連載第2回の今回は、中国で1966年から毛沢東が行った権力闘争・大衆運動「文化大革命」に関連するポスターを写真集やネット画像という形で収集しているフリーライターの牧野武文さん。全く思想的なものではなく、これらのポスターの「アート」としての価値に着目して、収集をしているという。

「文化大革命」に関連するポスターを写真集やネット画像という形で収集しているフリーライターの牧野武文さん

「アート」としての文革ポスターに関心

――「文化大革命」当時のポスターを集めているということですが、何か思想的な背景はあるのでしょうか。

これだけは強調しておきたいのですが、社会主義や共産主義、毛沢東主義には全く興味もないし、共感もありません。ただ、「アート」として、文化大革命の際に作られたさまざまなプロパガンダポスターに魅かれるものがあるのです。

――きっかけはなんだったんでしょう?

15年前に中国に初めて行った時に、上海で「強盗するよりは株で儲けよう」というスローガンを中国語で書いた横断幕を街で見かけて、「すごく面白いな」と思ったのがきっかけです。堂々とそんなスローガンを横断幕にして、しかも真っ赤な布地に大きく書かれているその目立ちぶりが、衝撃的だったのです。

そこで、こうしたスローガンの基をたどると文化大革命にいきつき、その当時のポスター群がアートとして強烈であることに気づいたのです。

――確かに中国の街を歩くと、いろんなスローガンを書いた幕などがそこかしこに掲げられていますよね。その中でも、牧野さんが、文化大革命当時のポスターが芸術として優れていると感じる点はどこにあるのでしょうか。

私は当時のポスターの中でも版画が最も好きなのですが、「赤と黒」の2色で構成されたシンプルで力強い色使いに魅かれるものがあります。写真集などを見ると、このシンプルさと力強さが、文革が終了すると同時に変化していく傾向にあることが分かります。だんだんカラフルに、現代的になってくるのです。

当時の中国の最高峰の芸術家が「プロパガンダポスター」を作製

――文革時のポスターがそのような特徴を持ちえた理由として、どのようにお考えですか?

文化大革命では、知識人が徹底的に弾圧されたのですが、このポスターを作るためには、多くの知識人や芸術家が総動員されたことに理由があると思います。プロパガンダポスター作製にあたったのは、当時の中国の最高峰の芸術家だったわけです。

――ポスターの文言、つまりコピーはどうでしょうか。

漢字の持つ力を最大限活用していると思います。漢字一つ一つにこめられた意味が深い。日本人は同音異義語などで分からなくなったら、ひらがなやかたかなにするという手段もあります。ですが、中国人は徹底してふさわしい漢字を選ばなければならない。そういう意味では、漢字を使うという点において、日本人の文化のルーツの一つは確実に中国にあることを実感します。

――ポスターはどのように収集していますか?

写真集はAmazonで1冊5000円ぐらいで買えます。また、中国に行って、当時のポスターなどを絵柄としたトランプが1個100円ぐらいで買います。あとはネットでポスターの画像を収集します。

――すでにどれぐらい収集しましたか?

写真集は4冊英語のものを、トランプは三国志のものもありますが、約30個。デジタル画像は1681枚収集しました。

写真集とトランプ

コンテンツ系コレクターにとっては、お金のかからない時代

――かかったお金はどれぐらいですか。

今まで10回ぐらい中国に行きましたが、その渡航費や宿泊費などを含めると総計で300万円ぐらいでしょうか。ただ、コンテンツそのものにかかった費用はたいしたことはありません。今は、eBayなどもあるし、コンテンツ系コレクターにとっては、非情に安価でコレクションできる時代になっているというのが感想です。

従来のコンテンツ系コレクターと違うのはそこじゃないでしょうか。

中国で買ったという切り絵

――他にも社会主義や共産主義の国はありますが、文革時の中国と比べて、プロパガンダポスターに芸術的な観点から見て違う点はありますか?

キューバのポスターはセンスがあってしゃれています。旧ソ連のポスターは、ちょっと堅い。その点、中国のポスターは漢字と赤と黒の配色によって、やはり力強い。大衆の血を沸き立たせするように作られています。ずっとみていると吸い込まれそうになる。

――芸術性は、大衆を動かすために利用されたわけですね。

ポスターの写真集やデジタル画像を見ながら思うんです。いくら芸術性が高いからといっても、なぜこんなもので簡単に洗脳されてしまったのか、人間って何なのか、って思います。

逆に言えば、人間ってスローガンとかポスターとかに簡単に洗脳されちゃうもんなんだなぁ、と。これは決して人ごとではなく、自分たちにも当てはまると思います。簡単に洗脳されちゃんですよ、人間って。という風なことを思いながら、お酒をちびりちびりやりながら、写真集や画像を眺めるんです。

――日本も例外ではないと。

そうだと思います。

――本日は貴重なお話、ありがとうございました。