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署名、メモ、手紙…パソコンがどれだけ普及しても、私たちは「手書き」から逃れることは困難です。とすれば、誰もが「少しでも字をキレイに書きたい」という思いを隠し持っているのではないでしょうか?

この連載では、ペン字講師の阿久津直記さんに「そもそもキレイな字とは何か?」から、キレイな字を書くために覚えておきたいペン字スキルまでご紹介いただきます。
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"書きづらい環境"は、もちろんNG!

字を書くとき、その環境にどこまで気を遣っていますか? 「書きづらい」と思いつつ、書いていませんか?

喫茶店等に入りますと、履歴書を狭いテーブルの上で書いている就職活動中らしき方をよく見かけます。丸い小さなテーブルにグラス、手帳を置いたまま、一生懸命に書こうとしています。若しくは、ソファのような椅子に座っていると、テーブルが明らかに低いなどなど。

気持ちは分からなくはありませんが、「少しでもキレイに書きたい」と思っている場合、「書きづらい!」と少しでも感じてしまうと、そこに意識が行ってしまい、字に対する注意力が散漫になってしまいます。私は喫茶店にパソコンを持ち込み原稿を書くことが多いのですが、体勢に違和感があると、やはり気になってしまうものです。まずは、自分のベストポジションで、万全の体勢で書くことを考えてみましょう。

字を書く環境を見直す

弘法は筆を選ばず…?

一般的には、字のうまい人はどんな筆でもうまく書くことができる、という意味だと思います。しかし私は、これは違うとセミナー等でお伝えしています。本当にうまい方は探求心も強く、少しでも良い、自分に合った道具を探し、より良い作品を創ろうとします。

このことわざの意味は、「うまい人は、タワシのような筆でも、それなりに工夫をして、何とかすることができる」と受け止めた方がいいですね。

問題は、私も含め、普通は弘法ではない、という点。つまり、うまくないわけです(ちなみに私は、書家ではなく、解説者なので、お手本は書家に依頼をしており、達筆の域には到底及びません)。弘法ではないからこそ、環境や道具といった要因でマイナスを作らないようにする必要があるわけです。

それでは、具体的にどのような点に注意をするか、考えてみましょう。

持ち方よりも、書きやすさと"安定"

セミナーや研修でよく、「持ち方は!?」と聞かれます。私はこれに対し、「好きなように」とお伝えします。スポーツで言えば、フォームに当たります。何十年もかかってできあがってしまったフォームを短期間で直そうとすると、どうしても書きづらくなってしまいます。重要なのは、書きたい字・線が書きやすいように各々で工夫すること、なんですね。もちろん、達筆を目指すという方は別ですが、その場合には5年以上勉強してください、とお伝えしてしまいます。

時計やアクセサリーは外す

利き手は、手首までしっかりと机につけます。そして、アクセサリーや時計は外しましょう。金属の時計が当たって痛い、だからフォームを崩す、のでは、身もふたもありませんね。そのときの目的は「きれいな字を書く」ことなのですから、ちょっと気を遣いたいものです。

腕時計を外すことも重要

紙の位置を調整し、手の位置は動かさない

続いて、書く位置です。ちょっと試してみて欲しいのですが、手の位置が身体から近いと脇が空き、離れれば締まります。このとき確認していただきたいのが"身体に対する手首の角度"です。脇が空けば、手首は外側に来てしまいます。

字を書くという行為は、ラケット競技やゴルフのようなもので、指の屈伸運動や手首の回転によって筆記具を動かす運動です。その支点がブレてしまうと、字が傾いたり、文章が曲がってしまう原因になります。さらに、身体から遠くなると、筆記具と紙の角度も浅くなりがち。いいことは何もありません。そこで、どうしたらいいかを考えてみましょう。

まず、自分の一番書きやすい、リラックスした位置を決めてしまいます。腕の長さ等にもよるのでどことは言いづらいのですが、違和感のない、自然な場所を探してみましょう。

ここで「私は、字はそこで書くんだ!」と決めてしまいます。これが重要ですね。A4であれば20センチ以上の移動があるわけです。書く場所が変わったときには、こまめに紙を移動し、自分のベストポジションで書く、という意識と工夫を忘れないようにしましょう。

机の高さを考える

少し考え始めると、机という要素も、重要になってきます。パソコンのキーボードにも同じことが言えますが、机が低すぎると手首が上がってしまいます。できれば肘は少し机よりも下がるくらいの高さがいいですね。重力で安定します。ちょっとおしゃれな喫茶店でソファに座り、膝の高さくらいしかないテーブルで字を書こう、というのは、理にかなっていないということです。

字を書くことに慣れてくると、この範囲が少しずつ広がってきます。多少位置がずれても、技術でカバーできるようになる、ということですね。まずは字を書く環境、というものに目を向け、「自分のベストポジション」を見つけてみましょう!  


阿久津直記
ペン字講師。Sin書net代表。1982年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。6歳から書写をはじめ、15歳から本格的に書道(仮名)を学び、18歳で読売書法展初入選。23歳で書家の道を辞し、会社勤め時代に立ち上げに携わった通信教育で企画・運営を行う。2009年にSni書netを設立。著書は『たった2時間読むだけで字がうまくなる本』(宝島社新書/2013年)、『ボールペン字 おとな文字 練習帳』(監修/高橋書店/2013年)など。ブログ「恥を掻かない字を書こう」