今回は、1980年初期に『LaLa』(白泉社)で連載されていた、成田美奈子の『エイリアン通り』(コミックス全8巻)をテーマに、ヲトメ心をひも解いていきたいと思います。

『エイリアン通り』といっても、どこか遠い星の調査団員が月で地球を見張っていて、恋愛してみたり病気になってみたり絶滅してみたりするといったような、異星人が出てくるSFではありません。タイトルの読み方は「エイリアン・ストリート」。舞台はアメリカ・ロサンゼルス。ビバリーヒルズに住む、シャールくんとその仲間たちのお話です。

さて少女漫画というと、「どうせ白馬に乗った王子様が出てくるんだろ?」と未だに思っている男性はいるかしら。いるかもしれませんな。何しろこの話も、白馬じゃなくて黄色いビートルだけど、白人の王子様(アラブの王族だけど)が主人公なのだ。

ところで女はなぜ、白人の王子様に憧れるのでしょう。玉の輿に乗りたいのなら、王様のほうがいいじゃないですか。金も権力も王様のほうが遙かに持ってる。それなのに、なぜ親のスネっかじりのほうを選ぶ?

それはふたりの外見が原因。王様って、口髭だのあご髭だのが生えているでしょう。あくまでイメージだけどさ。髭ってのは男性の象徴で、個人的にはなんだかすげえ性欲余ってそうな感じがするのだ。余った性欲が口元から生えてきたみたいな……。髭生やしてる男が全員性欲ムンムンかどうかは知らないけど、ナマの男に慣れていない少女にとっては、ちょっと男を強調しすぎで恐い。

一方、王子様といえば、金髪、碧眼、端整な顔立ち、ほっそりした体つき。金髪、碧眼から想像するのは、柔和、レディファースト、優しさですか。色素が薄いと、どうしてもやわらかいイメージになるからね。端整な顔立ちからは知性を、ほっそりした体つきからは運動神経の良さを想像します……いいことばっかり!

そのいいとこ取りをしたのが、シャールくん。アラブ人なのに柔らかそうな金髪、15歳なのに大学に通う知能、ほっそりしていてバスケが上手いダムダム。なのにイヤミじゃなくてバカができるひょうきん者。徹底したレディファーストで、めっちゃくちゃ優しい……カンペキだぁ……。

だいたい、作者・成田美奈子の描く男はカンペキなのが多い。よっぽど男を知らないのか、逆に現実を知ったうえであえて夢を売っているのか。こんなの読んで育っちゃったら、男がホントにこんなに良い生き物なのかと思ってしまうじゃないか。

そしてやはり少女漫画には選択する楽しみがなくてはならない。シャールくんはモテ男の横綱。8割の少女がシャールくんに夢中になるでしょう。すると必ず、あまのじゃく的な人間っているもので、「私はマツジュンよりも大野よ」とか「流川よりもリョータがいいの」というようなのが出てくるものだ。

そういうニーズにもしっかり応えており、少々大人の男性が良ければセレム、モテなそうなので安心したいならジェルくん、不良っぽいのが好きならルシフィン、というようにラインアップはしっかりしている。まあ、女がハアハア言いながら読むには非常に適切なお話なのだけれど、それだけではなく、謎解きあり、人情あり、バイオレンスありで、非常に上手い構成だ。

シャールが一体何者なのか、読者はドキドキしながら読み進めていったことだろう。今読み返しても素で面白い作品であったよ。次回はネタバレしつつ、具体的な解説を。
<つづく>