個人的には、漫画は単行本2~3巻くらいのものがストーリー的にはまとまりがよくて好きだ。でも、作品への吸引力は、長編もののほうが強いことがある。4巻が終わってんのにまだ導入部、みたいなヤツだ。設定を説明しきるまでは、ジェットコースターのように面白い。次々と謎が提示されては情報が小出しにされていって、次はどうなるんだろう、これはどういうことなんだろうと、単行本発売が待てなくて雑誌を買い始めちゃったりする。

で、一定の情報を出し尽くしたあと、長編漫画は少女漫画と少年漫画で特徴的な違いが出てくる。少年漫画の場合は、「力」に寄ったストーリー展開になることが多いようだ。主人公と的がどんどん強くなっていって、戦っちゃあブレイクして、仕切り直してまた戦う、みたいな。わからないことといったら相手の強さくらいなもので、元から作ってあった設定は全部説明済み。あとは戦うのみである。

一方で少女漫画は、「感情」に寄ったストーリーになる。もう新たに出せる情報もないから、なんかムードを盛り上げて、登場人物たちが泣いたり笑ったりするのだ。

『輝夜姫』もまさにそんなお話展開だ。序盤は息もつかせず、いったいなにがどうなっているのか、新しい情報を心待ちにしたものだ。そのうち秘密が全部わかると、感情論みたいになってくる。後半になればなるほど血しぶきが舞ってたような気がするな。そんななか、突如としてお笑いシーンてんこ盛りなのが17巻だ。重苦しい全27巻に、ふとそよ風が吹くような感じである。

基本的にはこの漫画、由、碧、聡、ミラー、サットン、聡、楓、守といったイケメンたちが全員、主人公の晶に恋心を抱くという設定なんだけど、サットンが突如媚薬を盛られて、ミラーにちょっかいを出し始めるのだ。一方でドタバタ殺戮やってる合間に、もう一方ではサットンがサカってミラーを襲い出す。サットンはバスケのトップ選手で、ミラーは人気俳優。ちょっとマッチョな黒人が可憐な美青年を襲う、の図である。読者大サービスにはみんな大喜びしたことだろう。

面白いのは、サットンとミラーという、男同士……BL系のネタが、コメディになっているところだ。例えば晶が男に襲われたときなんか(襲ったといっても相手は一応、婚儀の相手なので、かなり八つ当たりなんだけど)、相手の男を滅多刺し、怪我人続出で血みどろのびっくりお涙展開になっている。まゆがレイプされたときも、もちろんシリアス大問題で大騒ぎだ。とてもコメディノリにできる展開ではない。

だけど、絡むのが男同士なら大丈夫。同じ未遂でも、襲われるのが男だったら笑いにできるのだ。男には性に対する重苦しさがつきまとわないからこそ、カラリとジョークにできてしまうのである。

ミラーを襲おうと悶々考えているサットンは、こんなことを考える。「大丈夫大丈夫、奴は男だから別にキズものになってヨメにいけなくなるわけでなし」。実際に襲われちゃった男が、心にどういう傷を負うのかはわかんないけれど、女としては別に他人事なんで大してシリアスにならないんである。これでもしサットンが女の晶を襲うとしたら、お涙大暴れの大シリアス展開になったはずである。

そういえば、晶と由のエッチシーン、晶がニコニコ笑ってるのがちょっと違和感があったな。さんざん愛のないセックスの話を出したあとだったので、「愛する人とのは楽しいよ」ということなんだと思うんだけど、日本社会ではこういうとき、切ない顔するのがお決まりなので、なんか愉快な感じに見えてしまうのだ。まあ、女の性に関する問題はいろいろ複雑だってことで。
<『輝夜姫』編 FIN>