錦織圭という選手が、久々に日本のテニス界を湧かせたことは記憶に新しい。その前には松岡修造という、あつっくるしい男性が奮闘していた。しかしその30年も前に、グランドスラムで優勝するという快挙をなした日本人選手がいたことをご存じだろうか? 宮城淳選手だ。

宮城さんは、早稲田大学出身であったため、定年間際まで同大の庭球部顧問をされていた。私はこの宮城先生が大好きで、早稲田で試合があるときには先生にメールを送りつけ、「いつ、いらっしゃいますか?」と予定を聞き出し、「同じ日に行きます!」とつけ回していた。会場に着けば、きょろきょろと宮城先生を探し出し、見つければちゃっかり隣に座る。

しかし、ふと考えてみると、もしも私が男で教師で、宮城先生が若い女性だったら……大問題であるはずだ。「早大教師、教え子にストーカー!」みたいな。男女間では圧倒的に力の差があること、欲情爆発するのはもっぱら男であることから、「弱者だから許される」という事象が、しばしばある。先生や周囲が、私のストーキング行為に寛大なのは、そのためだろう。女に生まれてよかったと、つくづく思う。

ところで絵画の世界では「美少年」は、清純の証、女性性への憧れなんだそうな。ギリシア彫刻などを見るとホーケイばかりで、かわいそうになあと思っていたが、あれもそうした清純の象徴らしい。へーえ。

というわけで『ぼくの地球を守って』。お話は、団地に住む女子高生・亜梨子(ありす)と、隣に住む小学生・輪くんとのなんやかやで始まる。いたずらっ子の輪くんは、登場するや亜梨子にちょっかいを出し続ける。内気で不思議ちゃんな亜梨子は、この輪が苦手で仕方がない。そのうえ、輪は亜梨子の弱みにつけ込んで、なんと婚約までしてしまう。小学生と女子高生の婚約って……!

まあ、私などからすると、女子高生がたぶらかしたか、子どものお遊びかと思いたいところだが、この漫画の登場人物達は、非常に日々まじめに生きているらしい。「えぇっ! 婚約!?」と仰天してみせ、真剣に「婚約破棄」を提案したりしている。熱い、熱いよ君たち……!

しかし、この婚約騒動、よく考えてみれば、輪が小学生であるから成り立つ話である。もしも輪が、隣に住むおっさんで、亜梨子にさかってちょっかいを出し続け(まーこの場合のちょっかいは、少々生々しいものになりそうですが)、嫌われてるにも関わらず、挙げ句に婚約を強要したとしたら……。真剣に生まれ変わりを夢見た読者は、半数以下になったはずだ。輪が亜梨子を慕い、結婚を強要するのを見て、読者に寒気が起きないのは、輪が少年という、いかがわしさを連想させない清純な生物であるためだ。

また輪は、シ=オンという超クールなイケメン宇宙人の生まれ変わりで、過去の記憶が覚醒すると大人の思考力を持った子どもという、『BANANA FISH』のアッシュもビックリな超人に変身する。しかし、輪はその驚異的な頭脳を、周囲にひた隠しにする。……さて、その方法とは。「全問正解したテストの答案を、いくつかわざと答えを変えて先生のところに持って行って、『間違って丸がついてました』と言って訂正させる」のだ。

えーと輪さん、全問正解して、自分の能力がほかに知られるのが困るなら、なぜ最初から間違った答えを書かない……? それじゃあ、ポロリと手帳を開いて、高級車に乗る自分の写真を見せる男子みたいな! デート中、自分をアピールしようと思って、"偶然"とか"さりげなさ"を装って、そういう仕込みをしていった男子はいっぱいいるはずだ!

まあ、それはいいとして、なんというかこの漫画、全体的に"わざと"感が漂っているのだが、その最たる事件が、モク=レンとシ=オンの例のヤツなのである。この続きは次回。