恋愛なんて、思い込みの産物だ。相手の顔を見た瞬間に妄想がブクブクと膨れ上がれば一目惚れになるし、何気ない一言や行動で妄想が湧き上がれば恋に落ちる。「この人を好きになってみよう」と念じれば、だんだんあばたもえくぼになってくるし、嫌いになろうと思えばなにもかもが気に入らなくなる。運命だったとか、どうしようもできないとか、そんなことは思い込みなのだ……と、信じてやまないのだけれど、そんなことが『ホタルノヒカリ』に描いてあって嬉しかった。ヘヴンヘルプス。

蛍は、マコトくんとなんやかんややったあと、殿という同僚と、なんやかんややろうかという話になる。すごく気が合って、一緒にいると楽ちんで、遊び相手としては最高だ。好きになってみようかな、彼にしようかなと思っているうちに、だんだんとボルテージが上がってくるのだ。いや~、だから恋愛感情なんて、そんなもんなんだって。

目的、攻略、達成と、メリハリと結末を楽しむ少年漫画とは違って、少女漫画はディテールをとにかく楽しむ媒体である。だから、話が始まった途端に、「蛍とこいつはくっつくな」というのがわかっても、べつに残念な感じではないのだ。うちの母なんか、サスペンスドラマを見すぎて、開始5分で犯人がわかるそうだが、相変わらずサスペンスが好きだ。女というのはそういう生き物なのだ。

登場するやいなや犯人を言い当てるように「初っぱなから最後にはこいつとくっつくのか」とわかるのだが、じゃあそれまでどんなことがあるのかしら、というところを楽しむのである。そしてそのディテールがこよなく面白いのが、少女漫画として名作なのだ。

そして恋愛と両立するのがとても難しいのが、「自立」である。男がいると、そして相手が金持ちだったりすると、すーぐ結婚したくなったり、一緒に住みたくなったり。女が自立を選ぶと、どうにも男と上手くいかない話は、『リアル・クローズ』なんかでも登場済みだ。この作品でも、蛍はいったん自立を目指して、結婚相手と別れる。

いや~これ、現実にどれだけあるか。目の前に両想いの男がいたら、なにを捨てても別れる勇気がある女は、ほぼいないんじゃないかな。だって大半の女は、若いうちに男をとっ捕まえないといけないという脅迫にも似た思考があるからさ。逆に、別れ際に「あなたのことは好きだけど、自分にはやりたいことがあるから」とかなんとか言われた場合、単なる言い訳の可能性が高い。

蛍の細かいマヌケっぷりは激しく女子の共感を呼び、ホントの話っぽく受け入れられていることと思う。一方で、5年も経った後に男と復活したり、別れた男からヨリを戻そうと誘われたり、「あったらいいなあ」という夢がギッシリ詰め込まれている。この辺は、読者をいい気持ちにさせるためのフィクションのはずだけれど、読み手としてはあたかもそれが現実で、しょっちゅう起こる出来事かのように思ってしまうだろう。自分のことは現実的に、男のことは妄想爆発に描くのが、人気少女漫画の秘訣といったところでしょう。

ところで最終巻は、なんだか『新世紀エヴァンゲリオン』の最終話みたいだなあと思うんですが、どうでしょうか。
<『ホタルノヒカリ』編 FIN>