【コラム】

ダイナミックObjective-C

7 Objective-Cと様々な言語のブリッジ - PyObjC、RubyCocoa……

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前回は、Objective-CとJavaの間でのブリッジを、Cocoaのターゲット/アクションパラダイムに着目して紹介したが、他の言語からもObjective-Cへのブリッジが存在する。特に、スクリプティング言語とのブリッジは、お互いに動的な特性が似ているので、実現しやすいようだ。今回は、それらを考察してみたい。

PyObjCとRubyCocoa

PyObjCはPythonと、RubyCocoaはRubyとの間で、Objective-Cへのブリッジを実現する。どちらのライブラリも、Cocoaを含むObjective-Cベースのフレームワークにアクセスすることができ、使い慣れた言語を使ってアプリケーションを作ることができる。また、XcodeやInterface Builderといった、Mac OS Xとの開発環境とも統合されており、完成度は高い。

では前回に引き続き、これらのライブラリでのセレクタの扱いを見てみよう。Python、Rubyともに、メソッドをオブジェクトとして扱う機構は持っているが、これらはObjective-Cのセレクタと直接交換はできない。そこで、文字列を使ってセレクタの代用をしている。

たとえば、PyObjCでは、次のようなソースコードで、他のアプリケーション起動の通知を受け取ることができる。

class PyObjcTestAppDelegate(NibClassBuilder.AutoBaseClass):
    # 起動の通知を受け取るメソッド
    def willLaunchApplication_(self, notification):
        print "An application is launched"
    
    def awakeFromNib(self):
        # NSWorkspaceのインスタンスを取得
        workspace = NSWorkspace.sharedWorkspace()
        notificationCenter = workspace.notificationCenter()
        # 通知を受け取るために、インスタンスとメソッドを登録
        notificationCenter.addObserver_selector_name_object_(
                self, 
                "willLaunchApplication:", 
                NSWorkspaceWillLaunchApplicationNotification, 
                None)

NSWorkspaceというクラスを使い起動通知の受け取り処理を行っている。注目してほしいのは最後の処理である、addObserver_selector_name_objectというメソッドだ。このメソッドは通知受け取りの登録をするもので、第1引数にオブジェクトを、第2引数では呼び出されるメソッドの名前を文字列で指定している。

上のソースコードにあるように、PyObjCでは、指定するメソッド名はObjective-Cスタイルになっている。つまり、実際のCocoaへの登録、および通知の受け取りは、Objective-C空間で行われることになる。通知を受け取った後は、Objective-Cメソッド名をPythonスタイルに変換し、そのPython空間のメソッドを呼び出すことになる。

つまりここでも、文字列からのメソッド呼び出し機構が重要な役割を果たしている訳だ。

C++ブリッジは可能か?

では、C++ではどうだろう?C++で、このようなObjective-Cブリッジを作ることはできるだろうか。結論から言ってしまえば、非常に難しい。いろいろな問題があるが、このターゲット/アクションの実装に限っても、任意のメソッドを変数として与えて実行するという機能がないため、代替物がないからだ。

C++でこの種の機能に一番近いものは、メンバ関数ポインタとなるだろうか。だがメンバ関数ポインタは、実装そのものを指すもので、そのクラスやメソッドに関する情報は含まれない。これでは、実装の有無をチェックしたり、セレクタのように異なるクラスに対して適用するといったことは、無理である。

どうしてもC++で実装するならば、メンバ関数ポインタとメンバ関数名のテーブルを作り、実行時に探索して呼び出すことになる。これは、動的な言語のランタイムが行っていることを、もう一度作り直すことと同じになるだろう。

Objective-Cのメッセージ送信

ターゲット/アクションパライダイムを切り口として、様々な言語とObjective-Cとのブリッジを紹介してみたが、これで明らかになったのは、Cocoa + Objective-Cで求められていることは、メソッドを、メソッドの実体と切り離した状態で記述し、それを任意のオブジェクトに対して適用することだ。

