以前、恋愛専門の探偵事務所にお勤めの女性と話をしたことがある。先日ちょっと問題になっていたけれど、パートナーの不倫相手を別れさせるというサービスをやっているところだった。不倫相手(つまり依頼者のライバル)に新しい異性を接近させ、奪い取って別れさせるのだが、接近する相手のデータを調査してから取り組むため、これが結構な確率で成功するらしい。

また利用者は、相手を取り戻したいとサービスに申し込むくらい思い詰めているわけで、申し込みの時点でかなりの修羅場になるようである。で、探偵事務所お勤めの女性に「結婚願望はありますか?」と聞いたら、「もーう、おなか、いっぱい」だそうだ。恋愛っていうのが甘ったるい幻想ではなくて、感情と感情のぶつかり合い、そして惹かれ合う気持ちというのが、運命なんて甘酸っぱいものじゃなくて、計算できてしまう簡単なものかというのがよくわかる話であった。

『シャルトル公爵の愉しみ』に、そんな一節がある。「貴族は逆らわない」での話だ。ここには、二組の夫婦が登場する。ジェーンとダグラス、オリヴィアとジェームズだ。ジェーンは、か弱くてはかなげな女。夫のダグラスからの暴力に耐えている。そのジェーンを好きなのが、幼なじみのジェームズだ(奥さんがいんのになあ)。一方でオリヴィアは、かなり快活な女性である。ジェーンの家には借金があり、ジェームズは貧乏貴族だったため、お互い金持ちの相手と結婚したらしい。ジェーンとジェームズは、名前が似てるだけあって、想い合ってはいるものの、一緒にはなれない悲しい運命なのであった。

で、話の途中、ダグラスが死んでしまう。これで、ジェーンは借金と婚姻関係からフリーになった。ジェームズにとってはチャンスである。夫のジェームズが、ジェーンに心を残していることを知っているオリヴィアは、夫にこう提案する。「ジェーンと一緒になりたいなら、別れてもいいわよ」。すると夫は、なんとしたことか「きみがそう言ってくれるなら、この城をきみにあげて、僕は無一文になってジェーンとやり直す」とか言い出すのだ。

このやろう! と読者は思うのだが、オリヴィアは言う。「あら、でもあなたが無一文になったら、ジェーンはあなたの元に来ないわよ」。オリヴィア曰く、ジェーンは金と男が好きで、結婚前から(そして今も)、金のある男と寝ては恐喝をしているというのだ。そしてオリヴィアは、カラカラと笑いながら提案する。「でもあなたより裕福なダグラスを選んだのだから、ジェーンはお金の方が好きみたいね。だから私から別れたことにして、あなたに慰謝料を払うわ。そしたらジェーンはあなたと結婚すると思うから」。

こうもあっけらかんとオリヴィアは離婚を受けて立っているものの、そもそもはオリヴィアがジェームズに惚れ込んで決めた結婚らしい。それにしても、ジェームズという男、昔の女が忘れられなくてウジウジ、金も持ってなくて、女を見る目もない。オリヴィアは、こんな男のどこに惚れたのか。主人公のヴィスタリアは、こう解説する。

「オリヴィアはロマンチストだから。白馬に乗った王子様と同じくらい"貧乏貴族"というものに乙女心をくすぐられたのでしょう。ジェーンを含めたジェームズのすべてが、オリヴィアにとっては新鮮で飽きのこない玩具みたいなものよ」と。

夫のすべてを許して想い続けるオリヴィアの恋心は、こんな、なんというか夢のない理由でもたらされているのであった。人を恋する理由なんて、解析してみたらこんなものなのである(まー、漫画の中の話ではあるけどさ)。またそれだけではなく、可憐ではかなげなジェーンが、実はめっちゃくちゃ腹黒い女だというのも興味深い。そんなうわべにまんまと引っかかって、主人公のひとり、アンリは大変な目に合わせられている。「マジで男は見る目がなくてな……」という、女のため息が聞こえる話である。

明るくサワヤカに恋愛の話を語りながら、なかなか奥が深くて、非常に楽しいお話でした。それにしても、いいね。想像を絶する金持ちって。なんだか夢があってさ。
<『シャルトル公爵の愉しみ』編 FIN>