【コラム】

ダイナミックObjective-C

14 クラスとは何か(1) - Mac OS X/Objective-Cにおけるクラスの実装を読む

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前回の予告通り、Objective-Cランタイムの解説を始めよう。そのまえに、いくつか準備が必要だ。

ソースコードのダウンロード

まず、Objective-Cランタイムのソースコードの在処を紹介しよう。本連載を読むのにソースコードは必須ではないが、手元にあると何かと便利なことが多いので、ダウンロードしておくことをお勧めする。

この連載では、Mac OS XでのObjective-C実装をもとに解説を行なう。ご存知の方もいると思うが、Mac OS Xは商用OSではあるが、カーネルとBSDレイヤのソースコードは、Darwinと呼ばれるオープンソースプロジェクトの下で公開されている。Objective-Cランタイムのソースコードも、これに含まれている。

ただし、Darwinのソースコードにアクセスするには、ADC (Apple Developer Connection)への登録が必要になる。登録は次のアドレスから行える。Online会員ならば無料である。

ADC Membership

Darwinで公開されているソースコードは、次のアドレスから参照することができる。現在のバージョンは、Mac OS Xは10.4.3、Darwinはそれに合わせた8.3となっている。

Apple - Mac OS X 10.4.3 (Darwin 8.3)

Darwinに含まれる、多数のプロジェクトのソースコードがあると思う。この中の、「objc4」が目的のObjective-Cランタイムである。現在はobjc4-267というバージョンになっている。これをダウンロードしよう。

また、Mac OS Xにも標準で、Objective-Cランタイムのヘッダファイルが含まれている。/usr/include/objcディレクトリにあるファイルがそれだ。こちらを参照してもいいだろう。

ランタイムでは、APIドキュメントも公開されている。こちらも合わせて紹介しておこう。以下のページで見ることができる。

Objective-CランタイムAPIドキュメント

このドキュメントの最初のページにも書かれているが、ランタイムAPIは仕様として決まっているものではなく、それぞれの実装に依存している。あくまで、このドキュメントは、Mac OS X版のランタイムAPIということになる。

クラスとは何か

これで準備は完了だ。では、始めよう。

まず、クラスとは何か、というところから始めよう。ここでは、オブジェクト指向においてクラスとはどういう概念か、ということではなく、Objective-Cでクラスはどう実装されているのか、ということを解説する。

スタート地点として、まず言語仕様を確認しよう。Objective-Cでは、クラスはClass型で表現する。つまり、このClass型の定義が、クラス調査の入り口となる。

Class型の宣言を見てみよう。ダウンロードしたファイルか、includeディレクトリにある、objc.hファイルの中で宣言されている。

typedef struct objc_class *Class;

つまり、Class型とは、構造体objc_classのポインタであるということが分かる。続いて、この構造体objc_classを調べよう。objc-class.hに定義がある。

struct objc_class {
    struct objc_class *isa;
    struct objc_class *super_class;
    const char *name;
    long version;
    long info;
    long instance_size;
    struct objc_ivar_list *ivars;

    struct objc_method_list **methodLists;

    struct objc_cache *cache;
    struct objc_protocol_list *protocols;
};

これが、クラスの実体だ。クラスとは何か、という問いに対する最も端的な答えは、この構造体になる。もちろん、これだけ見ても全く意味がつかめないので、内部を詳しく調べよう。

クラス構造体で使われている変数は、以下のように分けることができるだろう。

  • クラスの情報
    名前を表すname。メタクラスを表すisa。親クラスを表すsuper_class。バージョンを表すversion。クラス情報のフラグを保持するためのinfo
  • インスタンス変数の情報
    インスタンス変数のサイズを表すinstance_size。インスタンス変数のリストを表すivars
  • メソッドの情報
    メソッドのリストのmethodLists。メソッドをキャッシュしているcache
  • プロトコルの情報
    準拠しているプロトコルのリストのprotocols

objc_class構造体

この構造体を見ると、まず一般的なオブジェクト指向の構成要素である、インスタンス変数とメソッドの情報を含むことが分かるだろう。この情報には、メソッドとインスタンス変数の型と名前も含まれている。これが、メソッドおよびインスタンス変数のメタ情報となる。

