クラッカーってどんな音?

お祝いの時などに鳴らす「クラッカー」の音を聞いたことはあるだろうか。おそらくほとんどの人が、「パァーン!」という小気味良い破裂音を思い浮かべることだろう。しかし、本コラムでもすっかりおなじみとなったTOAの担当氏によると、それはクラッカーの本当の音ではないのだという。それどころか、普段我々が聞いている音のほとんどが「本当の音」ではないというのだ。

これはいったいどういうことなのだろうか。今回は「聞こえている音」と「本当の音」の違いについてお話ししよう。

現実の音には「尾ヒレ」がついている

結論からいうと、我々が普段聞いている音というのは、「本当の音」(元の音)に「残響」が加わった音なのである。

そもそも、音が聞こえるというのはどういうことなのかを考えてみよう。音源(楽器とかクラッカーとか、物同士がぶつかったとか)で音が発生すると、その音は耳に向かって直進する。そして耳に到達すると「聞こえた」ことになるわけだ。このとき聞こえる音は「本当の音」といえるだろう。

ところが、音源で発生した音は、すべてが耳に向かって直進するわけではなく、全方向(同心球状)に拡がっていく。そして重要なのは「耳に向かわなかった音」だ。そのままどこかに消え去ってしまうわけではなく、近くの壁などに当たってから跳ね返り、耳に入ってくる。これが、よく知られている「反響」(エコー)というものだ。

この「反響」は、余計な経路を通ってくるため、「本当の音」(耳に直接入ってくる音)よりも遅れて聞こえてくる。しかも、「反響」は一通りではない。近くの壁に反射してくる音もあれば、遠くの壁に反射してくる音もある。または、あちこちの壁に反射してからやっと届いたり、別の家具などに反射して聞こえてくる音もある。それらの音は、通ってきた経路の長さがちょっとずつ違うから、遅れかたもちょっとずつ違う。こうして、実際には無数の反響がちょっとずつズレながら耳に入ってくるわけだ。このような、「無数の反響がちょっとずつズレて聞こえてくる音」を、「残響」(リバーブ)という。

というわけで、我々が普段聞いている音というのは、「本当の音」に、あちこちで反射してきた「残響」が加わった音なのである第2回第3回の「スタジアムの音響」を覚えておいでだろうか。スタジアムでも、このやっかいな「残響」が発生しており、TOAの音響設計では、その「残響」を排除するために最大限の工夫がなされていたわけだ。

ここでちょっと脱線するが、「反響」と「残響」の区別がわかりづらい、という人もいるかもしれない。そういうときは、「山」と「風呂場」を考えてみるといい。山で「ヤッホー!」と叫んだときに、しばらくして「ヤッホー!」と一つ戻ってくるのが「反響」で、風呂場で「ヤッホー!」と叫んだときに、「ヤッホーォォォォゥ」と語尾につく「ォォォォゥ」が「残響」だと考えるとわかりやすいだろう。この「ォォォォゥ」という「残響」は、無数の「ヤッホー」の「反響」が少しずつズレたものの集まりというわけだ。

普通の部屋に残響なんかないのでは?

しかし、「あなたは常に必ず残響付きの音を聞いている!」と言われても、にわかには納得できないかもしれない。「風呂場で残響が残るというのはわかるけど、普通の部屋だったら別にエコーがかかってる感じもしないし、残響なんか無いのでは?」と思う人も多いことだろう。

そんなときは、「じゃあ本当に残響がなかったらどうなるか」を体験してみるのが一番だ。といっても、実際にそれをやるのは非常に難しい。「残響が発生しない」ということは、理想的には「周囲になにもない」ということだ。ほとんどの物体は、多かれ少なかれ音を反射してしまうからである。

それでは、どこか広い平原の真ん中に立つか? いやいやそれでも、「地面」という「巨大な一枚の反射物」が存在していることになる。地面の影響まで排除するには、非常に長いハシゴ(数m程度では音が届いて反射してしまう)を立てて、そのてっぺんに行くしかない。しかし、そんな「出初式」みたいなことをするのは現実的には不可能だ。また、残響のない環境で音響の実験をしようと思っても、機材の配置すらままならない。

うーん、いったいどこに行けば「本当の音」を聞けるのか? TOAに聞いてみよう。

「残響のないところで音を聞いてみたいんですけど、そんな場所ありますかねえ?」
「弊社の中にあります」

……もっと早く聞けばよかった。ともあれ、筆者はクラッカーを握りしめ、神戸にあるTOA本社に向かったのである。

そこで案内された「無響室」で、クラッカーのとんでもない正体を知ることになる。音のまったく響かない「無響室」とは? そして、逆に音がとんでもなく響く「残響室」で聞いた「豪華絢爛クラッカー」とは? 動画付きでお送りする次回、乞うご期待!

無響室でのクラッカー実験。果たしてクラッカーの本当の音とは?

取材協力:TOA株式会社

1934年創業、業務用音響機器と映像機器の専門メーカー。業務用音響機器とは、駅の案内放送、校内放送やホール音響など、公共空間で使用される拡声放送機器、業務用映像機器とは、防犯カメラやデジタル録画装置などのセキュリティ用途の商品を指す。1954年、「電気メガホン」を世界初開発、選挙用のマイク装置で事業の基礎を築く。現在では、音の入り口のマイクロホンから、音の出口のスピーカーまでのシステムを取りそろえ、あらゆる公共空間で事業活動を行なう。企業哲学は「機器ではなく音を買っていただく」。企業サイトはこちら