試験機打ち上げミッション EFT-1

つい先日の2014年9月11日、NASAはオリオンの試験機を報道陣に公開した。これは今年12月に行われる「EFT-1」と呼ばれるミッションで使われるものだ。

EFT-1はExploration Flight Test-1の略で、直訳すると「探査飛行試験1」という意味になる。このミッションでは、オリオン試験機を「デルタ IV ヘヴィ」と呼ばれる、大型の人工衛星の打ち上げに使われる巨大ロケットに搭載し、打ち上げることを計画している。

EFT-1 でオリオン試験機を打ち上げで使われるデルタ IV ヘヴィ・ロケット (写真は以前別の衛星を打ち上げた時のもの) (C)ULA

EFT-1 でオリオン試験機を打ち上げで使われるデルタ IV ヘヴィ・ロケット (C)NASA

打ち上げは米フロリダ州にあるケープ・カナヴェラル空軍ステーションのSLC-37Bから行われる。打ち上げ後、オリオン試験機はまず地球の周りを1周し、続いてデルタ IVの第2段エンジンを再点火し、高度を大きく上げ、高度約5,800kmにまで到達する。その後降下し、大気圏に再突入後、太平洋上に着水する。大気圏再突入時の速度は秒速約9km にもなり、耐熱シールドが受ける温度は約2,200℃にまで達する。

軌道上を飛行するオリオン試験機 (想像図) (C)NASA

この試験の目的は、オリオンの電子機器や耐熱システム、パラシュートなどが、設計通り機能するかを確認することにある。ただし、試験機であることから、サービス・モジュールは構造体だけで、太陽電池パドルやロケット・エンジン、生命維持システムは搭載されない。また再突入の直前まで、デルタ IVの第2段と結合された状態で飛行する。

着水後、オリオンは回収され、得られたデータと共に徹底的な解析と評価が行われ、さらなる開発に役立てられることになっている。

オリオン宇宙船の未来

EFT-1 が無事に成功すれば、NASAは次に、「探査ミッション1(EM-1:Exploration Mission 1)」を行う計画を持っている。EM-1でもオリオンは無人ではあるものの、打ち上げるロケットには「スペース・ローンチ・システム(SLS:Space Launch System)」と呼ばれる新型機が使われる。

SLSは、コンステレーション計画でいうところのアレス Iとアレス Vに匹敵する、有人ロケットと超大型ロケットのふたつの姿を持つロケットだ。2014年8月の終わりに開発が正式に決定され、現在は最終設計審査に向けて、NASA とボーイングが開発を行っている。

スペース・ローンチ・システム (SLS) (C)NASA

EM-1は以前、2017年12月に行われる予定だったが、SLS の開発の遅れが原因で、現在は2018年11月以降に実施されることになっている。

EM-1では、地球からの打ち上げ後、月に向かう軌道に乗り、そして月の裏側を回って、地球に戻ってくる軌道を取る。これは「自由帰還軌道」とも呼ばれるもので、かつてアポロ8やアポロ13で行われた飛行と似たものになる(アポロ13の時は予定されたものではなかったが)。

またEFT-1とは違い、オリオンには、ESAが開発したサービス・モジュールの実機が搭載される。これによりオリオンの持つ全システムと、SLSの能力の両方が試験されることとなる。

EFT-1とEM-1が無事に完了すれば、いよいよオリオンに実際に宇宙飛行士を乗せた有人飛行ミッション、「EM-2」が行われる予定だ。その目的地は、ISSでも月でも、もちろん火星でもない。「月の近くまで持ってきた小惑星」だ。

これは「小惑星捕獲計画(Asteroid Redirect Mission)」と呼ばれているもので、どこかで適当な小惑星を捕まえ、月の軌道まで運んでくるという大胆なものである。捕まえる小惑星はまだ決まっておらず、「はやぶさ」が探査した小惑星イトカワの一部を切り取って持ってくることも検討に入っているとのことだ。

現在の技術力では、火星軌道の先にあるような小惑星にいきなり人間を送り込み、安全に帰還させることは、小惑星探査機「はやぶさ」がどれだけ苦労したかを思い出すまでもなく、難しいことは一目瞭然だ。しかし、かといって月はすでにアポロ計画で訪れており新鮮味がなく、また月の環境は小惑星とは異なるため、実地訓練にもなりそうもない。そこで、逆に小惑星を近くに持ってくることで、宇宙船の飛行時間をアポロ計画並みに短縮し、かつ将来に活かせる知見が得られるというわけだ。

小惑星捕獲計画 (Asteroid Redirect Mission) (C)NASA

ただ、この計画は今のところまだ構想段階であり、現時点で NASA として実施が決定され、また予算の裏付けもある程度取れているミッションはEFT-1とEM-1のみだ。もちろん火星や小惑星への有人飛行も、まだ夢物語に過ぎない。技術的な課題も残っており、またこうしたお金のかかる計画の常として、NASA 内外から批判も根強い。今後、政権が代われば、コンステレーション計画と同じように、この計画が中止される可能性も十分にある。

だが、オリオンは人類が月を越え、火星やその先に行くための希望の種だ。私たちが生きている間に、人類が他の惑星の土を踏む光景を見られるとすれば、それはオリオンによって行われる可能性が一番高い。

2014年12月のEFT-1は、オリオンの記念すべき初飛行であると同時に、米国の有人宇宙開発の再開の狼煙でもあり、そして何よりも、私たち人類の希望を背負った重要なミッションだ。アポロ計画最後のミッションであるアポロ17が月を後にしてから約42年、いよいよ人類の、宇宙への帰還が始まろうとしている。

参考

・http://www.nasa.gov/press/2014/september/nasa-s-orion-spacecraft-nears-completion-ready-for-fueling/#.VBID2fldWa9
・http://www.nasa.gov/content/orion-s-first-crew-module-complete/#.VBdihhbSltZ
・http://www.nasa.gov/exploration/systems/mpcv/#.VBehDhbSltY
・http://www.nasa.gov/sites/default/files/fs-2014-08-004-jsc-orion_quickfacts-web.pdf
・http://www.nasa.gov/sites/default/files/fs-2014-08-005-jsc-orion-eft-final.pdf