おひとりさまも、家族持ちも、必ず入る社会保険

人生いつも順調とはいきませんね。病気をするかもしれないし、失業するかもしれない。給与からは毎月、社会保険料が天引きされているけど、どんなときに、どこまで社会保険で助けてもらえるのか、大人なら、ちゃんと知っておきたい。

おひとりさまも、家族がいる人も、会社員の場合、毎月の給与からは税金と合わせて社会保険の保険料が引かれている。健康保険、厚生年金保険、雇用保険の3つだ。本人は払わなくていいが、勤務先が負担しているものとして労災保険もある。

社会保険料は、給与のみならず通勤手当や残業代も含めた支給額をもとに計算する。負担が大きいのは健康保険と厚生年金保険だ。労使折半で負担する仕組みなので半分は勤務先が払ってくれるが、それでも、ふたつ合わせた自己負担の保険料は支給額の約14%にもなる。例えば、支給額が月30万円なら4万635円(東京都の協会健保の場合、介護保険料は含まず)。家族がいる人も、おひとりさまも、支給額が同じなら保険料は同じ。そして家族がいる人はその保険料で扶養家族も対象になるが、おひとりさまは自分一人の分として支払う。

毎月毎月引かれているが、持病もなく、ごく健康な若いおひとりさまの場合、社会保険の恩恵を受けるのは、たまにひく風邪や虫歯などで、健康保健証を提示して医療費を支払うときくらいだろう。ご存じの通り、保険診療なら、自己負担は医療費の3割で済む。ちょっとした診療なら支払いは数千円程度。それでも毎月の保険料を考えると「けっこう引かれているのに、何だかなあ」と思ってしまうかもしれない。

しかし、「どうしよう?」というピンチのとき、社会保険からはしっかり給付がある。まずは健康保険から見ていこう。医療費が高額になったときに給付される「高額療養費」と、病気やケガで仕事を休み給与をもらえないときに給付される「傷病手当金」のふたつは必ず知っておきたい。

医療費が高額になったら健康保険からお金が戻る

風邪や虫歯くらいならいいが、思いがけないケガや重い病気により入院や手術をすると、3割負担で済む保険診療であっても、数十万円の医療費がかかることもある。そんな場合は、ひと月あたりの医療費が限度額を超えると、超えた分は高額療養費として戻ってくる。限度額は医療費により異なるが、例えば、ひと月あたりの保険診療の自己負担の医療費が30万円かかったとすると、一般的な収入の人なら20万円以上が戻ってくるので、自分で払う分は最終的に9万円弱ですむ。医療費の負担を軽くしてくれる制度だ。

病気やケガで仕事を休み給与がもらえないときも健康保険から給付あり

病気やケガで働くことができず、3日以上会社を休み給与がもらえない場合は、4日目以降、休んだ日数分の傷病手当金が健康保険から給付される。傷病手当金は、会社から支給されていた額の3分の2程度で、最長で1年6カ月まで。こちらは休業中の生活を保障するための制度だ。

また、おひとりさまにはあまり関係ないが、出産すると一児につき42万円の出産育児一時金を、出産のために会社を休み給与が受け取れないときは出産手当金をもらえる

以上が健康保険からの主な給付だ。健康保険の申請の時効は2年。いずれも勤務先を通して、加入している健康保険組合に申請する。

このような給付の対象となることがない限り健康保険は掛け捨てだ。みんなが払った保険料を、困ったことになった人に渡すのが保険の基本。これは、社会保険も民間の保険も同じだ。ただし社会保険の場合、入るか入らないかを自分で選択することはできない。また、税金の計算をするときに、社会保険料控除といって、保険料を収入から差し引いてくれることになっている。その分、社会保険料控除をしない場合よりも税金が少なくて済む仕組みだ。

一方、勤務中や通勤途上でケガをした、仕事に原因があって病気になったときは、健康保険ではなく労災保険から給付がある。労災保険の保険料は、冒頭にも書いたが、労働者は支払う必要がなく、勤務先が支払う。

健康保険と同様に保険料が高いものとして厚生年金があるが、これについては次回に詳しく説明する。

ということで、続けて、雇用保険の給付を見てみよう。

指定の講座で勉強したら受講料の一部を給付

雇用保険からは、能力開発や資格取得のために、労働大臣指定の教育訓練講座を受けると教育訓練給付金をもらえる。講座の種類は、情報関連から英検や士業の資格講座まで様々。給付額は受講料の20%で最高10万円まで。利用できるのは3年に一度。キャリアアップのために勉強したいと思っているなら検討したい。対象となる講座はハローワークインターネットサービスから検索することができる。

仕事を辞めたら期間限定で給付がある

雇用保険の一番の役割は、こっちだ。仕事を辞めて、次の仕事がすぐには見つからない場合、やめる前の給与5~8割程度を、雇用保険の基本手当としてもらえる。辞めた理由、年齢と勤務年数に応じて、受取れる日数が決まる。仕事をして収入を得ることは生活していくための基本だから、これは重要なセイフティネットといえる。

このように様々なケースで社会保険からは給付がある。ちゃんと知っていれば、いざというときの不安も、ずいぶん軽くなるのではないだろうか。とはいえ、あくまで助け合いの制度だから、何もかもを社会保険で面倒見てもらえるわけではない。

社会保険制度を把握した上で、自分でもコツコツと貯金をして資産形成をしておきたい。

<著者プロフィール>

ファイナンシャルプランナー 坂本綾子

20年を超える取材記者としての経験を生かして、生活者向けの金融・経済記事の執筆、家計相談、セミナー講師を行っている。著書『お金の教科書』全7巻(学研教育出版)、セミナー『子育て力のあるお金の貯め方、使い方』『小さな消費者へのお金の教育』など。