これまでヲトメの妄想についていろいろ語ってきましたが、そもそも大抵の"物語"というのは、現実にはないけれど、あったらいいなあというものでできています。例えば少年向けのアクションもの。指先ひとつでダウンしたり病気が治ったりする秘技なんか、実際にはないでしょう。あるかもしれないけれど、あんなに強力じゃないはず。

例えばスポ根もの。「こりゃもう、違うスポーツですよ」というファンタジースポーツが大半を占めますね。そしてAV。実際、女教師を監禁できたり、女教師に保健室で誘われたり、滅多にあるもんじゃありません。そもそもそんなお色気教師もそこらにいないだろうし。どれもこれも「もっとこうだったらいいな」という妄想なわけです。というわけで、この『覇王愛人』に描かれている内容も、ほぼすべて現実にはないことと言ってよい。

香港マフィアの大ボス・黒龍さんは、愛しい愛しい主人公の来実を誘拐するものの、全9巻中4巻までまたしてもガマンを繰り返してくれます。おい、いったい何のためにわざわざさらってきたんだ。しかし、いったん手をつけると、今度は堤防が決壊したかのような猛獣ぶり。そして黒龍さんは、こんなことをおっしゃいます。

「俺なしじゃいられない体にしてやる」

ど、どうやって……?

「今日のお前には泣きわめいてもらわないと。俺に貫かれる喜びに」

ものすごい自信です。黒龍さんはよほどのテクニシャンのようで。

しかしそれはダテではなくて、彼の自信はしっかり来実の体に裏打ちされているようなのである。大ボスの女ということで(と読者サービスのため)、来実はそれはよく敵の男に襲われるのだが、その男たちが来実の体をいじくって、これまたすごいことを言う。

「キツく責めるといい反応をするじゃないか」

もう、少女漫画のセリフの範疇じゃありません。

「イヤがればイヤがるほど、その体を敏感に反応させる体にされてるぞ」

一体どんな技を仕掛けられたら、そんな体になるのか想像もつきません。

これは一体どういうことか。そこから見えるのは、「セックスがこんなにいいものだったらいいのになあ」という女の願望なのだ。いや実際、そんなにいーもんだったら、三日三晩続けたっていいですよ。でもあり得ないだろ、そんなこと。

そんなことないぜ、と反論されたい男性は多いでしょうか。しかし、今から述べるコレは、否定されるに違いない。ピーチ姫のごとく何度も敵にさらわれる来実。しかし実際にやられちゃうことはありません。なぜかというと、危なくなると黒龍さんがスチャッと助けに来るから……というのもあるけど、この悪者たち、ものすごーく前戯が長い。

「犯してやる」とか言ってさらったんだから、さっさとやっちゃえばいいものを、あれこれここそこ、ご丁寧に来実を楽しませてくれるのだ。なんてフェミニストな良い人たちなのでしょう。そんなこんなしてるうちに、黒龍さんが助けに来てくれるんである。これはもう、来実にご奉仕してるとしか思えません。そんな人の良い悪者、いますかね?

というわけで夢の詰まったおとぎ話『覇王愛人』、次回はその物語構成について語りたいと思います。
<つづく>