【コラム】

ダイナミックObjective-C

71 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (3)

 

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Bridgeパターンの3回目。前回はCocoaで画像を取り扱うクラスNSImageについて議論した訳だが、今回も画像に関するクラスを取り上げよう。ただし、Cocoaのクラスではない。TigerことMac OS X 10.4から追加された、高機能画像処理フレームワークであるCore Imageだ。

Core Imageの二面性

Core Imageは、画像処理を行うためのフレームワークだ。非常に高機能で、画像のクロップ、色の補正、エフェクトの適用、画像の合成、トランジションエフェクトの作成など、画像処理として思いつくものはほとんどサポートされている。言ってみれば、Photoshopを作ることができるフレームワークだ。

画像処理は、非常に重い処理だ。画像サイズが大きくなるほど、その影響は顕著になる。そこで、Core Imageでは近年性能向上が著しいGPUを利用している。Core ImageはGPUへのアクセスをラップしてくれるもの、ととらえることもできるだろう。Macの機種によって搭載しているGPUは異なるが、その差も吸収してくれる。

つまりCore Imageは、高機能な画像処理をプログラマに提供しながら、GPUのようなハードウェアへアクセスするという、二面性を持っている訳だ。ここを、Bridgeパターン使って眺めてみよう、というのが今回の主題だ。

Core Imageの詳しいドキュメントは、『Core Imageプログラミングガイド概論』にある。また、Core Imageを利用したプログラミングは、過去の記事『Core Imageで体験 - Mac OS Xの高速画像処理』でも紹介したので、そちらも参考にしてほしい。

プログラマが利用する高レベルAPI

プログラマがCore Imageを使うときの手順を紹介しよう。

まずは、サンプルコードを見てほしい。これは、上述の『Core Imageプログラミング概論』に出てくる、画像の色相の調整を行うコードだ。

List 1. (『Core Imageプログラミング概論』より引用)

// フィルタを取得する。
hueAdjust = [CIFilter filterWithName:@"CIHueAdjust"];

// フィルタの設定を行う。
[hueAdjust setDefaults];
[hueAdjust setValue:myCIImage forKey:@"inputImage"];  
[hueAdjust setValue:[NSNumber numberWithFloat:2.094]  
                    forKey:@"inputAngle"];

// 処理された画像を取得する。
result = [hueAdjust valueForKey:@"outputImage"];

まず、フィルタを取得する。これには、CIFilterのfilterWithName:を使う。名前を使ってフィルタを指定する。取得できるのは、CIFilterのサブクラスとなる。

次にフィルタの設定を行うのだが、これに使うのは先ほど取得したサブクラス特有のメソッドではない。さらに、CIFilterのメソッドですらない。すべての設定は、キー値コーディングのメソッドであるsetValue:forKey:を使うことになる。設定に使うキーは、ドキュメントを見て確認する。

キー値コーディングを使う事の利点は、サブクラスごとにヘッダファイルを用意する必要が無くなる事だろうか。Core Imageのフィルタは100を超える数があるので、ヘッダを作成する労力を嫌ったのかもしれない。逆に欠点は、設定項目をいちいちドキュメントで調べる必要があり、エディタのコード補完機能に頼れない事だ。

最後に、エフェクトのかけられた画像を取得するのだが、これにもキー値コーディングのメソッドを使う。valueForKey:だ。

このように、プログラマから見たCore ImageのAPIは、ほぼキー値コーディングのsetValue:forKey:とvalueForKey:である、という事になる。これが高レベルAPIだ。

GPUにアクセスする低レベルAPI

次に、プログラマによって指定された設定に従って、GPUを使って画像処理を行う部分を見てみよう。この処理の記述には、Core Image Kernel Languageと呼ばれる言語を使う。Open GLのシェーダを記述するOpen GL Shading Languageのサブセットでもあり、C言語に似た使用感覚となる。

次のサンプルは、先ほどと同様に、『Core Imageプログラミング概論』からの引用だ。かすみの除去を行っている。

List 2. (『Core Imageプログラミング概論』より引用)

kernel vec4 myHazeRemovalKernel(
                    sampler src,
                    __color color,
                    float distance,
                    float slope)
{
    vec4   t;
    float  d;

    d = destCoord().y * slope  +  distance;
    t = unpremultiply(sample(src, samplerCoord(src)));
    t = (t - d*color) / (1.0-d);
    return premultiply(t); 
}

destCoord、unpremultiply、sample、samplerCoord、premultiplyといった関数がある。これらが、Core Image Kernel Languageが提供するものとなる。この言語のリファレンスは、『Core Image Kernel Language Reference』を参照してほしい。