Objective-Cではこのことを、メッセージ送信と呼ぶ。「メッセージ送信」という言葉は様々な文脈で使われるが、Objective-Cではこのような意味で使われる。メッセージの実体となるのはセレクタだ。このメッセージ送信の中に、Objective-Cの動的特性の醍醐味がある。後日稿を改めてメッセージング機構の大解剖を行い詳しく解説することになるだろう。

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インデックス

連載目次
第121回 デザインパターンをObjective-Cで - Visitor (2)
第120回 デザインパターンをObjective-Cで - Visitor (1)
第119回 デザインパターンをObjective-Cで - Template Method (1)
第118回 デザインパターンをObjective-Cで - Strategy (1)
第117回 デザインパターンをObjective-Cで - State (1)
第116回 デザインパターンをObjective-Cで - Interpreter (2)
第115回 デザインパターンをObjective-Cで - Interpreter (1)
第114回 デザインパターンをObjective-Cで - Mediator (3)
第113回 デザインパターンをObjective-Cで - Mediator (2)
第112回 デザインパターンをObjective-Cで - Mediator (1)
第111回 デザインパターンをObjective-Cで - Observer (3)
第110回 デザインパターンをObjective-Cで - Observer (2)
第109回 デザインパターンをObjective-Cで - Observer (1)
第108回 Fast Enumeration (4) - Fast Enumerationに対応するクラスの実装
第107回 Fast Enumeration (3) - Fast Enumerationのソースコード
第106回 Fast Enumeration(2) - NSFastEnumerationプロトコル
第105回 Fast Enumeration(1) - 速い列挙子
第104回 プロパティ(4) - プロパティの属性
第103回 プロパティ(3) - ドット演算子
第102回 プロパティ(2) - プロパティの宣言
第101回 プロパティ(1) - インスタンス変数のアクセス制御
第100回 ガベージコレクション(5) - コピーGCとコンパクション
第99回 ガベージコレクション (4) - マーク・アンド・スイープ
第98回 ガベージコレクション(3) - 保守的でありながらオブジェクト的
第97回 ガベージコレクション (2) - 実体であるlibauto
第96回 ガベージコレクション (1) - GCのためのAPI
第95回 デザインパターンをObjective-Cで - Memento (2)
第94回 デザインパターンをObjective-Cで - Memento (1)
第93回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (5)
第92回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (4)
第91回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (3)
第90回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (2)
第89回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (1)
第88回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (5)
第87回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (4)
第86回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (3)
第85回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (2)
第84回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (1)
第83回 デザインパターンをObjective-Cで - Iterator (2)
第82回 デザインパターンをObjective-Cで - Iterator (1)
第81回 デザインパターンをObjective-Cで - Proxy (3)
第80回 デザインパターンをObjective-Cで - Proxy (2)
第79回 デザインパターンをObjective-Cで - Proxy (1)
第78回 デザインパターンをObjective-Cで - Flyweight (2)
第77回 デザインパターンをObjective-Cで - Flyweight (1)
第76回 デザインパターンをObjective-Cで - Facade (1)
第75回 デザインパターンをObjective-Cで - Decorator (2)
第74回 デザインパターンをObjective-Cで - Decorator (1)
第73回 デザインパターンをObjective-Cで - Composite (2)
第72回 デザインパターンをObjective-Cで - Composite (1)
第71回 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (3)
第70回 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (2)
第69回 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (1)
第68回 デザインパターンをObjective-Cで - Web Kitを考える Adapter (4)
