青池保子の漫画には女があまり出てこないのも特徴だが、『エル・アルコン』にもやはり女は2人程度しか登場しません。しかももちろんこの2人、ティリアン様のお手つきに。

1人目の気位の高いお姫様、ティリアンの出世に使えると踏まれ、まんまと利用されます。姫を乗せたティリアン様の戦艦、あわや沈没かという嵐を乗り切るのに大活躍したティリアン様は、ぐったり疲れて艦長室で寝ていました。そこへ姫がやってきます。自分に気があると踏んだティリアン様は、ヲトメ心撃沈の「無理矢理チュー」をかまし、手中に落ちたところで「ドアをしめて もう一度ここへ来なさい」などとセクハラ命令を出すのだ。

どんなに強気な女でも、強引な男には弱いもんだ。ほら、イケメンだとか高学歴だとかでもなく、理由が全然ないのになぜかモテる男っているでしょう? 大抵モテる男って強気で強引なのだ。根拠がなくたって、世の中「ビリーブ・マイセルフ」な奴が勝つのである。ティリアン様は、まさにビリーブ・マイセルフな上に実力のある奴なのだ。

ティリアン様は冷徹なので、やることやってる最中に「私が彼女らに求めるものは、一時の慰み、それだけだーーーー」とか言っちゃって、そんなんでよく最後までできますね、というような冷静ぶり。

誇り高いフランス女海賊を征服したときも「敗者は敗者らしく 勝者に屈服すべきですよ」とか言って、ちゃっかり身体も征服してしまう。そういえば少女漫画で大人気のチェーザレ・ボルジア(今、惣領冬実が「週刊モーニング」に不定期連載してますね)も、どこだかの街を征服した際、そこの領主の女と3日3晩引きこもってひんしゅくを買ったとか塩野七生が書いてたな。デキるイケメンは、こういうことをしていいという特権があるようだ。

彼らは女んちに押し入っていって、さんざん荒らしまくったうえにテゴメにしてるわけで、かなりひどい奴だ。いや、ティリアン様はひどくない。なぜなら、やることやっといて、女に対してメチャクチャ敬意を払っているからである。邪魔になった女を始末するのに「苦しくない」場所を選んで刺してやったり、女海賊の誇りを最大限尊重(テゴメにする以外は)してやったり、なんとなく筋が通ってる感じがするのだ。

誰だって見下され、馬鹿にされるのは我慢がならないだろう。最低限、テゴメにしちゃった女に対して敬意を払っているのは、実は現実の男にはあまり見られない態度で、好感すら持てちゃう。ティリアン様は目標を達成したら、それ以上のひどいことはせず、丁重な扱い。さすが骨太の話ばかり描く作者だが、女性だけある。男の作者だったら、こういう気遣いがあったかどうか……。

この漫画、少女漫画ではあるけれど、「目的」→「攻略」→「達成」という少年漫画のセオリーに堂々乗っ取っているので、男性にも非常に楽しめる作品ではないかと思う。手に入るならば、是非に。

ところで、宝塚化記念といいつつ、掲載が遅くなったのは、現物がなかなか手に入らなかったためである。10年以上休載していた同作者の『アルカサル』が完結したりして、注目を集める絶好のチャンスだったのだから、ここぞバーンと宣伝・増刷すりゃーいいのに、機会損失もいいところだな。
<『エル・アルコン-鷹-』編 FIN>