これを使って、Core ImageからGPUへとアクセスすることになる。

BridgeパターンとしてのCore Image

このような構造のCore Imageを、Bridgeパターンとして表してみよう。

Bridgeパターンの主要登場人物は、AbstractionとImplementorの二人だ。ClientへのAPIを提供するAbstractionは、CIFilterとなるだろう。Concrete Abstractionとして、たくさんのCIFilterのサブクラスが相当する。Implementorにあたるものとしては、CIKernelというクラスがある。CIFilterからGPUへのアクセスするためにある。

次のような図で表すことができるだろう。

Clientは、AbstractionであるCIFilterを使う。ここでは、高レベルAPIとしてキー値コーディングを使うことになる。CIFilterからは、ImplmentorであるCIKernelにアクセスする。ここでは、低レベルAPIであるCore Image Kernel Languageが使われる。

CIKernelでは、現在動作しているMacのGPUをチェックしている。Core Image Kernel Languageがサポートされているようならば、それをGPUへ送る。サポートされていない場合は、CPUで処理をさせることになる。この場合、負荷の高すぎる処理は自動的に間引かれることになるが。このように、実装に応じた処理を行うことになる。

これで、BridgeパターンとしてのCore Imageが明確になっただろう。Abstractionは、キー値コーディングを使って、実装やフィルタの種類に依存しないAPIを提供する。ImplementorへはCore Image Kernel Languageを使ってアクセスし、GPUの有無といった実装に依存した処理を行わせる。

Bridgeパターンの例として、前回のNSImage、今回のCore Imageと、画像に関するクラスが続いた。ハードウェアに強く依存する事の多い画像処理は、Bridgeパターンの適用が向いていると言えるかもしれない。

