CEVからMPCVへ

オバマ大統領は就任後、外部有識者委員会(通称:オーガスティン委員会)を組織し、コンステレーション計画の見直しを始めた。その結果2009年10月に、「このままでは時間も予算も足りない」という否定的な最終報告書が提出され、それを受け翌2010年2月1日、オバマ大統領は2011年度予算教書において、コンステレーション計画、つまりオリオン、アレス I、アレス V、アルタイルの開発は中止されることになった。

当時は有人宇宙計画の縮小、あるいは撤退といった見方もされたが、実際はやり方を変え、底力を蓄えた上で改めて挑むという内容で、月や火星、小惑星を目指すという目標がなくなったわけではなかった。

同じ年の4月15日、オバマ大統領はケネディ宇宙センターで演説し、2030年代半ばまでに宇宙飛行士を火星の軌道に送り込むという目標を掲げた、新しい宇宙政策を発表した。そのための宇宙船として「MPCV(Orion Multi-Purpose Crew Vehicle)」の開発が決定されたが、実際はCEVの焼き直しであり、後に愛称も「オリオン」の名を受け継いだ。

NASAケネディ宇宙センターで新宇宙政策を発表するオバマ大統領 (C)NASA

もともとNASAでは、オリオンは「ISS からの緊急帰還艇」として開発が継続されており、またISSとのドッキングに使う新型のセンサの開発なども進めていた。これはオバマ大統領の新宇宙政策の中で、ISSが飛んでいるような地球低軌道の有人輸送を、民間企業に積極的に担わせる方針が定められたことで、その保険の意味合いもあった。

また、実際に開発と製造を担当するロッキード・マーティンでは、独自に新型宇宙船としてのオリオンの開発を継続しており、コロラド州デンバーの地下にシミュレーション施設も建造し、オリオンに関する今後のNASAの方針に関係なく、独自の商業宇宙船としてオリオン、もしくはその軽量型を開発するとまで明言し、さらにはオリオンを使った有人小惑星探査の構想まで発表していた。

かくして、オリオンはCEVからMPCVとなり、開発は継続されることとなった。

そして、2013年1月16日には、オリオンの開発に「欧州宇宙機関(ESA)」が参加することが発表された。

ESAはここ数年、無人の補給船「ATV(Automated Transfer Vehicle)」を開発し、運用し続けていた。ATV はこれまで4機がミッションに成功しており、5号機「ジョルジュ・ルメートル」は2014年7月29日に打ち上げられ、この記事を書いている2014年9月16日現在も ISSに停泊中だ。ATVはこの5号機が最終号機となる。

ESAは、有人宇宙船そのものを開発した経験はないものの、ATVに関する技術は、サービス・モジュールの開発にとって十分であると、NASAから判断されたということになる。現在すでに、ATVの開発を担ったエアバス・ディフェンス & スペースは、オリオンのサービス・モジュールの開発に注力している。

ESA がサービス・モジュールを提供することにより、NASA はその分浮いた開発費や人員などのリソースを、オリオンのクルー・モジュールや、新型ロケットや他の要素の開発、製造に充てることができるようになる。またESAにとっては、オリオンのサービス・モジュールという首根っこを押さえることができ、オリオンの仕様や運用にある程度口出しできるようになり、またオリオンを使ったミッションに、ESAの宇宙飛行士を参加させることができるようにもなる。

ESA開発のサービス・モジュールを装備したオリオン (C)ESA

現在のところ、オリオンの開発は、当初の予定より若干遅れてはいるものの、順調に続いている。現在でもNASAや議会の内外から批判の声はあるものの、ボウルデン長官が元宇宙飛行士であったためか、類まれなリーダーシップを発揮し、難局を乗り切り続けている。ボウルデン長官の会見における言い回しは、理屈よりも感情に訴えるところがあり、またスペースシャトルが引退する際には、会見中に思わず涙を流すなど、非常にエモーショナルな人物であるが、そうしたところが国民からの親しみや共感を呼び、支持に繋がっているのかもしれない。