他にも、クラスの情報が豊富にあったり、Objective-C特有のものとしてプロトコルの情報があることにも気づくだろう。

次回は、実際にプログラムを動かしながら、もっと詳しく調べていこう。

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インデックス

連載目次
第121回 デザインパターンをObjective-Cで - Visitor (2)
第120回 デザインパターンをObjective-Cで - Visitor (1)
第119回 デザインパターンをObjective-Cで - Template Method (1)
第118回 デザインパターンをObjective-Cで - Strategy (1)
第117回 デザインパターンをObjective-Cで - State (1)
第116回 デザインパターンをObjective-Cで - Interpreter (2)
第115回 デザインパターンをObjective-Cで - Interpreter (1)
第114回 デザインパターンをObjective-Cで - Mediator (3)
第113回 デザインパターンをObjective-Cで - Mediator (2)
第112回 デザインパターンをObjective-Cで - Mediator (1)
第111回 デザインパターンをObjective-Cで - Observer (3)
第110回 デザインパターンをObjective-Cで - Observer (2)
第109回 デザインパターンをObjective-Cで - Observer (1)
第108回 Fast Enumeration (4) - Fast Enumerationに対応するクラスの実装
第107回 Fast Enumeration (3) - Fast Enumerationのソースコード
第106回 Fast Enumeration(2) - NSFastEnumerationプロトコル
第105回 Fast Enumeration(1) - 速い列挙子
第104回 プロパティ(4) - プロパティの属性
第103回 プロパティ(3) - ドット演算子
第102回 プロパティ(2) - プロパティの宣言
第101回 プロパティ(1) - インスタンス変数のアクセス制御
第100回 ガベージコレクション(5) - コピーGCとコンパクション
第99回 ガベージコレクション (4) - マーク・アンド・スイープ
第98回 ガベージコレクション(3) - 保守的でありながらオブジェクト的
第97回 ガベージコレクション (2) - 実体であるlibauto
第96回 ガベージコレクション (1) - GCのためのAPI
第95回 デザインパターンをObjective-Cで - Memento (2)
第94回 デザインパターンをObjective-Cで - Memento (1)
第93回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (5)
第92回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (4)
第91回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (3)
第90回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (2)
第89回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (1)
第88回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (5)
第87回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (4)
第86回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (3)
第85回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (2)
第84回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (1)
第83回 デザインパターンをObjective-Cで - Iterator (2)
第82回 デザインパターンをObjective-Cで - Iterator (1)
第81回 デザインパターンをObjective-Cで - Proxy (3)
第80回 デザインパターンをObjective-Cで - Proxy (2)
第79回 デザインパターンをObjective-Cで - Proxy (1)
第78回 デザインパターンをObjective-Cで - Flyweight (2)
第77回 デザインパターンをObjective-Cで - Flyweight (1)
第76回 デザインパターンをObjective-Cで - Facade (1)
第75回 デザインパターンをObjective-Cで - Decorator (2)
第74回 デザインパターンをObjective-Cで - Decorator (1)
第73回 デザインパターンをObjective-Cで - Composite (2)
第72回 デザインパターンをObjective-Cで - Composite (1)
第71回 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (3)
第70回 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (2)
第69回 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (1)
第68回 デザインパターンをObjective-Cで - Web Kitを考える Adapter (4)
第67回 デザインパターンをObjective-Cで - Adapater(3)