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インデックス

連載目次
第121回 デザインパターンをObjective-Cで - Visitor (2)
第120回 デザインパターンをObjective-Cで - Visitor (1)
第119回 デザインパターンをObjective-Cで - Template Method (1)
第118回 デザインパターンをObjective-Cで - Strategy (1)
第117回 デザインパターンをObjective-Cで - State (1)
第116回 デザインパターンをObjective-Cで - Interpreter (2)
第115回 デザインパターンをObjective-Cで - Interpreter (1)
第114回 デザインパターンをObjective-Cで - Mediator (3)
第113回 デザインパターンをObjective-Cで - Mediator (2)
第112回 デザインパターンをObjective-Cで - Mediator (1)
第111回 デザインパターンをObjective-Cで - Observer (3)
第110回 デザインパターンをObjective-Cで - Observer (2)
第109回 デザインパターンをObjective-Cで - Observer (1)
第108回 Fast Enumeration (4) - Fast Enumerationに対応するクラスの実装
第107回 Fast Enumeration (3) - Fast Enumerationのソースコード
第106回 Fast Enumeration(2) - NSFastEnumerationプロトコル
第105回 Fast Enumeration(1) - 速い列挙子
第104回 プロパティ(4) - プロパティの属性
第103回 プロパティ(3) - ドット演算子
第102回 プロパティ(2) - プロパティの宣言
第101回 プロパティ(1) - インスタンス変数のアクセス制御
第100回 ガベージコレクション(5) - コピーGCとコンパクション
第99回 ガベージコレクション (4) - マーク・アンド・スイープ
第98回 ガベージコレクション(3) - 保守的でありながらオブジェクト的
第97回 ガベージコレクション (2) - 実体であるlibauto
第96回 ガベージコレクション (1) - GCのためのAPI
第95回 デザインパターンをObjective-Cで - Memento (2)
第94回 デザインパターンをObjective-Cで - Memento (1)
第93回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (5)
第92回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (4)
第91回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (3)
第90回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (2)
第89回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (1)
第88回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (5)
第87回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (4)
第86回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (3)
第85回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (2)
第84回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (1)
第83回 デザインパターンをObjective-Cで - Iterator (2)
第82回 デザインパターンをObjective-Cで - Iterator (1)
第81回 デザインパターンをObjective-Cで - Proxy (3)
第80回 デザインパターンをObjective-Cで - Proxy (2)
第79回 デザインパターンをObjective-Cで - Proxy (1)
第78回 デザインパターンをObjective-Cで - Flyweight (2)
第77回 デザインパターンをObjective-Cで - Flyweight (1)
第76回 デザインパターンをObjective-Cで - Facade (1)
第75回 デザインパターンをObjective-Cで - Decorator (2)
第74回 デザインパターンをObjective-Cで - Decorator (1)
第73回 デザインパターンをObjective-Cで - Composite (2)
第72回 デザインパターンをObjective-Cで - Composite (1)
第71回 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (3)
第70回 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (2)
第69回 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (1)
第68回 デザインパターンをObjective-Cで - Web Kitを考える Adapter (4)
第67回 デザインパターンをObjective-Cで - Adapater(3)
第66回 デザインパターンをObjective-Cで - Adapater (2)
第65回 デザインパターンをObjective-Cで - Adapter (1)
第64回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (4)
第63回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (3)
第62回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (2)
第61回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (1)
第60回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (4)
第59回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (3)
第58回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (2)
第57回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (1)
第56回 デザインパターンをObjective-Cで - Builder (2)
第55回 デザインパターンをObjective-Cで - Builder (1)
第54回 デザインパターンをObjective-Cで - Abstract Factory (2)
第53回 デザインパターンをObjective-Cで - Abstract Factory (1)
第52回 デザインパターンをObjective-Cで - Singleton (3)
第51回 デザインパターンをObjective-Cで - Singleton (2)
第50回 デザインパターンをObjective-Cで - Singleton (1)
第49回 デザインパターンで読み解くCocoa
第48回 F-Script - CocoaとObjective-Cのスクリプティング環境
第47回 AspectCocoa (5) - インプットマネージャとの連携
第46回 AspectCocoa (4) - AspectCocoaの実例
第45回 AspectCocoa (3) - フォワーディングとポージングの利用
第44回 AspectCocoa (2) - IMPによるアスペクト指向の実現
第43回 AspectCocoa (1) - Objective-CとCocoaによるアスペクト指向
第42回 SIMBLでハックを管理
第41回 インプットマネージャから侵入
第40回 Toll-free bridge (3) - Objective-Cメソッドの処理
第39回 Toll-free bridge (2) - Core Foundationのisaフィールド
第38回 Toll-free bridge(1) - 変換コスト0のブリッジ
第37回 Core Foudation (5) - インスタンスの実装
第36回 Core Foudation (4) - 多態性の実現
第35回 Core Foundation(3) - クラスの定義
第34回 Core Foundation(2) - C言語によるオブジェクト
第33回 Core Foundation(1) - Core Foundation誕生前夜
第32回 抽象クラスとクラスクラスタ
第31回 ランタイムAPIでさらに動的に(5) - インスタンス変数に動的にアクセス
第30回 ランタイムAPIでさらに動的に(4) - インスタンス変数の定義を調査
第29回 ランタイムAPIでさらに動的に(3) - メソッドの実装の置換
第28回 ランタイムAPIでさらに動的に(2) - メソッドの追加
第27回 ランタイムAPIでさらに動的に(1) - 動的なクラスの作成
第26回 メッセージ送信(4) - メッセージ送信の流れと関数呼び出しとの違い
第25回 メッセージ送信(3) - メソッドのキャッシング
第24回 メッセージ送信(2) - メソッドリストからメソッドを検索する
第23回 メッセージ送信(1) - objc_msgSendの実装
第22回 メソッドとは何か(5) - メソッドの実装
第21回 メソッドとは何か(4) - セレクタの実体
第20回 メソッドとは何か(3) - メソッドの型を読み解く
第19回 メソッドとは何か(2) - メソッドを取得する
第18回 メソッドとは何か(1) - メソッド、セレクタ、メソッドの実装
第17回 クラスとは何か(4) - Objective-Cにおけるオブジェクトとは何か?
第16回 クラスとは何か(3) - メタクラスと親クラス
第15回 クラスとは何か(2) - クラス情報に直接アクセスする
第14回 クラスとは何か(1) - Mac OS X/Objective-Cにおけるクラスの実装を読む
第13回 Objective-Cのエンジン部 - ランタイムに踏み込む
第12回 ポージングで乗っ取り
第11回 2つのプロトコルの使い分け
第10回 非形式プロトコル - もう1つのプロトコル
第9回 プロトコルが必要とされた背景とは? - なぜあえて静的な型を?
第8回 カテゴリ - 動的なメソッドの追加によるクラスの拡張
第7回 Objective-Cと様々な言語のブリッジ - PyObjC、RubyCocoa……
第6回 Cocoa-Javaの挑戦とは? - 似て非なるセレクタとリフレクション
第5回 ターゲット/アクションパラダイム(2) - その利点を徹底検証
第4回 ターゲット/アクションパラダイム(1) - 動的特性を利用したデザインパターン
第3回 Cocoa実現の肝 - クラスとそのメソッドの調査方法をチェック
第2回 Objective-Cの動的型付け
第1回 CocoaとObjective-Cと動的なオブジェクト指向 - Cocoaハックの第1歩

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