さて今、筆者は迷っている。出張で大阪へ向かう新幹線の中でこの原稿を書いているのだが、途中下車して京都で降りるか否か……。なぜかと言えば、『生徒諸君!』の続きで書こうと思っている部分が手元になく、京都国際マンガミュージアムにはあるからだ。というわけで、この先の内容がなんとなくぼんやりしていたら、「行かなかったんだな」と思ってくださいな。

前回まで、ナッキーが主人公であるという特権を乱用して、いかにひどいヤツかを述べてきた。ナッキーがいい人アピールするために、友人たちはバタバタとトラブルに見舞われる。いるよな、口ではいいこと言っておいて、実は諸悪の根源だって人。ナッキーはまさにそのタイプだ。健気にナッキーを慕う友人たちが哀れで哀れで。

このナッキーというヒロイン、珍しく主人公のくせにメインのイケメン(飛島さん)に振られているが、その他の男にはモテモテだ。基本的に少女漫画は、主人公が不特定多数の男から好かれる話でできあがっているので不思議ではないんだけど、こういう筋書きのおかげで、「自分の周りの男は全員私のことを好きになっちゃう」と思って育っちゃった幸せな女も多いのだろうな、と思う。

そして諸悪の根源ナッキー様。話の終盤で、とんでもない大事件を起こす。なんと、悪たれ団の団員(?)、沖田くんと岩崎くん、両方いっぺんに好きになっちゃったらしいのだ。二兎追って全然OKなのが少女漫画。ナッキーもがんばり給え。で、どっちか、より自分に優位なほうを選べばよい。しかしそれをよしとしないところは、さすが熱血漫画である。

現実に、自分の女友達が、仲間の男を「両方好き、どっちでもいいや」とか言って色目を使ったら、腹が立って仕方がないと思う。『花より男子』で、つくしが花沢類と道明寺との間でフラフラしてたときなど、ネットカフェのブースを壊すかと思うくらい胸くそ悪かった。酔っぱらってんじゃねーぞ、オルァ。

しかし、いい人の舞ちゃん、初音ちゃんは、涙を流しながらナッキーに問いかける。「アンタ、二人いっぺんに好きなんじゃない?」。大事件、たいへんよ、かわいそうなナッキー、自分を責めないで! みたいな感じである……えーと、なんというか、単にこれって八方美人っていうかー、恋多き女っていうかー、「で、どっちにすんのアンタ?」程度の話だと思うけど。べつにどっちとも付き合ってるわけじゃないんだからさ。

なんというか、物事が事件になるか、悲劇になるか、喜劇になるか、それは物事そのものじゃなくて、それに関わる人間の対応なんだな。もしかしたら、なんの問題もないことが、人によっては大事件になることもあるのかも知れない。この場合、「二股かけやがって、この女は!」とはならず、なんだか涙、涙のかわいそうな話になっている。うっそ~、いいなあ。筆者も複数の男を好きになって「しまった」とか言って泣いてみようかなあ。

で、その結果どうなるかというと、沖田くんと岩崎くんのどちらかが、勝手にいなくなるんである。どうやっていなくなるかは、マンガミュージアムでのお楽しみだ。よかった、これでナッキーは悩む必要がなくなったネ! もう、うらやましいこの主人公優遇主義。

しかしここで思うのは、大抵の少女漫画では、主人公に言い寄る男はみんな金持ちで、貧乏な主人公はどちらを選んでもよかった、ということだ。『花より男子』でも、『ロリィの青春』でも、なんにしたって主人公の玉の輿には代わりがなかった。

しかし『生徒諸君!』では、常軌を逸するほどの金持ちはナッキーの実家であり、彼女に言い寄る(そして彼女が惹かれる)男どもは、二人とも貧乏そうな感じである。この場合も、ナッキーはどちらを選んでも問題なさそうだ。金があれば何も問題ないかと言えば、そんなことはないけれど、あれば問題が小さかったり少なかったりになるものなんだな。

あーあ、私も金持ちの主人公になりたいなあ。そしたら、ナッキーみたいにやりたい放題でっせ。
<『生徒諸君!』編 FIN>