もの書き仕事を始めて干支一回りほど経ちましたが、実はこのたび、初のエッセイ本が出版されました。『30歳 女を鍛える転び学』(グラフ社/1,260円)という本です。女性のための人生論みたいな感じだけど、ぶっちゃけ中身は私の過去の恥ずかしい話がてんこ盛り。漫画と文章でつづる、暴露本です。爆発的に笑えるそうなので、ぜひ買って読んで、友達に勧めてくださいませ。

さて、恥ずかしいと言えば、エロ漫画。女向けに登場する「いや、やめて」は、「恥ずかしい」くらいの意味である。ちょっとエッチな命令をされた女の「いや、やめて」は、まあ景気づけの台詞ととらえてよい。しかし男向けの「いや、やめて」は、女からすると、「マジで勘弁してほしい」ものが多い。確かに「恥ずかしい命令」のものもあるんだけど、女からすると「恥ずかしい」よりも、嫌悪や拒絶のほうの割合が多くなるのだ。その違いはいったい何なのだろう。まずは『監獄プレイダーリン』のディテールからそれを考察してみよう。

葵くんは令夏に、登場早々からこんな提案をする。
「俺の彼女になれよ。エッチ1回につき10万やるよ」と。

ちなみに、先ほど見かけたエッチ相手の女はセフレなのだとか。「なんてひどいことを言うのかしら」などと令夏はブツクサ言うわけだが、ここがまた少女漫画らしいところだ。

ここには2つほど「葵くんは実は令夏が好きなんじゃねーか?」と想像させるヒントがある。ひとつは、セフレじゃなくて彼女になれ、と言うところ。エッチがしたいならセフレでいいはずのところを、わざわざ「彼女」と言ってるわけで、令夏のことをそれほどぞんざいにしていないことが伺える。

そして「10万やるよ」という条件。これは、父親が抱えた借金返済を手伝おうという令夏への助け船なのだ。「バイトしたって高が知れてるだろ」ということで、実はとてもすばらしい提案をしてくれているわけだ。

このように、直接「好きだ」とか言わなくても、言外になんとなーく葵が令夏を大事にしてくれていることがわかる。こういうことは漫画を読んでいる読者にもなんとなーく伝わるものだ。こういう前提があるうえで、葵くんは令夏の大変なところをなでたり触ったりして、サービスをしてくれる。初恋の相手で、イケメンになってて、気持ちいいことをたくさんしてくれる葵くんに、令夏は心惹かれていく。

「葵くんはひどい人だわ」などと令夏は言っているが、それこそこれは景気づけの台詞に過ぎない。本当に「ひどいこと」というのは、一発やって音信不通とか、妊娠したら冷たくなったとか、便器のようにただ欲望のはけ口にされて、支払いがされなかった場合を言うのだ。しかし悲しいことにこの手の不義理の話は世の中にタケノコのようにたくさんあって、女にとっては他人事ではない場合が多い。つまりエロ漫画に少しでもこの手のにおいがすると、女は純粋にセックスやその描写を楽しめないのである。

以前から、ヲトメ萌えとは「好意そのものではなく、主人公に対する熱い気持ちの表れ」だと書いてきた。愛情さえあれば、セックスの後になにがあっても冷たくされることはないだろう。不愉快な思いをするリスクが大幅に減る。女が相手の愛情にこだわるのは、そのためなのだ。

このところひとしきりエロ漫画を読みあさって、おかげさまでエッチな描写に何とも思わなくなってしまって「ああ、そうきたか」くらいしか感じないのだが、それでも男性向けのエロ漫画で気分が悪くなるのは、上記で述べたような本当に「ひどい」話になっているものがあるからだ。

私は、スポ根漫画だろうがエロ漫画だろうが、大衆を相手にする作品ならば、なにがしかを読者に啓蒙するものであるべきだと思っている。『愛と欲望の螺旋』で、必ずコンドームをつける泰我兄さんをネタにしたけれど、男性向けにこそこういう描写をしてほしいと思う。とまあ、ちょっとまじめな話になったところで、葵くんと令夏。2人にこんなやりとりがある。

「俺のこと好き?」
「大キライ!」
「俺のこと好き?」
「大キライ大キライ大キライ!」
「俺には全部、スキって聞こえる」

というわけで、自信をつけた葵くんはまた強引にイイコトをしてくれるのだが、こんな風にズカズカと事を進めてくれたら、女は楽でいいよなあ。
<『監獄プレイダーリン』編 FIN>