【コラム】

ダイナミックObjective-C

18 メソッドとは何か(1) - メソッド、セレクタ、メソッドの実装

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Objective-Cのランタイム調査。クラス、オブジェクトと来て、今回からはメソッドに取りかかろう。

メソッドは、クラスに属する、処理の単位だ。とはいっても、C言語の関数と変わらないんじゃないの? と、思う方もいるかもしれない。最終的にはそうなるのだが、Objective-Cのメソッドには、もう少しだけひねりが入っている。小さな差だが、決定的な差だ。ここを見ていこう。

メソッドにまつわる3つの用語

まず、メソッドにまつわる用語を整理しよう。この連載を読んでいる方の中には、過去の記事で、メソッドに関する話をするとき、3つの用語が使われていることに気づいている方もいるかもしれない。1つは、メソッド。2つ目は、セレクタ。そして3つ目は、メソッドの実装だ。

ややもすると混同してしまいそうな、この3つの用語。ここできちんと説明しておこう。

たとえば、次のようなコードで、クラスClassAに、メソッドmethodAがあるとする。

@implementation Class A

- (void)methodA
{
    int i;
    for (i = 0; i < 10; i++) {
     ...
}

@end

このクラスをコンパイルすると、methodAは、どのような形でClassAの中に存在することになるのか?

まず、ClassAは、methodAをメソッドとして保持する。このメソッドとは、methodAに関する情報を管理する構造体だと考えて欲しい。クラスはメソッドの集合を管理する。

そして、メソッドには名前がある。メソッドの名前となるのが、セレクタだ。セレクタ自体は、文字列と考えてしまって問題ない。

methodAの中身、つまり上のコードでいうと、int i; for (i = 0; ...) といったコードをコンパイルしたものは、バイトコードとして、メソッドとは別のところに置かれる。これが、メソッドの実装だ。メソッドは、メソッドの実装を、C言語関数のポインタとして持っている。

この3者の関係を図で表すと、次のようになるだろう。クラスが直接メソッドの実装を持つのではなく、間にメソッドを入れているところがポイントとなる。

図 メソッド、セレクタ、メソッドの実装

これらの要素のために、型も定義されている。

  • メソッド Method型
  • セレクタ SEL型
  • メソッドの実装 IMP型

では、いつも通り、これらの型を調べていこう。

Method型の定義

まず、Method型から始めよう。Methodの定義は、objc-class.hにある。

objc-class.h

typedef struct objc_method *Method;

構造体objc_methodのポインタだ。この構造体の定義は、コードですぐ下にある。

struct objc_method {
    SEL method_name;
    char *method_types;
    IMP method_imp;
};

これが、メソッドの正体となる。最初にあるのが、メソッドの名前を表す、セレクタであるmethod_nameだ。

次に、char型のmethod_typesが来る。これは、メソッドが取る引数を表すものだ。メソッドの名前であるセレクタには、そのメソッドが取りうる引数の情報は含まれていない。method_typesを調べる事で、メソッドの引数を知る事ができる。

3つ目は、メソッドの実装へのポインタである、method_impだ。IMP型になっている。

SEL型の定義

続いて、セレクタである、SEL型を調べよう。SELの定義は、objc.hにある。

objc.h

typedef struct objc_selector *SEL;    

つまり、objc_selector構造体のポインタ型となる。では、objc_selectorの定義はどうか? 実は、objc_selectorの定義は見つからない。これは、定義されていない構造体をtypedefで使う、Opaque構造体と呼ばれるものだ。Opaque構造体を使う事で、定義をプログラマから隠したり、不用意に構造体のフィールドを使われる事を避ける事ができる。

ただ実際のところ、Mac OS Xの実装では、SEL型としてchar型が使われている事が分かっている。これは、次のようなコードで確かめる事ができる。

void printSelector() {
    SEL selector;
    selector = @selector(methodA);
    printf("%s", (char*)selector);
}

このように、printfの文字列表示フォーマットである、%sを使う事で、SEL型を表示する事ができる。これにより、SEL型の中身は、NULL文字で終わる、C言語タイプの文字列である事が想像できる。もちろん、実際にプログラム中でセレクタの名前を取得したいときは、このように直接キャストするのではなく、提供されている関数NSStringFromSelectorを使うのが、正しい方法だ。

