昔、スンゲー好きだった男は、とってもダンディだった。年下だけど。なんかおっしゃれなバーに連れて行ってくれ、葉巻を吸い、「女とセックスするなら、男が責任を持たなければいけない」とか言う。ある日突然、テレビ局のディレクターから電話がかかってきて「初恋の人の行方を追うという番組を作っているのだが、あなたのことを探している女性がいるので、ぜひ番組に出てほしい」と言われれば、「誰だか知らないが、そんなことをテレビ番組に頼むような女には興味がない」と言って出演を断る。筆者は「人と約束をするということは、その人の時間を自分にもらうと言うことだ」などと至言をたくさん教えてもらい、ずっと彼を「お父さん」と呼んでいたものだ。年下だけど。

まあ大抵、こういう男のことを女は嫌いじゃないと思う。バーや葉巻はともかくとして、テレビ局から出演を依頼され、ヒャッホーと引き受ける男を積極的に大好きな女は、少数派のはずだ。ついでに言うと筆者は、ブログとかTwitterでウホウホ近況をダダ漏らす男もあんまり好きじゃない。ま、これは個人的趣味かもしれないけど。しかしメールに絵文字を多用する男が苦手な女は結構いるようである。

そこで『月の夜 星の朝』の遼太郎くん。彼はなんと一般人のくせに、超アイドルの杉田聖子が主演するドラマの相手役として出演することにするのだ。しかしこのままでは少女漫画のヒーローとしてはいただけない。「聖子ちゃんと競演? マジっすか、キスシーンもあんの? ウッハーやるやる!」とか言ってしまったら、読者からはカス扱いである。だけどヒロイン・りおにドラマ出演をさせるため、それも初恋の相手・遼太郎くんと競演という設定を敢行するためには、どうしても彼に映画に出演してもらう必要があったらしい。

というわけで、どうするかといえば、そのドラマ原作の主人公は遼太郎が初恋の相手で、主人公は白血病で死んでしまい、それを悲しむ親からのたっての願いで仕方なく遼太郎は出演を引き受けたとか、途中でりおとのラブシーンがあることがわかり、突然出演を嫌がったりし始めるとか、なにやらやたらいろいろ「ホントはやりたくないんだけど」というオーラが次々に出てくるのである。めんどくせえなあ。

にもかかわらず、一般人の自分(ヒロイン)が途中から有名人に成り上がるのは大好きらしい。「ひょんなことから」ヒロインがアイドルになったり映画に出たりという話が、これまたごまんとある(『悪魔の花嫁』とか)。ただし、やる気満々だと読者はまたドン引きなので「懇願されて仕方なく」とか、まあいろいろ言い訳をしてるのだが。そういう意味では、男にしろ女にしろ、目立ちたがり屋には女は冷たい。よくアイドルなんかが芸能界に入ったきっかけを「原宿で勧誘されて」とか「友達やら姉妹が勝手にオーディションに応募して」のとか言ってるのは、間違いなく自分からノリノリで芸能界入りした奴に女は冷たいからだ。でも心の底では「アイドルになって、チヤホヤされたいなあ」と、どんなブスでも思っているらしく、男を含めて他人が芸能界に入っていい思いをするのは許さないけど、自分は偶然そんな目にあっちゃうわけである。

女のずるいところは、途中から男が一般人がアイドルに成り上がるのは、全然お気に召さないようなのに、「もともと芸能人の男」との恋愛は超オッケーなことだ。少女漫画では、ヒロインに横恋慕する男がアイドルだの(『ときめきトゥナイト』とか)、アイドルそのものと恋愛する(くらもちふさこの『A-Girl』)だのは、世の中にごまんとある。アイドルや有名人から惚れられることは、自分のステイタスを(努力なくして)上げることになるからである。『NANA』なんか、なーんの努力もしないで相手の男のステイタスをどんどん上げていく女の話だったじゃないか。

ということから何がわかるかと言うと、すでに付き合ってる男女がカラオケで楽しむのはいいけど、これから落とそうとする女をカラオケに連れて行ってアピールするのは鉄板でやめたほうがいいよ、という話。

で、冒頭で男のTwitterを否定しといてなんですが、kana1204という名前で各種コラムや仕事のアップ情報をツイートしてますので、これ見て追っかけていただけると幸いでございます。
<つづく>