第67回 デザインパターンをObjective-Cで - Adapater(3)
第66回 デザインパターンをObjective-Cで - Adapater (2)
第65回 デザインパターンをObjective-Cで - Adapter (1)
第64回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (4)
第63回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (3)
第62回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (2)
第61回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (1)
第60回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (4)
第59回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (3)
第58回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (2)
第57回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (1)
第56回 デザインパターンをObjective-Cで - Builder (2)
第55回 デザインパターンをObjective-Cで - Builder (1)
第54回 デザインパターンをObjective-Cで - Abstract Factory (2)
第53回 デザインパターンをObjective-Cで - Abstract Factory (1)
第52回 デザインパターンをObjective-Cで - Singleton (3)
第51回 デザインパターンをObjective-Cで - Singleton (2)
第50回 デザインパターンをObjective-Cで - Singleton (1)
第49回 デザインパターンで読み解くCocoa
第48回 F-Script - CocoaとObjective-Cのスクリプティング環境
第47回 AspectCocoa (5) - インプットマネージャとの連携
第46回 AspectCocoa (4) - AspectCocoaの実例
第45回 AspectCocoa (3) - フォワーディングとポージングの利用
第44回 AspectCocoa (2) - IMPによるアスペクト指向の実現
第43回 AspectCocoa (1) - Objective-CとCocoaによるアスペクト指向
第42回 SIMBLでハックを管理
第41回 インプットマネージャから侵入
第40回 Toll-free bridge (3) - Objective-Cメソッドの処理
第39回 Toll-free bridge (2) - Core Foundationのisaフィールド
第38回 Toll-free bridge(1) - 変換コスト0のブリッジ
第37回 Core Foudation (5) - インスタンスの実装
第36回 Core Foudation (4) - 多態性の実現
第35回 Core Foundation(3) - クラスの定義
第34回 Core Foundation(2) - C言語によるオブジェクト
第33回 Core Foundation(1) - Core Foundation誕生前夜
第32回 抽象クラスとクラスクラスタ
第31回 ランタイムAPIでさらに動的に(5) - インスタンス変数に動的にアクセス
第30回 ランタイムAPIでさらに動的に(4) - インスタンス変数の定義を調査
第29回 ランタイムAPIでさらに動的に(3) - メソッドの実装の置換
第28回 ランタイムAPIでさらに動的に(2) - メソッドの追加
第27回 ランタイムAPIでさらに動的に(1) - 動的なクラスの作成
第26回 メッセージ送信(4) - メッセージ送信の流れと関数呼び出しとの違い
第25回 メッセージ送信(3) - メソッドのキャッシング
第24回 メッセージ送信(2) - メソッドリストからメソッドを検索する
第23回 メッセージ送信(1) - objc_msgSendの実装
第22回 メソッドとは何か(5) - メソッドの実装
第21回 メソッドとは何か(4) - セレクタの実体
第20回 メソッドとは何か(3) - メソッドの型を読み解く
第19回 メソッドとは何か(2) - メソッドを取得する
第18回 メソッドとは何か(1) - メソッド、セレクタ、メソッドの実装
第17回 クラスとは何か(4) - Objective-Cにおけるオブジェクトとは何か?
第16回 クラスとは何か(3) - メタクラスと親クラス
第15回 クラスとは何か(2) - クラス情報に直接アクセスする
第14回 クラスとは何か(1) - Mac OS X/Objective-Cにおけるクラスの実装を読む
第13回 Objective-Cのエンジン部 - ランタイムに踏み込む
第12回 ポージングで乗っ取り
第11回 2つのプロトコルの使い分け
第10回 非形式プロトコル - もう1つのプロトコル
第9回 プロトコルが必要とされた背景とは? - なぜあえて静的な型を?
第8回 カテゴリ - 動的なメソッドの追加によるクラスの拡張
第7回 Objective-Cと様々な言語のブリッジ - PyObjC、RubyCocoa……
第6回 Cocoa-Javaの挑戦とは? - 似て非なるセレクタとリフレクション
第5回 ターゲット/アクションパラダイム(2) - その利点を徹底検証
第4回 ターゲット/アクションパラダイム(1) - 動的特性を利用したデザインパターン
第3回 Cocoa実現の肝 - クラスとそのメソッドの調査方法をチェック
第2回 Objective-Cの動的型付け
第1回 CocoaとObjective-Cと動的なオブジェクト指向 - Cocoaハックの第1歩

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