【コラム】

ダイナミックObjective-C

101 プロパティ(1) - インスタンス変数のアクセス制御

 

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世代別ガベージコレクションの詳細について

前回までは、Objective-C 2.0のガベージコレクションの機能を解説してきた。その流れに従えば、今回は世代別ガベージコクレションの説明になる予定だった。

しかし、Objective-C 2.0の世代別ガベージコレクションに関するAppleからの情報はとても少ない。ドキュメントから読み取れるものをまとめてみよう。たしかにObjective-C 2.0では、世代別ガベージコレクションを実装している。Incrementalなコレクションも兼ねているようだ。旧世代から新世代への参照を検知するために、ランタイムAPIを使ってライトバリアを実装している。そして、世代は複数に及ぶことができ、2から8の世代をサポートするようだ。(参考: Garbage Collection Programming Guide)

なかなかに興味深い内容だ。コピーGCを行わないランタイムで世代別GCをうまく機能させることはできるのか、8世代にも及ぶ世代分けはどの程度の効果があるのか、など知りたいことはたくさんある。だが、実装の詳細が記述されていないし、ソースコードも公開されていないため、これ以上の内訳を知ることは難しい。

このような理由により、本連載でのガベージコレクション機能の追求は、ひとまず完了したいと思う。今後、詳細な情報が手に入るようであれば、再び検討をしてみたくはあるが。

プロパティ以前のアクセス制御

さて、新しい話題にとりかかろう。取り上げるのはプロパティだ。これは、オブジェクトが持つインスタンス変数へのアクセスに関する実装を簡略化してくれるものだ。

プロパティの前に、Objective-C 1.0までのインスタンス変数へのアクセスについておさらいしよう。インスタンス変数への直接的なアクセスを隠蔽することは、オブジェクト指向では基本とされる。内部情報を隠蔽してカプセル化を推し進め、再利用性の高いコードを書くことができると言われている。

だが、C言語的な自由さをプログラマに与えるObjective-Cでは、やはりその辺りも自由だった。いちおう、インスタンス変数に、@public、@protected、@privateといった、アクセス修飾子を付加することはできる。だが仮に@protectedや@privateを付けたとしても、コンパイル時に警告が出るだけでビルドは通るし実行もできてしまう。これがObjective-Cらしさであろう…と肯定的に捉えるのもさすがに無理がある。これだったら、はじめからないほうがすっきりするだろう。

@interface MyObject : NSObject
{
@private
    // privateなインスタンス変数を宣言する
    int var;
}
@end

int main(int argc, const char* argv[])
{
    MyObject* object;
    object = [[MyObject alloc] init];

    // 警告は出るがビルドは通る
    object->var = 100;

    // インスタンス変数に正しく値は代入されている
    NSLog(@"var is %d", object->var);

    return 0;
}

さらに凶悪なものとして、@defsというコンパイラ指示子もあった。これを使うと、クラスをC言語の構造体のようにアクセスできてしまう。もはやオブジェクトであっても、C言語的な変数の集合体としかみなさなれていないようだ。これはさすがに、Objective-C 2.0ではdeprecatedになったようである。

// MyObjectクラスに、構造体としてアクセス出来るようにする
struct my_object {
@defs(MyObject)
};

int main(int argc, const char* argv[])
{
    MyObject* object;
    object = [[MyObject alloc] init];

    // my_object構造体にキャストして使用する
    ((struct my_object*)object)->var = 100;
    NSLog(@"var is %d", ((struct my_object*)object)->var);

    return 0;
}

このようにObjective-Cでは、インスタンス変数にアクセスしようと思えば、いかような手段を使ってでもアクセスできてしまう。逆にアクセスを禁止することはほぼ不可能ではないかと思えてしまう。

では、これらの機能を積極的に使ってプログラミングするかというと、そんなことはないようだ。経験を積んだプログラマならば、カプセル化を高めるためにアクセッサメソッドを使うところと、スピードを稼ぐために直接インスタンス変数にアクセスするところを、切り分けて区別することができるだろう。どちらの手段を採用するかは、プログラマの裁量しだいだ。

