嘘をつく人って、すごいなと思う。あっちではこっちを悪く言って、こっちではあっちを悪く言って、上手く立ち回っているつもり。いや、それでホントに上手く立ち回っていて、神様くらいしかその人が嘘をついているとバレないならいいよ。だけど大抵の場合、嘘にはどこかに綻びがある。

嘘をつくのは、その人に弱さがあるからだ。常日頃、自分に正直に、そして自分を律していられたら、他人に嘘をつく必要はないのだ。母親に「宿題やった?」と聞かれて、素直に「やってない」と言えればいいし(よくないけど)、すでに済ましていたらまったく問題ない。でも自分に不利な状態を隠そうとして、「宿題出てないもん」とか「もうやったよ」などと言って今遊んでしまうのは、素直に自分の弱さを認める勇気もなく、自分に甘くてやりたくないことをやらなかったからだ。

もしくは、自分の行動すべてに自分で責任を取っていれば、嘘をつく必要はない。人に言えないことはしないと、決めればいいだけ。マドンナが昔、ブレイクする前にヌードモデルをしていたことがバレたとき、「私の人生で恥ずべきことは何一つしていない」と言って、そのスキャンダルを一蹴したことがある。胸を張って生きる人は美しいんである。

さて、『目を閉じて抱いて』の樹里は、びっくりするほどの嘘つきである。「周くんを返してください」と花房に直談判しに行って、まんまと挑発され、花房や七臣とセックスを楽しんで帰ってくる。今までしてもらったことのないような奉仕の連続に、翌日は仕事も手につかない。花房との関係は続けたい。でも、花房と結婚したいかと聞かれれば、「オカマバーに勤めている人なんて、体裁が悪いのでイヤだ」から、周をつなぎ止めておきたい。

もちろん、花房と関係したことは、周やその友人の高柳には内緒だ。でも、二人に花房や七臣と関係したことがバレると、「レイプされた」「脅された」と言い出す。しかし、二人に奉仕されて喜んでいる録画を見たと高柳が言うと、今度は「実は私と花房さんは愛し合ってるの」と言う。それは自分でも危うい嘘だと思ったらしく、高柳に「私と寝ない?」と挑発するのだ。津也子という彼女がいる高柳と寝れば、口封じになると感じたからだ。

で、花房と関係ができた後に、周を誘ってセックスしたことは、花房には「周くんに無理矢理されたの」だ。そのほうが、かわいらしい女だというイメージを作ることができると思ったのだ。嘘に嘘を塗り固めて、結局ますます周の心は樹里から離れていく。それにしても、簡単に嘘をつく人ってすごいよな。「バレるかもしれない」って思わないのかなあ。

この樹里という女、作者の悪意が存分に詰め込まれた感じで、ここまで悪質な女ってどれくらいいるのかな? と思うけれど、似たようなのならゴロゴロいるだろうなと思う。自分の伴侶を肩書きで決め、自分に都合の悪いことにはフタをして、「花房さんは今私に夢中なの。でももう30歳になるから、生活傾けてまで溺れるわけにはいかないじゃない?」と女性用計算機で計算して、キープは周、美味しい思いをさせてもらうのは花房と使い分けるのだ。男って女が二股かけてもあんまり気付かないみたいだから、上手に天秤駆けながら計算機かちゃかちゃやってる女は、少なくないはず。

樹里のように「おしゃれと結婚と親兄弟と彼と友だち」しか興味のない女には賞味期限があるから、若いうちに誰かになんとかしてもらわないと困るのだ。こういう話が漫画になって表現されるのは、こういう女に引っかかる男がごまんといるからだ。「ホントに男ってこういう女に簡単に引っかかるのよね!」という女の叫びが、形になってるのである。かといって、女全員が直情型で理論的な考えをしないというわけでもない。そういうことって、女同士で分かち合っていても意味がないわけで、つくづく男性にはもっと女に対する理解度を高めてほしいなあと思うのである。
<『目を閉じて抱いて』編 FIN>