「どうせ男は巨乳が好きなんでしょ」と大半の女は拗ねている。「そんなことない」と男が言ったところで信じがたい。だってグラビアアイドルのほとんどが貧乳じゃないじゃん。エロ漫画なんか、ウリみたいな、もはや乳とは言えないような物体をくっつけた女のイラストばっかりじゃん。

まあ、もちろんニーズを加味してこういうことになってるんだろうけど、巨乳を2次元で楽しんだからと言って、現実の女も巨乳以外見向きもしないというわけではないということなのだろう。まな板に干しぶどうが乗ってるようなのが好きだと言っている男もいるようだし。それにデザイン的にやっぱりブリンブリンとたゆたっているほうが迫力があってよい、という作り手の事情もあるかもしれない。

それと同じことが女の好みにも言える。「女は面食いだ」と男が思っているほど、女は面食いじゃないのだ。だけどメディアに男を出す場合、やっぱりイケメン尊重型のつくりになる。ドラマでも漫画でもアニメでも、女の好きな男はみんなイケメンだ。

それには理由がある。メディアは夢を提供する媒体だから、見た目を重視すること。そして漫画の場合、登場人物の「顔」である程度の人格を表現しないと微妙なニュアンスが伝わらないからだ。つまり、主人公格はイケメンに描き、脇役は素朴に、悪者はブサイクに描くということだ。

そのかわいそうな扱いの筆頭が、大介さん。この物語きってのブサメンである。彼は優秀でイケメンの兄2人と比較され、子どものころから「デキが悪い、いらない子どもだ」と言われ続けた。初恋で美少女の槙は、兄の浩二と婚約している。もー人生投げやっちゃおうかと思っていたら、長男が死んで、浩二は長男の嫁と結婚した。槙がフリーになった。そこで大介は、槙に恩を売って身体を投げ出させるのだ。そのまんま槙と結婚した。

槙にとってみたら、大好きな浩二さんとは結ばれず、ブサイクと結婚するハメになってしょんぼり、という感じ。いつまでも浩二さんを想っていても仕方がないだろう。大介さん、すぐに暴力ふるうし、セックス強要するし、こりゃあダメだ。

いやちょっと待て。ホントにそうか? 槙に子どもが生まれたころの2人のやりとりがある。大介が仕事を終えて家に帰ってくると、部屋の中が荒れ放題。槙曰く「引っ越し準備をしようと思ったら逆に散らかった」だそうだ。それでも大介は怒ることなく片付けを手伝っている。そんな大介さんに向かって、「子どもを寝かしつけるから、うるさくしないでね」だと。槙め、やりたい放題、言いたい放題である。

大介さんが怒って何かするのは、決まって槙の浩二に対する思いを不審に思ったときだ。ヤキモチ爆発で暴力をふるって襲いかかるらしい。つまりなんだ、槙さえさっさと浩二さんを諦めていれば、大介はとてもよい夫で、夫婦円満のはずだったのだ。

これが「大人のためのシンミリドラマ漫画」だったら、槙は「やさしいあなたと結婚してよかった、今まで気付かない私が馬鹿だったわ」とか言って話はせいぜい2巻くらいで終わっていたはずだ。

だけどこれは、残念ながらドロドロ愛憎渦巻く津雲先生の漫画だった。誰も彼もが一人に執着せずにはいられない展開になってしまった。大介さんは、制作側の都合によりブサメンに仕立てあげられ、あんまりいい思いができなかったかわいそうなキャラなのである。

ちなみにこの作品で一番の悪者は、浩二さんとその息子の英明だな。お前らが優柔不断で取捨選択できないから、麻美かあさんが化け物に変身してしまったのだ。「事なかれ主義」は、事態を収拾することなく、問題を先送りしてことを大きくさせるだけってことなのですよ。
<『風の輪舞』編 FIN>