では、コード中で作成したC言語の文字列をセレクタとして利用できるかというと、実はそれはできない。セレクタは、ランタイムによって確保された、特別な文字列ということだ。これは、後日説明しよう。

IMP型の定義

IMP型の定義は、objc.hにある。

objc.h

typedef id (*IMP)(id, SEL, ...);

これは、C言語に慣れていない方には見づらいと思うが、関数ポインタである。引数として、第一引数がid型、第二引数としてSEL型をとり、かつ可変長引数であり、返り値としてidを返す、関数のポインタである。メソッドの実装となる関数は、このような型になる。

これで、メソッドを構成する3つの要素、メソッド、セレクタ、メソッドの実装、の実体が分かったと思う。次回からは、これらを使ってメソッド呼び出しの動作を調べていこう。

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インデックス

連載目次
第121回 デザインパターンをObjective-Cで - Visitor (2)
第120回 デザインパターンをObjective-Cで - Visitor (1)
第119回 デザインパターンをObjective-Cで - Template Method (1)
第118回 デザインパターンをObjective-Cで - Strategy (1)
第117回 デザインパターンをObjective-Cで - State (1)
第116回 デザインパターンをObjective-Cで - Interpreter (2)
第115回 デザインパターンをObjective-Cで - Interpreter (1)
第114回 デザインパターンをObjective-Cで - Mediator (3)
第113回 デザインパターンをObjective-Cで - Mediator (2)
第112回 デザインパターンをObjective-Cで - Mediator (1)
第111回 デザインパターンをObjective-Cで - Observer (3)
第110回 デザインパターンをObjective-Cで - Observer (2)
第109回 デザインパターンをObjective-Cで - Observer (1)
第108回 Fast Enumeration (4) - Fast Enumerationに対応するクラスの実装
第107回 Fast Enumeration (3) - Fast Enumerationのソースコード
第106回 Fast Enumeration(2) - NSFastEnumerationプロトコル
第105回 Fast Enumeration(1) - 速い列挙子
第104回 プロパティ(4) - プロパティの属性
第103回 プロパティ(3) - ドット演算子
第102回 プロパティ(2) - プロパティの宣言
第101回 プロパティ(1) - インスタンス変数のアクセス制御
第100回 ガベージコレクション(5) - コピーGCとコンパクション
第99回 ガベージコレクション (4) - マーク・アンド・スイープ
第98回 ガベージコレクション(3) - 保守的でありながらオブジェクト的
第97回 ガベージコレクション (2) - 実体であるlibauto
第96回 ガベージコレクション (1) - GCのためのAPI
第95回 デザインパターンをObjective-Cで - Memento (2)
第94回 デザインパターンをObjective-Cで - Memento (1)
第93回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (5)
第92回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (4)
第91回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (3)
第90回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (2)
第89回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (1)
第88回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (5)
第87回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (4)
第86回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (3)
第85回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (2)
第84回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (1)
第83回 デザインパターンをObjective-Cで - Iterator (2)
第82回 デザインパターンをObjective-Cで - Iterator (1)
第81回 デザインパターンをObjective-Cで - Proxy (3)
第80回 デザインパターンをObjective-Cで - Proxy (2)
第79回 デザインパターンをObjective-Cで - Proxy (1)
第78回 デザインパターンをObjective-Cで - Flyweight (2)
第77回 デザインパターンをObjective-Cで - Flyweight (1)
第76回 デザインパターンをObjective-Cで - Facade (1)
第75回 デザインパターンをObjective-Cで - Decorator (2)
第74回 デザインパターンをObjective-Cで - Decorator (1)
第73回 デザインパターンをObjective-Cで - Composite (2)
第72回 デザインパターンをObjective-Cで - Composite (1)
第71回 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (3)
第70回 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (2)
