみよう

小学生用の書写の教科書には、書く前の準備として「グーパーグーパーしよう! 」という体操まで掲載されているものがあります。大切なのはこの屈伸運動なんですね。

真冬や、空調が利きすぎて寒く、手がかじかんでしまっている時などは、それだけでは中々温まりません。そこで、カイロを使用する等の工夫をします。続いて、筆記具を持ち、人差し指・中指・親指の屈伸運動をしてみましょう。

普段字を書く機会が減ってしまっている方は、この動きも難しい! ということがあるようです。そんなときには、1日1分、入浴中湯船につかりながらでいいので、指を動かす癖をつけてみましょう。


阿久津直記
ペン字講師。Sin書net代表。1982年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。6歳から書写をはじめ、15歳から本格的に書道(仮名)を学び、18歳で読売書法展初入選。23歳で書家の道を辞し、会社勤め時代に立ち上げに携わった通信教育で企画・運営を行う。2009年にSni書netを設立。著書は『たった2時間読むだけで字がうまくなる本』(宝島社新書/2013年)、『ボールペン字 おとな文字 練習帳』(監修/高橋書店/2013年)など。ブログ「恥を掻かない字を書こう」