先日、サウジアラビアの男の子と話をしていて、わ~文化が違う、と思ったことがひとつ。彼は、「一人暮らしをする人は問題がある人だ」的なことを言うのである。大人になって一人で暮らしているという人がいると、「この人はよい家庭に育っていないのか」と思うらしい。独身である限り実家に住むのが「よいこと」なのだそうだ。日本ではそれをパラサイト(ちょっと死語かなあ)という。どんなに熱烈に思い慕っていただいても、社会人になって大きな理由もなく実家に住んでいる男(家に問題などがある人は別)は、ちょっとごめんだ。自分の世話くらい自分でできる人じゃないと、後々面倒くさそうじゃないか。まあ今のところ、そういう方に熱烈に思い慕っていただく機会もないので問題はないんだけど。

『坂道のアポロン』に出てくる少年二人には、母親がいない。いないっていうか、一緒に住んでいない。まずこういう状況は少々萌えだ。だって『嫁姑 もう我慢も限界です』なんてことは先ず起こりそうにない。心に傷を負ってそうだから、自分がそれを癒してあげたら浮気の心配がないもんな。で、まあそういうアンニュイな男二人が、ジャズをとおして友情を深めていく話が『坂道のアポロン』である。

大抵の少女漫画で男が複数出てきたら、その中のひとりは女役だと思ってよい。『エル・アルコン』のお小姓ニコラスとか、『BANANA FISH』の英二とか。この『坂道のアポロン』では、薫さんが女役っぽい。いや、彼はなんかブスな女(だってかわいくないんだもん)を好きになってるので普通にストレートなのだが、女っぽいのはその描かれ方だ。

人との付き合い方がわからずにストレスでゲロ吐きそうになるし、すーぐ焼き餅焼いてかんしゃく起こすし、べそべそ泣くし、描かれ方が生々しい。千太郎がほかの男と仲良くし出すと、プンスカ怒って無視をしだす。千太郎への思いは、まるで「不良先輩への怖いような憧れ」みたいだ。こういう陰険なことをするのは、イカニモ女っぽい。悩みの数が他の登場人物の比ではないくらい細かく描かれ、読者に「こいつに共感してくれ」と言っているがごとくである。恐らく彼はこの後、切磋琢磨して立派な人間になるのでしょう。それが少女漫画の主人公の役目だから。

このように、全然ヒーローっぽくない薫さんであるが、これが激しく萌えなのである。ひとつは、お母さんがいないから。親戚んちに預けられて、淋しい生活を送っている。萌えだ。もうひとつは、ピアノが上手。ピアノやギターだのが上手なのって、萌えだ。手指が繊細そう。いや、ギターはちょっと自己陶酔っぽい感じがするから、やっぱりピアノかな。そして勉強ができる。これは個人的趣味だけど、やっぱりお勉強のできる男子が理性的っぽくて好きだ。そして偏差値の証明的メガネが好きだ。メガネにかかる前髪が好きだ。

そして、この草食人間の薫さん、人とうまくコミュニケーションが取れなくてゲロ吐くくらい気が弱いくせに、好きな女には不意チューをするのである。その勇気に喝采だ。太陽の光を浴びたら灰になっちゃいそうな草食男子ですら、少女漫画では好きな女に不意チューを食らわすのだ("チューを食らわす"って、いかにもがっぷり食いついた感じだね)。しかも相手の女は千太郎が好きだってわかってるのに。少女漫画に登場する男子たちはこのように、いくら「草食」でも行くときゃ行かなきゃならないのだ。非常に厳しい世界である。

しかしここでハッキリと言おう。「無理チューに失敗なし」だ。好きな女子には思いあまってするがよい。ただし、よっぽど会ったばっかりとか、口内衛生に問題がある、酔ったおっさんが若い女子にガップリいく、ついおっぱいもんじゃう、大変なところに手を伸ばす、ということがなければ大丈夫。書いてて意外と条件がうるさいことに気づいたけど、オールクリアしてたら、ミントでも口に突っ込んで行ってこい! ただし自己責任でネ。
<つづく>