第69回 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (1)
第68回 デザインパターンをObjective-Cで - Web Kitを考える Adapter (4)
第67回 デザインパターンをObjective-Cで - Adapater(3)
第66回 デザインパターンをObjective-Cで - Adapater (2)
第65回 デザインパターンをObjective-Cで - Adapter (1)
第64回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (4)
第63回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (3)
第62回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (2)
第61回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (1)
第60回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (4)
第59回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (3)
第58回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (2)
第57回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (1)
第56回 デザインパターンをObjective-Cで - Builder (2)
第55回 デザインパターンをObjective-Cで - Builder (1)
第54回 デザインパターンをObjective-Cで - Abstract Factory (2)
第53回 デザインパターンをObjective-Cで - Abstract Factory (1)
第52回 デザインパターンをObjective-Cで - Singleton (3)
第51回 デザインパターンをObjective-Cで - Singleton (2)
第50回 デザインパターンをObjective-Cで - Singleton (1)
第49回 デザインパターンで読み解くCocoa
第48回 F-Script - CocoaとObjective-Cのスクリプティング環境
第47回 AspectCocoa (5) - インプットマネージャとの連携
第46回 AspectCocoa (4) - AspectCocoaの実例
第45回 AspectCocoa (3) - フォワーディングとポージングの利用
第44回 AspectCocoa (2) - IMPによるアスペクト指向の実現
第43回 AspectCocoa (1) - Objective-CとCocoaによるアスペクト指向
第42回 SIMBLでハックを管理
第41回 インプットマネージャから侵入
第40回 Toll-free bridge (3) - Objective-Cメソッドの処理
第39回 Toll-free bridge (2) - Core Foundationのisaフィールド
第38回 Toll-free bridge(1) - 変換コスト0のブリッジ
第37回 Core Foudation (5) - インスタンスの実装
第36回 Core Foudation (4) - 多態性の実現
第35回 Core Foundation(3) - クラスの定義
第34回 Core Foundation(2) - C言語によるオブジェクト
第33回 Core Foundation(1) - Core Foundation誕生前夜
第32回 抽象クラスとクラスクラスタ
第31回 ランタイムAPIでさらに動的に(5) - インスタンス変数に動的にアクセス
第30回 ランタイムAPIでさらに動的に(4) - インスタンス変数の定義を調査
第29回 ランタイムAPIでさらに動的に(3) - メソッドの実装の置換
第28回 ランタイムAPIでさらに動的に(2) - メソッドの追加
第27回 ランタイムAPIでさらに動的に(1) - 動的なクラスの作成
第26回 メッセージ送信(4) - メッセージ送信の流れと関数呼び出しとの違い
第25回 メッセージ送信(3) - メソッドのキャッシング
第24回 メッセージ送信(2) - メソッドリストからメソッドを検索する
第23回 メッセージ送信(1) - objc_msgSendの実装
第22回 メソッドとは何か(5) - メソッドの実装
第21回 メソッドとは何か(4) - セレクタの実体
第20回 メソッドとは何か(3) - メソッドの型を読み解く
第19回 メソッドとは何か(2) - メソッドを取得する
第18回 メソッドとは何か(1) - メソッド、セレクタ、メソッドの実装
第17回 クラスとは何か(4) - Objective-Cにおけるオブジェクトとは何か?
第16回 クラスとは何か(3) - メタクラスと親クラス
第15回 クラスとは何か(2) - クラス情報に直接アクセスする
第14回 クラスとは何か(1) - Mac OS X/Objective-Cにおけるクラスの実装を読む
第13回 Objective-Cのエンジン部 - ランタイムに踏み込む
第12回 ポージングで乗っ取り
第11回 2つのプロトコルの使い分け
第10回 非形式プロトコル - もう1つのプロトコル
第9回 プロトコルが必要とされた背景とは? - なぜあえて静的な型を?
第8回 カテゴリ - 動的なメソッドの追加によるクラスの拡張
第7回 Objective-Cと様々な言語のブリッジ - PyObjC、RubyCocoa……
第6回 Cocoa-Javaの挑戦とは? - 似て非なるセレクタとリフレクション
第5回 ターゲット/アクションパラダイム(2) - その利点を徹底検証
第4回 ターゲット/アクションパラダイム(1) - 動的特性を利用したデザインパターン
第3回 Cocoa実現の肝 - クラスとそのメソッドの調査方法をチェック
第2回 Objective-Cの動的型付け
第1回 CocoaとObjective-Cと動的なオブジェクト指向 - Cocoaハックの第1歩

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