Objective-Cの言語仕様を見ていると"自由と責任"という言葉が頭に浮かぶ。言語的に何かを禁止するということは、Objective-Cではあまりない。むしろ、積極的に内部構造にアクセスするための文法やAPIを提供してくれている。あとは、それらを使うプログラマの責任なのだ。大いなる自由と引き換えに、秩序あるプログラムを作る責任も押し付けられるのだ。

話が大きく脱線してしまったが、こんな状況で現れたのがプロパティだ。次回からこのプロパティを詳しく取り上げよう。

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インデックス

連載目次
第121回 デザインパターンをObjective-Cで - Visitor (2)
第120回 デザインパターンをObjective-Cで - Visitor (1)
第119回 デザインパターンをObjective-Cで - Template Method (1)
第118回 デザインパターンをObjective-Cで - Strategy (1)
第117回 デザインパターンをObjective-Cで - State (1)
第116回 デザインパターンをObjective-Cで - Interpreter (2)
第115回 デザインパターンをObjective-Cで - Interpreter (1)
第114回 デザインパターンをObjective-Cで - Mediator (3)
第113回 デザインパターンをObjective-Cで - Mediator (2)
第112回 デザインパターンをObjective-Cで - Mediator (1)
第111回 デザインパターンをObjective-Cで - Observer (3)
第110回 デザインパターンをObjective-Cで - Observer (2)
第109回 デザインパターンをObjective-Cで - Observer (1)
第108回 Fast Enumeration (4) - Fast Enumerationに対応するクラスの実装
第107回 Fast Enumeration (3) - Fast Enumerationのソースコード
第106回 Fast Enumeration(2) - NSFastEnumerationプロトコル
第105回 Fast Enumeration(1) - 速い列挙子
第104回 プロパティ(4) - プロパティの属性
第103回 プロパティ(3) - ドット演算子
第102回 プロパティ(2) - プロパティの宣言
第101回 プロパティ(1) - インスタンス変数のアクセス制御
第100回 ガベージコレクション(5) - コピーGCとコンパクション
第99回 ガベージコレクション (4) - マーク・アンド・スイープ
第98回 ガベージコレクション(3) - 保守的でありながらオブジェクト的
第97回 ガベージコレクション (2) - 実体であるlibauto
第96回 ガベージコレクション (1) - GCのためのAPI
第95回 デザインパターンをObjective-Cで - Memento (2)
第94回 デザインパターンをObjective-Cで - Memento (1)
第93回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (5)
第92回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (4)
第91回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (3)
第90回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (2)
第89回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (1)
第88回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (5)
第87回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (4)
第86回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (3)
第85回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (2)
第84回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (1)
第83回 デザインパターンをObjective-Cで - Iterator (2)
第82回 デザインパターンをObjective-Cで - Iterator (1)
第81回 デザインパターンをObjective-Cで - Proxy (3)
第80回 デザインパターンをObjective-Cで - Proxy (2)
第79回 デザインパターンをObjective-Cで - Proxy (1)
第78回 デザインパターンをObjective-Cで - Flyweight (2)
第77回 デザインパターンをObjective-Cで - Flyweight (1)
第76回 デザインパターンをObjective-Cで - Facade (1)
第75回 デザインパターンをObjective-Cで - Decorator (2)
第74回 デザインパターンをObjective-Cで - Decorator (1)
第73回 デザインパターンをObjective-Cで - Composite (2)
第72回 デザインパターンをObjective-Cで - Composite (1)
第71回 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (3)
第70回 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (2)
第69回 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (1)