第66回 デザインパターンをObjective-Cで - Adapater (2)
第65回 デザインパターンをObjective-Cで - Adapter (1)
第64回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (4)
第63回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (3)
第62回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (2)
第61回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (1)
第60回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (4)
第59回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (3)
第58回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (2)
第57回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (1)
第56回 デザインパターンをObjective-Cで - Builder (2)
第55回 デザインパターンをObjective-Cで - Builder (1)
第54回 デザインパターンをObjective-Cで - Abstract Factory (2)
第53回 デザインパターンをObjective-Cで - Abstract Factory (1)
第52回 デザインパターンをObjective-Cで - Singleton (3)
第51回 デザインパターンをObjective-Cで - Singleton (2)
第50回 デザインパターンをObjective-Cで - Singleton (1)
第49回 デザインパターンで読み解くCocoa
第48回 F-Script - CocoaとObjective-Cのスクリプティング環境
第47回 AspectCocoa (5) - インプットマネージャとの連携
第46回 AspectCocoa (4) - AspectCocoaの実例
第45回 AspectCocoa (3) - フォワーディングとポージングの利用
第44回 AspectCocoa (2) - IMPによるアスペクト指向の実現
第43回 AspectCocoa (1) - Objective-CとCocoaによるアスペクト指向
第42回 SIMBLでハックを管理
第41回 インプットマネージャから侵入
第40回 Toll-free bridge (3) - Objective-Cメソッドの処理
第39回 Toll-free bridge (2) - Core Foundationのisaフィールド
第38回 Toll-free bridge(1) - 変換コスト0のブリッジ
第37回 Core Foudation (5) - インスタンスの実装
第36回 Core Foudation (4) - 多態性の実現
第35回 Core Foundation(3) - クラスの定義
第34回 Core Foundation(2) - C言語によるオブジェクト
第33回 Core Foundation(1) - Core Foundation誕生前夜
第32回 抽象クラスとクラスクラスタ
第31回 ランタイムAPIでさらに動的に(5) - インスタンス変数に動的にアクセス
第30回 ランタイムAPIでさらに動的に(4) - インスタンス変数の定義を調査
第29回 ランタイムAPIでさらに動的に(3) - メソッドの実装の置換
第28回 ランタイムAPIでさらに動的に(2) - メソッドの追加
第27回 ランタイムAPIでさらに動的に(1) - 動的なクラスの作成
第26回 メッセージ送信(4) - メッセージ送信の流れと関数呼び出しとの違い
第25回 メッセージ送信(3) - メソッドのキャッシング
第24回 メッセージ送信(2) - メソッドリストからメソッドを検索する
第23回 メッセージ送信(1) - objc_msgSendの実装
第22回 メソッドとは何か(5) - メソッドの実装
第21回 メソッドとは何か(4) - セレクタの実体
第20回 メソッドとは何か(3) - メソッドの型を読み解く
第19回 メソッドとは何か(2) - メソッドを取得する
第18回 メソッドとは何か(1) - メソッド、セレクタ、メソッドの実装
第17回 クラスとは何か(4) - Objective-Cにおけるオブジェクトとは何か?
第16回 クラスとは何か(3) - メタクラスと親クラス
第15回 クラスとは何か(2) - クラス情報に直接アクセスする
第14回 クラスとは何か(1) - Mac OS X/Objective-Cにおけるクラスの実装を読む
第13回 Objective-Cのエンジン部 - ランタイムに踏み込む
第12回 ポージングで乗っ取り
第11回 2つのプロトコルの使い分け
第10回 非形式プロトコル - もう1つのプロトコル
第9回 プロトコルが必要とされた背景とは? - なぜあえて静的な型を?
第8回 カテゴリ - 動的なメソッドの追加によるクラスの拡張
第7回 Objective-Cと様々な言語のブリッジ - PyObjC、RubyCocoa……
第6回 Cocoa-Javaの挑戦とは? - 似て非なるセレクタとリフレクション
第5回 ターゲット/アクションパラダイム(2) - その利点を徹底検証
第4回 ターゲット/アクションパラダイム(1) - 動的特性を利用したデザインパターン
第3回 Cocoa実現の肝 - クラスとそのメソッドの調査方法をチェック
第2回 Objective-Cの動的型付け
第1回 CocoaとObjective-Cと動的なオブジェクト指向 - Cocoaハックの第1歩

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