名称変更なるも血統は変わらず

もはや旧聞に属する話題だが、OS Xの名称が次期バージョンから「macOS」に変更される。もちろん読みは「マック・オーエス」、Macであることのアイデンティティとオペレーティングシステムであることを折り込んだ命名だが、これが初めての名称変更でないことはいうまでもない。

Apple製品に搭載されるOSは、NeXT社買収により「血統」が変わった。おおまかにいえば、ジョブズ復帰前が「システムX」系(漢字Talkの絡みもあってこう呼びたい)、復帰後が「OS X系」だ。開発期間の都合上、OS X系の製品がリリースされるまではシステムX系の血脈が維持されたが、やがてNEXTSTEP/OPENSTEP由来の「Mac OS X」に完全移行する。カーネルやプロセス管理機構など基盤部分の設計は大きく異なり、Carbonという緩衝材は用意されたものの基本的に互換性はなく、両OSはオペレーティングシステムとしてはまったくの異種だ。

今回、「OS X」から「macOS」への名称変更が正式に発表されたが、技術的見地からはどうでもいいこと。以前のように血統が変わったわけではなく、カーネル(xnu)および各種APIはOS Xのまま、コード名の命名ルール(カリフォルニア州の名所)にも変更はない。基調講演で説明があったとおり、名称に含まれる「OS」の位置合わせというマーケティング的な動機があっただけと理解したい。「OS X」という名称は消えるが、血統は変わらないのだから、とやかく言う話ではないだろう……「OS X」を名前に戴く当コラムとしては困った話ではあるが。

OS Xだけ「OSの位置」が違ったから統一した、という言葉以上に深い意味はなさそうだ

こんにちはAPFS、さようならHFS

現在OS Xでメインのファイルシステム「HFS+」は、約30年前に基本設計がスタートした技術。前項でいうところの「前の血統」に連なる技術ということになるが、NEXTSTEP/OPENSTEPで利用していたファイルシステム「UFS」はリソースフォークをサポートしないなどの事情があり、早い時期からHFS+をメインとする方針が固まっていたようだ。祖を同じBSD UNIXとするFreeBSDは、その後64bitの「UFS2」へと移行していくが、OS XのUFSはサポートが打ち切られるLionまでファイルあたりの最大容量が4GBのまま続いており、HFS+の採用は暫定措置ではなかったことがわかる。

そして、今回のWWDCでは次世代のファイルシステムとして「APFS(Apple File System)」が披露された。ジャーナリングやFusion DriveなどHFS+の機能を継承しつつ、暗号化機能のネイティブサポートによるファイル単位での暗号化、64bit i-node番号のサポート(HFS+は32bit)、新しいCopy-On-Write機構の導入によるクラッシュプロテクション、Sparseファイル(連続する空データがある場合に物理的なディスク消費を回避する機能)のサポートなど、最新の技術を盛り込んだ。

HFS+もボリュームの容量そのものでは当面不足しないほど大容量をサポートするが、この時期に新しいファイルシステムを投入したことの意味は、Appleらしい「先手」ではなかろうか。差し迫った問題はないにせよ、技術的なトレンドがはっきり見えているからこそ先回りして対策を講じておく。USBの採用やAppleTalkの廃止など過去を振り返っても、Appleのやり方に変わりはない。2017年には、iOSやwatchOSなど同じ血統のOSもAPFSをデフォルトのファイルシステムに採用するというから、かなり以前から計画していたことなのだろう。

ところで、「前の血統」で標準のファイルシステムだった「HFS」が、OS X El Capitanを最後にサポート終了されるという。HFS+からAPFSへの移行より、こちらのほうがよほど不思議に思える。

現在のApple製品に採用されているファイルシステムと関連技術。それらすべてを継承しつつ発展させたものが「APFS」だ

来年中には、macOS/iOS/watchOS/tvOSにおけるデフォルトのファイルシステムとして採用されるという

QuickTimeの完全な終焉

数カ月前、Windows版QuickTimeのサポート終了が話題になったが、特に驚く話でもない。OS X Mavericks(v10.9)がリリースされた時点で、QuickTimeとQTKitフレームワークが非推奨とされていたし、メディア再生系の機能がiOSでも採用されているAV KitおよびAV Foundationに移行することは、開発者に周知されていた。開発者でなくても、Perian(OS X向け動画コーデック集)などメディア系ソフトのディスコンはこれが原因と耳にしたことがあるのではないだろうか。QuickTimeはすでに終わった技術だ。

だから、macOS SierraでQuickTimeのコードが削除されたことは自然な成り行きだが、さすがにこれは思うところがある。QuickTimeといえば、基調講演など数々のイベントで紹介に長い時間を割いた、かつてのAppleの目玉技術。ゴミ捨て場の前を通りかかったら捨てられているiMacを見つけたときのような、少し切ない気持ちになってしまう。かろうじてアプリとしてのQuickTime Playerに名は残るようだが、それもいつまで続くか……まさか、AV Playerなどという味気ない名前にならないとは思うが。

ついに、macOS SierraでQuickTimeのコードが削除される