みなさんは、「好みの異性のタイプ」をズパっとひと言で言えますか? いや、なんか最近その「ひと言」を発見したので嬉しくて。私の好みの男性はズバリ「教養のある人」である。どうも今まで、「勉強ができる人」「頭のいい人」では、足りないとこだらけだなと思っていたのだが、「教養」、これだ。「教養」とは、漢詩をそらんじたり、達筆だったりして、社交の場で知的会話を楽しめる人格者ということらしい。ただものを豊富または深く知ってるだけのKYは教養人ではない。人とのコミュニケーションも上手く図れる知識人という感じ。まあそんな奴がいたら、大抵の人は嫌いじゃないだろうけどさ。人当たりがよくて話が面白いんだから。

で、最近、人に会うたびに「教養ってなんでしょうか」とかふっかけているのだが、そこでひとしきり感激した答えがこれだ。「僕は、教養とは『知識と知識の間を埋める潤滑油のようなもの』だと思う。人との会話を楽しんだり、理解を深めるのには、知識だけではダメで、『潤滑油』が必要でしょう」とのこと。その「潤滑油」は、人としての経験の深さであったり、文学や歴史の知識であるわけだ。ちなみに昔の人は漢詩や和歌をそらんじて共有できることが上質な会話を楽しむネタであったわけだが、それって今で言うとガンダムネタやドラクエネタってことだよね。感慨深い。

男子と話をしていて、たまに感じるのが、「知識が自分のものになっていない」とか「受験の知識が過去の遺物になっている」ということだ。こういう人たちと話していると、嗚呼もったいないと思うのだが、彼らが「潤滑油」を持っていないのだと考えると、なるほどしっくりくる感じ。

『砂時計』で言えば、藤くんは、深く悩んでトライして(超進学校を休学して水商売してみたりするし)、あらゆる面で潤滑油で潤ってる。一方で大悟は、さっぱり乾燥派で知識のネタも潤滑油も少量な感じ(勉強もできないみたいだしな)。やはりそうした匂いは読者も感じるらしく、藤くん人気は非常に大きいのだそうだ。そしてもう一人、「惜しい!」という男性キャラが登場する。杏の瞬間婚約者、佐倉さんだ。

佐倉さんは、どうやら大手商社にお勤めで、仕事はできるが冷徹な人間だ。まあ少女漫画では「仕事ができる=人間味がない」というのがセオリーなので、よくある人物像ではある。杏と佐倉さんは、お互い仕事帰りの終電で偶然知り合い(いいねえ、こういうのは夢があって)、何度かデートをしたところで、佐倉さんの海外勤務が決まり、「結婚しないか」と誘われる。要は、大して深い知り合いでもないのに、結婚することにしちゃった2人なのである。

そして、案の定問題が起こる。佐倉さんの部屋で、女のピアスが発見されるのだ。ユーミンの世界だね。その上、その女が「彼と別れて」と言いに来る。そしてそのネタで言い合いになる佐倉さんと杏。杏は「あなたは人を冷たく切り捨てるところがある」と指摘し、「『強さ』は『優しさ』の上にある、私はある人からそう教わった」と言う。そしてそれが最後っぺになってしまうのだ。結局、佐倉さんに「昔の男にたたき込まれた正論ひっさげて、人に偉そうに意見するんじゃねえ」と言われ、その場で婚約解消されてしまう。

読者は、これを読んでどう思うのだろう。すまん、よくわからん。個人的には私は断然、佐倉さんの味方なのだ。「人を切り捨てる」というのは、佐倉さんの信念に関わる部分だ。そうなった理由も佐倉さんは丁寧に説明している。「俺の父はへらへら弱い人間で、母は努力もしないでグチばかり。だから弱さは嫌いだ、人をダメにする」。だからそういう人間は俺には必要ないのだと。そう、人の考えには、必ずそうなる「理由」がある。赤の他人が偉そうに説教して、簡単に考えを改められるようなものじゃないのだ。そこが気に入らないなら、ほかの男を選べばいい。佐倉さんも「そういう男と結婚を決めたのはお前だろ(何を今更文句言ってるんだ)」と言っている。その上、杏が言うのは人から「教わった」正論だ。自分で考え、自分の意見を持つ佐倉さんにしたら、話をする気にもならないに違いない。

もちろん、人と人が一緒にいるには、お互い努力が必要だし、話し合いも不可欠だ。だけど、考え方の軸となる部分は、相手を選ぶときの指針となることで、それを決めた後に改めさせようとかいうレベルではないのだ。その場で婚姻届を破棄するのはやり過ぎだとは思うけど、解消されても仕方がない失態だったと思うのだ。

少女漫画は、とにかく「相手を改めさせて更正させて、感謝される」のが好きだ。だからこのシーンが、佐倉さんの悪者ぶりをアピールしたいのか、杏の試行錯誤の一例なのか、作者の意図がどうなのかは量りかねるのであるが、偏っていようが冷たかろうが(懐に入ってれば優しい人のようではあるし)、自分の信念をしっかりと持っているという部分で、佐倉さんは私にとって、藤くんに次ぐ「教養人」なのであるよ。
<『砂時計』編 FIN>