貯蓄から投資へのハードルを、「儲かりそう!」と軽く超えてしまう人、慎重に慎重に勉強して踏み出す人、興味はあるけど越えられない人、「面倒だし興味ない」人…。あなたはどのタイプですか? そもそも投資って何? おひとりさまにも投資は必要? 自分なりの投資への向き合い方を決めるために知っておきたいことを紹介します。

当たり前だけど、投資の目的は"お金を増やすこと"

投資は、一言で言ってしまえば、手持ちのお金を数字の上で増やすことだ。例えば100円が1年後に110円になったら10円増えたことになる。よほどの変り者でない限り、自分のお金が増えたら嬉しい。しかし、手持ちのお金の価値も上がったかというと、そうとは言い切れない。1年前に100円で買えたものが、1年後は120円払わないと買えないとしたら、数字は増えていても、モノに対するお金の価値は下がったことになる。それでも100円のままよりはマシという見方もできる。モノに対するお金の価値が下がる(=モノの価値が上がる)ことをインフレといい、資本主義社会で経済が順調なときは、徐々にインフレが進んでいくと考えられている(というか、過去にほぼそうであった)。

つまり、自分のお金の価値を減らしたくないなら、何らかの形で数字を増やしていくことを考えた方がいい。もっとも使いやすいのは銀行の定期預金で、元本保証で利子がつく。例えば100円を1年間、金利1%の定期預金に預けたら、1年後には元本と利子で101円になる(税金は考慮せず)。いわゆる貯蓄だ。

これに対して、よく投資で利用されるのは株式、債券、投資信託など。こちらは元本が保証されない。例えば100円で買った株が120円になれば、なんと20%もお金が増えるが、80円になることだってある。投資を行う際の最大の不安は、お金を増やそうとして行った行為で、逆にお金を減らすことだ。「日経平均株価が○○○円も暴落した」などというニュースが流れると、株なんて持ってなくてよかったと思う人もいるかもしれない。

もうひとつの側面、"企業への応援"

株式投資の場合で考えてみよう。市場に上場された銘柄であれば、売買されることで株価は変動する。上がれば、その株を持っている人は、お金が増えたことになる。株式を発行している企業も、企業価値が上がり事業が展開しやすくなる。株式会社において株主はオーナーとも言える立場なので、企業は株主に対して一定の期間ごとに事業の報告を行い、利益の一部を配当金として分配する。株を持つことは、オーナーの一人としてその企業の経営を応援することにもつながるわけだ。企業にとっては、自分の会社の株式を、長期的に安定して持ってくれる株主がたくさんいるとありがたい。

しかし株価が下がれば、自分のお金も減ってしまう。自分のお金の増減が、その企業の株価の動向に左右されることになる。

リスクはどちらの側にある?

元本保証の預金と、元本が保証されない上に増えるか減るかがわからない投資。投資をする必要なんてあるのだろうか?

預金と投資では、利用する側にとっては全く異なる性格をもつが、実は、企業を応援するという点では預金も同じなのだ。銀行では、預かったお金を企業や個人(住宅ローンなど)に貸し出している。企業は、株式を発行する以外にも、銀行からの借り入れで必要な事業資金をまかなうときがある。預金をすると、銀行を通して企業にお金を貸すことになるわけだ。ただし、どこの誰に貸したか具体的なことはわからない。そこは銀行が判断して行う。また貸した企業の経営がうまくいかなくてお金を返してもらえなかったとしても、銀行は預金者には予定通りに利子を払ってくれる。他の利益と調整して銀行が損をかぶってくれるからだ。預金が元本保証なのは、投資(=企業への貸付)のリスクを銀行が引き受けているからだ。

一方、株を買うときは、売買の取り次ぎのために証券会社を通すが、特定の企業に直接、自分のお金を投じることになる。株式の名義は自分の名前に書きかえられ、株価の価格変動というリスクを自分で負うことになる。

リスクを負う以上は、それなりの見返りがほしいというのが人情ではなかろうか。株式には多くの銘柄があり(東京証券取引所に上場されたものが約3400社)、銘柄ごとの違いは大きいが、平均値では、銀行への預金(間接金融)よりも株式投資(直接金融)の方が利回りが高い、つまりお金が増えると考えられている。過去のデータによっても、その傾向があるため、投資を行う人は、これを根拠としている。

1対0か、0.8対0.2か

元本が減ることには抵抗があり、自分は投資はしないと決めるのも、もちろん自由だ。1日24時間、一度きりの人生をどう生きるか、どう過ごせば自分が納得できて幸せかは自分にしかわからない。投資をするには知識が必要で、それ相応の時間も費やすことになる。その時間をスポーツや音楽などにあてたいと考える人もいるだろう。そのような人は、しっかり働き、しっかり貯蓄し、お金の管理については怠らないでほしい。

投資してみようかという人は、勉強することに加えて、資金の配分を考慮したい。おひとりさまは、特に人生の後半、手持ちのお金をやりくりして生き抜くことになる。安全な預金は、必ず一定の割合残しておきたいものだ。手持ちの資金のうち何割をリスクのある金融資産にするのかをしっかり検討したい。

安全資産(預金など):投資資産(株式など)の割合は、その人の知識や考え方、年齢により、0.9対0.1、0.8対0.2、0.5対0.5などいくつかのパターンが考えられる。場合によってはリスク資産の方が多い0.3対0.7で資産を持ちたいと考える人もいるかもしれない。一般論で言えば、おひとりさまなら、年齢が若いほど、リスク資産の割合は高くてもよいと考えられる。投資をするかどうか、するならどれくらいの割合を投資に向けるかは、生き方と同様、自分で決めることだ。そのためには、最低限の経済・金融の知識は持っておきたい。

次回は、投資用の金融商品の種類と特徴を紹介します。

<著者プロフィール>

ファイナンシャルプランナー 坂本綾子

20年を超える取材記者としての経験を生かして、生活者向けの金融・経済記事の執筆、家計相談、セミナー講師を行っている。著書『お金の教科書』全7巻(学研教育出版)、セミナー『子育て力のあるお金の貯め方、使い方』『小さな消費者へのお金の教育』など。