最近、少々考えていることがある。若いうちは、女よりも男のほうが奥手である場合が多そうだが、その理由だ。異性に触れるのもドキドキ(好きな相手じゃなくても)で、上手いこと喋れないなんていうのは、ダンゼン男のほうが割合が高そう。

私は女なので、ここから先は想像だけど、それはズバリ男のほうがエロだからではないか。男で、エロ媒体を目にしたことがないという人は、おそらくほぼいないんじゃないかと思う。生身の女に触れる前に、そういう情報だけはバッチリ仕込まれており、あれやこれやと余計な妄想大暴走の末、結局どうしたらいいのかよくわからん、という頭でっかちな状態になっているような気がする。

一方で女のほうは、男ほどエロ媒体に触れる機会がなく、頭の中にあるのは少女漫画に出てくる去勢男子である。触ろうが男子の布地が薄かろうが、小鳥のさえずりくらいに涼やかだ。女が初デートで男に迫られて、ビックリして飛んで帰って来たとか、石を投げれば当たるくらいの確率でよく聞くが、いかに未経験の女がエロに疎いかが伺える話である。

そんなことを悶々と考えながら、自分がいたいけな中学生のころに読んでいた漫画『ときめきトゥナイト』を読み返してみた。主人公・蘭世は、オオカミ女と吸血鬼のハーフ、魔界人であるが、中学のクラスメートのイケメン・真壁くんにメロメロで、猛烈アプローチを続けている。それに加えて、恋のライバル・神谷さんとドタバタやる話だ。

大人になって初めて読み返したけれど、めちゃくちゃおもしろかったな。まず、あれほど男子に対してスキスキと積極的な主人公というのが珍しい。今まで取り上げた作品の中でも、『炎のロマンス』くらいしか思い当たらない。90年代に入るまで、とにかく主人公の女は無駄に元気がよかったのだが、この恋愛に関する積極性も、そのひとつだろう。

それから、目に星、ギャフン、てへっみたいな、往年の少女漫画ラブコメ王道といった感じの、軽いノリもよい。「いいんだよ漫画は、所詮漫画なんだからさ、軽く笑えればそれで」みたいな潔さがよい。まあこのノリは、連載が続くにしたがってだんだんと薄れ、少々話に重厚感が出てくるのであるが。

そんな元気いっぱいの作品であるが、もちろんヲトメ萌えはあちこちに散りばめられている。おもしろいのは、登場する男たちだ。蘭世が好きなのは、真壁くん。ボクサーを目指す、クールな少年だが、家は貧乏である。

引き替え、蘭世に熱烈恋をするのは、魔界の王子様アロンと、アイドルの筒井くん。すでに述べたように、王子様、アイドルは、恋愛の相手として最高に虚栄心を満たしてくれる相手である。つまり図式はこうだ。自分が恋の相手として選ぶ男は、なんの権力もない男だけれど、自分は権力者に好かれる、価値のある女だと言っているのだ。

女は、金のある男を選ぶ女にはめっぽう冷たい。「打算的だ」「心がない」などと、羨望混じりに批判する。『MARS』の零が、とんでもない金持ちの息子だったということが暴かれるのは、物語の最後のトラブルとしてだ。「純愛」を主張するのに、財力、権力は足かせにしかならないのである。

『ときめきトゥナイト』でも同じ手法がとられている。蘭世が真壁くんを好きになったとき、真壁くんは貧乏人の息子だった。「彼の人柄を好きになったの」というわけだ(あー、もちろん、顔も好きでしょうけど)。しかし話が進んで真壁くんと、なんとなーく上手く行き始めると、実は真壁くんは魔界の王子様だったことがわかるのである。つまり、女は「好きになる男性は心で選ぶ」けれども、「それが金持ちだったらいいよな」と心から思っているのだ。

合コンとかで、自分の預金額の話をしてしまう男子の話を聞いたことがあるが、それよりもまず、気が利くとか優しいとか、柔和な部分で勝負して、あとから「実は俺、金持ちなんだよー」というほうが、女の虚栄心を刺激すること間違いなしだろうな。
<つづく>