テニスのジュニア選手に、ダニエル太郎くんという人がいる。日米ハーフのイケメンで、現在はスペインで腕を磨いている最中。日本人選手には珍しく、めちゃくちゃ大らかで、ふにゃふにゃしたしゃべり方がまた若者らしい。身長も高いし、将来は日本を代表する選手になってくれることと思う。

ちなみにダニエルは名字、太郎は名前。ダニエルはともかく、太郎はイマイチ少女漫画的にはそぐわない名前である。そんなこと言われても本人からしたら、「だからどうした」という話でしょうが。しかし大抵の少女漫画の登場人物は、音や形にめいっぱいこだわった、宝塚みたいな名前をしているのである。そもそも女というのは人の名前にこだわる習性があるのかもしれないな。

で、サン=ジュスト。少女漫画で大人気の実在する人物である。彼が少女漫画で人気なのは、ひとつは名前があるだろう。ルイ・アントワーヌ・レオン・フロレル・ド・サン=ジュストというのがフルネームだそうだ。ソラで言えるんだから私も結構、サン=ジュスト好きなのかもな。

サン=ジュスト人気のもうひとつの理由は、彼のあだ名である。「死の大天使」。なんかわかんないけどかっこよさそうだ。それから、冷静で理論的なところ。女はクールな男に弱いのだ。なぜかって、無駄にサカってなさそうだから。

というサン=ジュスト。『マリーベル』では、マリーベルのお兄さんとして登場する。最近の漫画では、お兄さんが妹にサカっちゃってまあ大変、という話も多いが、これは昔の少女漫画なので妹・マリーベルにはサカりません。じゃあ誰にかというと、マリーベルの宿敵のライバル、ジャンヌにである。

なんやかんやでジャンヌと因縁が深いマリーベルは、彼女を永遠のライバルとして、演劇(と男)を争って火花を散らす。『ガラスの仮面』でいえば、ジャンヌは亜弓さん、マリーベルはマヤである。マリーベルを介してジャンヌと知り合ったサン=ジュストは、ジャンヌに無理チューを何度も(!)かました後、とうとう無理矢理いたしてしまうのだ。

それが、「『マリーベル』~その2」のイラストのシーンなのだけれど、だいたいなんでボディーガード風にいつもジャンヌのそばを離れないフィリップは、ジャンヌが男の部屋に夜忍んでいくという大変デンジャラスなときに限ってくっついていかないのだろう? 少女漫画で男女がいたすときって、周りのお膳立てがすごいんだよな、うらやましい。母親がやたら放任で高校生の男女を同じ屋根の下に住まわせて平気とかさ。というわけで気の強いふたりは、周りにお膳立てをしてもらって、やっと思いを遂げることができたのだ。ありがとう、フィリップ。

ちなみに、このときジャンヌはマリーベルへの言づてをサン=ジュストに託す。そのころ、マリーベルはイギリスでロベールと一緒にいたのだが、サン=ジュストは簡単な手紙をマリーベルに送る。それをチラ見したロベールは、勝手にサン=ジュストとマリーベルの仲を勘違いして、マリーベルを冷たくあしらうのだ。少女漫画のヒーローは、いつだって主人公を理解して守ってくれなければいけない。なぜなら、現実の男は女に対して理解がないから。そうしてくれないと夢が見られないのだ……っていうか本当に、本当にロベールってダメな男だよなあ。

だいたい、ロベールはイギリスの貴族様なんだけど、アルファベットでロベールと書くと「Robert」。英語でフツーに読んだら「ロバート」のはずなんである。でもまあ少女漫画的には「ロバート」は、ひげの生えたごついおっさんのイメージなので(なんでだろう?)、ロベールじゃないとヒーローを張れないだろ! ってことなのかな。

まあ結論としては、ロベールは名前くらいしかかっこよくないけど、サン=ジュストはちょっと運が悪かっただけで(ジャンヌとの恋愛には大きな障害があったのだ)、中身も名前も外見もかっこいいよねってことで。
<『マリーベル』編 FIN>