【コラム】

OS X ハッキング!

3 OS X for Intelの可能性

    海上忍  [2001/12/07]

    OS XがIntelマシンに移植されるのでは、という噂は、AppleがNeXT Softwareを買収した当初から根強く存在する。前身にあたるNEXTSTEP/OPENSTEPが4種類のアーキテクチャ(68k、i386、PA-RISC、SPARC)をサポートしていたこと、一時期デベロッパ向けにRhapsody for Intelが配布されたこと、そして今はDarwin for Intelがリリースされていること、それだけの材料でも十分あり得る話と考えていいのかもしれない。

    だが、筆者としては、なぜMac OS X/Darwinが「Mach-O」(マーク・オーと発音)をメインのバイナリ形式として採用したのか、そこにAppleの思惑を感じてしまう。Mach-OはNEXTSTEP/OPENSTEPに採用されていたMAB(Multi Architecture Binary)という機構で重要な意味を持つため、ひょっとするとMac OS X/Darwinもマルチプラットフォーム対応を狙っている? するとIntel版も? という結論に辿り着いてしまうのだ。

    MABとは、読んで字の如く"複数の異なるアーキテクチャで動作するバイナリ"のこと。Mach-Oは複数の区画から構成されるので、PowerPCやi386などの異なるアーキテクチャの実行コードを各区画に収めることができ、バイナリを実行するアーキテクチャに応じて動作する。しかもネイティブコードなので、当然ながら実行速度の面ではJavaより有利。バンドルを構成すれば画像ファイルなどアーキテクチャ非依存のリソースファイルを共有できる、というメリットもある。

    MABを利用する最大のメリットは、NetInfoで接続されたネットワーク上でアプリケーションを共有することにあると記憶している。実際にそのようなネットワーク環境を目にしたことはないが、68kやi386、SPARCなど異なるアーキテクチャが混在するネットワーク上でも、1つのバイナリでOK、というネットワーク管理者の手間を減らす効果がある。旧Mac OSにも68kとPPC両方の実行コードを収録したバイナリ形式(通称「FATバイナリ」)が存在するが、そもそもの"動機"において両者は異質だ。

    MABの作成には手間がかかりそうだが、決してそんなことはない。コンパイラ(cc)を実行するときのオプションに「-arch」を付け足し、その引数に「m68k」や「i386」といったアーキテクチャ名を指定する、といった程度でOKなのである。OS Xの時代になってからは試していないが、現時点でもPPC/i386の両方に対応したバイナリ(当然ながらDarwin用)はいとも簡単に生成できることだろう。

    実際、NeXT時代には前述した4種類のアーキテクチャすべてに対応するMABが珍しくなかった。バイナリは対応アーキテクチャ数に応じて肥大するため、ユーザ数の多い黒NeXT(68k)と白NeXT(i386)の2種類のみに対応したMABも多かったが、SPARCとかPA-RISCといった少数派も同等に利用できる環境が整っていた。自分のアーキテクチャ用のバイナリのみインストールすることも可能なので、ディスクスペースの無駄遣いは回避できる。Mac OS X/Darwinにも、そのような機構を実現する素地がしっかりと引き継がれているのだ。

    だから、「OS X for Intel」が今なおリリースされない理由は他にあるのだろう。そしてそれは恐らく、ビジネスとして成立するかどうか、という現実的な問題があるからに違いない。

    確かに「OS X for Intel」は数を見込めるかもしれないが、反対にPowerPCを搭載するMac本体の売り上げが減る可能性は高い。収益構造から判断すると現在のAppleはハードウェアの会社であるため、敢えてリスクを取るとは考えにくい。フリーなOSが市民権を得ている現在、かつてのNEXTSTEP/OPENSTEPのようにOSのみで数十万というわけにも行かない。プラットフォームはPowerPCのみという状況は当分続く、と考えるのが妥当だろう。

    だが、Cocoa/Carbonアプリへの移行が進みClassicアプリが省みられなくなる時代はいずれやってくる。そのときには、より低コストな他のCPU、たとえばi386、はたまたCrusoe…を搭載したMacが発売されてもおかしくはない。PCと比べてMacは割高だが、部品の共有化を進めれば歩留まりを維持しつつ価格を下げることは可能だ。Apple製のハードウェア(もちろんデザイン重視!!)でしか動作しないが、値段はPCに近付く、という状況はユーザとAppleの両方にとってメリットがあるように思うのだが。

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