さて、よくファンタジーとかSFとかを人に勧める場合、「SFだけど、ものすごく奥が深いんだよ!」とか言って、そのもののベース(ファンタジーとかSFとか)ではなく、心の機微とか人間関係とかに焦点を当てる場合が多い。ね、だから読みなよ、と。

この『愛と欲望の螺旋』もその方式。泰我兄さんはどえらい過去を持っていて悩んだり苦しんだり、巻が進むにつれて登場人物たちの心理描写が大げさになってくる。はじめは、エロ行為の複線であったはずの心理描写だが、巻が進むにつれてエロシーンは少なく、また単調になり、アンニュイな人間関係がクローズアップされていく。しかし根底はエロ漫画。どうも真剣なセリフが似つかわしくないときがある。

行為の最中、感極まってまあやが叫ぶ。
「兄さん、私を離さないでね……?」
すると兄さんは、うっすらとほほえむ。
「離れる? できるものか……こんなに深く……つながれて……」

通常の告白シーンなら感動なんだろうけど、やってる最中にそんなこと言われると……。確かに今、つながれているようですが。兄さん、アンニュイなくせに機転が利くじゃないか!

そして兄さんは、うっかりとものすごい爆弾発言をしてくれる。まあやを好きな龍我に向かって、泰我は自分とまあやがどんなことをしてるのか、まあやがどんな行為を喜んでるのかを聞かせてあげるシーンがある。まあ通常、身内の性生活って知りたくもないもんだけど、そこはやはりアンニュイな過去があるからか、兄さんは全然へっちゃら。あんなことしてこんなことしてと、逐一報告した後、「まあやは体調がよければ挿入でもいく」とか言って威張ってるのだ。

ちょっと待て。あんなに盛り上がって毎日楽しそうにやってるのに、「体調がよければ」という条件付き! いやいや、これこそが真実。あれほど盛り上がっちゃってるまあやですら、「体調がよく」なければ、ダメだと。あれだけ盛り上がっちゃってるんだから、毎回すごくてとか言っちゃってもいいようなものなのに、ふと女の作者らしい本音が飛び出しましたね。「俺は毎回彼女をいかせてるぜ」とか思ってる男性よ、それは女の演技である可能性がバカみたいに高いので注意である。

そして泰我兄さんの、まったく理性を失わない、徹底した避妊ぶり。すばらしい。どんなに美しくつながれているシーンでも、かならずそばにはコンドームの袋が描かれている(あまりに律儀なので、ついエロシーンが始まると、どこに袋が描かれているかウォーリーのごとく探してしまう)。まあやを襲った最初の夜ですら、きちんとつけているようだ。もうやる気満々で部屋から準備して出て行ったわけだ。学校で盛り上がって思わずやっちゃったときでもしっかりつけていたようで、やる気満々で家から準備して持っていったわけだ。それにしても学校なんかでゴミ出して、どうやって処分するんだろう。まあ、なんにしても避妊に対する作者のこだわりを感じるのである。これも男が作者だったらやらない配慮であろう。

そして兄さんはまあやに、「お前は変わってるな」と言っては微笑む。これも「お前以外いらない」系のリップサービスで、この作者の漫画には似たようなシーンがよく見られる。どうも日本人は、「ちょっと変わってる」ということに憧れるようである。ものすごく変わってると不思議ちゃんだけど、ちょっぴり変わってるのは個性らしい。「お前は変わってる」だから「お前以外いらない」というわけだ。みんなと同じなら、ほかの人でもいいってことになっちゃうからね。

とまあこの漫画、作者が女性だけに、ここそこに女からのメッセージが散りばめられていて、そこも非常に興味深い。パケット定額コースに入っている方は、ぜひ携帯で読んでみていただければ。
<『愛と欲望の螺旋』編 FIN>