第68回 デザインパターンをObjective-Cで - Web Kitを考える Adapter (4)
第67回 デザインパターンをObjective-Cで - Adapater(3)
第66回 デザインパターンをObjective-Cで - Adapater (2)
第65回 デザインパターンをObjective-Cで - Adapter (1)
第64回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (4)
第63回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (3)
第62回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (2)
第61回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (1)
第60回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (4)
第59回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (3)
第58回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (2)
第57回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (1)
第56回 デザインパターンをObjective-Cで - Builder (2)
第55回 デザインパターンをObjective-Cで - Builder (1)
第54回 デザインパターンをObjective-Cで - Abstract Factory (2)
第53回 デザインパターンをObjective-Cで - Abstract Factory (1)
第52回 デザインパターンをObjective-Cで - Singleton (3)
第51回 デザインパターンをObjective-Cで - Singleton (2)
第50回 デザインパターンをObjective-Cで - Singleton (1)
第49回 デザインパターンで読み解くCocoa
第48回 F-Script - CocoaとObjective-Cのスクリプティング環境
第47回 AspectCocoa (5) - インプットマネージャとの連携
第46回 AspectCocoa (4) - AspectCocoaの実例
第45回 AspectCocoa (3) - フォワーディングとポージングの利用
第44回 AspectCocoa (2) - IMPによるアスペクト指向の実現
第43回 AspectCocoa (1) - Objective-CとCocoaによるアスペクト指向
第42回 SIMBLでハックを管理
第41回 インプットマネージャから侵入
第40回 Toll-free bridge (3) - Objective-Cメソッドの処理
第39回 Toll-free bridge (2) - Core Foundationのisaフィールド
第38回 Toll-free bridge(1) - 変換コスト0のブリッジ
第37回 Core Foudation (5) - インスタンスの実装
第36回 Core Foudation (4) - 多態性の実現
第35回 Core Foundation(3) - クラスの定義
第34回 Core Foundation(2) - C言語によるオブジェクト
第33回 Core Foundation(1) - Core Foundation誕生前夜
第32回 抽象クラスとクラスクラスタ
第31回 ランタイムAPIでさらに動的に(5) - インスタンス変数に動的にアクセス
第30回 ランタイムAPIでさらに動的に(4) - インスタンス変数の定義を調査
第29回 ランタイムAPIでさらに動的に(3) - メソッドの実装の置換
第28回 ランタイムAPIでさらに動的に(2) - メソッドの追加
第27回 ランタイムAPIでさらに動的に(1) - 動的なクラスの作成
第26回 メッセージ送信(4) - メッセージ送信の流れと関数呼び出しとの違い
第25回 メッセージ送信(3) - メソッドのキャッシング
第24回 メッセージ送信(2) - メソッドリストからメソッドを検索する
第23回 メッセージ送信(1) - objc_msgSendの実装
第22回 メソッドとは何か(5) - メソッドの実装
第21回 メソッドとは何か(4) - セレクタの実体
第20回 メソッドとは何か(3) - メソッドの型を読み解く
第19回 メソッドとは何か(2) - メソッドを取得する
第18回 メソッドとは何か(1) - メソッド、セレクタ、メソッドの実装
第17回 クラスとは何か(4) - Objective-Cにおけるオブジェクトとは何か?
第16回 クラスとは何か(3) - メタクラスと親クラス
第15回 クラスとは何か(2) - クラス情報に直接アクセスする
第14回 クラスとは何か(1) - Mac OS X/Objective-Cにおけるクラスの実装を読む
第13回 Objective-Cのエンジン部 - ランタイムに踏み込む
第12回 ポージングで乗っ取り
第11回 2つのプロトコルの使い分け
第10回 非形式プロトコル - もう1つのプロトコル
第9回 プロトコルが必要とされた背景とは? - なぜあえて静的な型を?
第8回 カテゴリ - 動的なメソッドの追加によるクラスの拡張
第7回 Objective-Cと様々な言語のブリッジ - PyObjC、RubyCocoa……
第6回 Cocoa-Javaの挑戦とは? - 似て非なるセレクタとリフレクション
第5回 ターゲット/アクションパラダイム(2) - その利点を徹底検証
第4回 ターゲット/アクションパラダイム(1) - 動的特性を利用したデザインパターン
第3回 Cocoa実現の肝 - クラスとそのメソッドの調査方法をチェック
第2回 Objective-Cの動的型付け
第1回 CocoaとObjective-Cと動的なオブジェクト指向 - Cocoaハックの第1歩

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