先日、とある取材で一緒になったカメラマンが、囲碁と将棋の雑誌撮影もやっているという話だった。そこで聞いてみたところによると、囲碁も将棋も、女性棋士はいるものの、ちっとも男性に勝てないのだそうだ。女流戦で敵なしの恐ろしい女王も、男性の中に混じると勝てて1勝。女はどうにも男より頭が悪くてなあ、と言いたい人もいるだろうが、これは単に、男女の脳みそが異なることにそれぞれ得意分野があり、その違いによるもののようである。要は女よりも男のほうが「空間認識力」が高いためだ。

人間がまだサルから発展途上だった昔、何万年も男はエサになるマンモスだの何だのを追いかけて生活していた。獲物を一心不乱に追いかけて、やっつけたらまた肉が腐る前にまっすぐにおうちに帰る能力が必要だった。おかげで男は地理や空間を認識する能力に長けているのだとか。一方で女は、子育てをしつつ近所で木の実を取ったりして生活をしていたため、言葉やコミュニケーションの能力が高いらしい。

では空間認識力を使わない、麻雀はどうなのか。知り合いのプロ雀士に聞いてみた。プロのリーグというのがあって、その上から3番目のリーグに女性が入っているので、囲碁・将棋よりも差はないだろうとのこと。

そんな話をネタに、編集者のお姉さんと「じゃあ、女が男に勝てる競技は何かあるんだろうか」という話になった。「……ハテ?」思いつかない。体力で競ったら、そりゃ何万年も動物と戦っていた男のほうが強いに決まってる。じゃあゲームなのかというと、それもどうよ。「っていうか男に比べて女は、絶対勝ちたいとかいう闘争心が薄そうだよね」という、グダグダな結論に。

しかし、あったのだ。男女が対等に戦える競技が。それが今回取り上げた『ちはやふる』の題材となっている「競技かるた」である。漫画を読んでいると、体力勝負のところもあるようなので、若干男性のほうが結果を出しているようだけれど、競技人口からいうと、ほぼ差がないと言っていいらしい。

こういう競技があったことは、少女漫画的には非常に画期的だ。なぜなら今まで、少女漫画で競技を取り上げようと思ったら、どうしても下記のようになっていまっていたからだ。

1.『エースをねらえ!』方式
イケメンコーチにいろいろ教えてもらう。できる男に女が引っ張ってもらうのは、男女の普遍的な憧れだけど、現実では一般人が偉そうに講釈たれてたりして結構鬱陶しいことが多い。テニスとかな。

2.『愛のアランフェス』方式
イケメンとスケート競技などでペアを組み、切磋琢磨しながら愛をはぐくむ。ただし現実にはあまり遭遇しないシチュエーションなので、憧れ的要素が強い。ちなみに社交ダンスは、女に触りたい中年男性が押し寄せていると聞いてドン引き。

上記二つは、男女に上下関係があるか向かい合ってるかで、競い合ってはいない。しかし男女が同等となると、
3.『ちはやふる』方式
男女が同じ土俵で頂点を目指す。女が男の憧れになったりできる。

という、女性上位の構成が可能なのだ。囲碁だ将棋だと、卓上ゲーム漫画が花盛りの最近、「なんか漫画で新しいブーム作ろうぜ」と考えて持ってきた題材っぽいけど、これほど少女漫画で取り上げるべき素材もなかなかなさそう。

ふと考えてみると、最近、めっきり恋愛漫画のようになっていてピンクな流れの『ガラスの仮面』は、マヤと桜小路くんが同じ舞台で競ったりするので、3のパターンと言えそうだ。まだまだ女が家事するしか将来がなかったような時代に、かなり画期的な漫画だったと言えそう。

そしてこの『ちはやふる』、人気に恥じない面白さ。絵も上手くて笑いのテンポもいい。説教的要素もたっぷり。エロシーンなし。『はだしのゲン』並みに教室に置いておきたい作品である(私が子どものころは、『はだしのゲン』は唯一学校で読んでよい漫画であった)。

それにしても『君に届け』といい、最近の少女漫画はまたエロなしが復権しているようであるね。よいことだ。
<つづく>