2020年の初打ち上げへ向けて

現在のところ、ニュー・グレンの開発は順調に続いており、2020年に初打ち上げを行い、2021年から本格的な運用に入り、商業衛星や軍事衛星の打ち上げを行うことが予定されている。

最近では、肝となるロケット・エンジン「BE-4」の組み立てが完了し、燃焼試験に入ることが明らかにされている。

BE-4は液体酸素と液化天然ガスを推進剤とするエンジンで、複雑ながら高い性能が期待できる仕組みを採用している。また液化天然ガスは低コストで、さらに爆発などの危険性が低いため、操作性や安全性が高く、さらにススが発生しにくいため、エンジンを再使用することにも向いている。

さらに、蒸発したガスを使ってタンクの加圧ができるため、ケロシンのようにヘリウムを使ったタンク加圧システムが不要、すなわちそれだけ簡素化、軽量化できるという特長もある。

BE-4はニュー・グレンの第1段に7基、第2段に1基を使い、そのうち第1段の7基は再使用される(再使用可能な回数は不明)。

BE-4はまた、ニュー・グレンの他にも、同じ米国のロケット会社であるユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)が開発している「ヴァルカン」の第1段エンジンとしての採用も内定している。内定、というのは、もしBE-4の開発が遅れたり、頓挫した場合にそなえ、別のメーカーが別のエンジンを開発しているためである。

現在ULAは、主力ロケット「アトラスV」のエンジンに、ロシア製のRD-180を使っている。しかし2014年のクリミア危機を契機に米露関係が悪化したことで、入手に不安がつきまとうようになり、また議会から、そもそも米国の軍事衛星を打ち上げることもあるロケットのエンジンがロシア製というのはいかがなものか、という意見も出たことあり、脱ロシア化に向け、オール米国製のロケットの開発を急いでいる。

ただ、ニュー・グレンもヴァルカンも、完成すれば両者が市場でぶつかり合うことになる。米国内はもちろん、世界中が対象になる商業打ち上げも含めれば、人工衛星打ち上げの需要は多いが、それでも食い合いになることは避けられないだろう。ブルー・オリジンがどのような舵取りを考えているのかは明らかになっていないが、ベゾス氏のことであるからして、何らかの方策を考えていることは間違いない。

BE-4エンジン (C) Blue Origin

BE-4は、3月6日時点で1基が組み立てを終えており、また2基目、3基目の組み立ても進んでいるという (C) Blue Origin

すでに衛星の打ち上げを受注

ニュー・グレンの詳細が明らかにされた日と同じ3月7日、ロケットがまだ影も形もなく、エンジンすらまだ試験中にもかかわらず、ブルー・オリジンはユーテルサットから衛星の打ち上げを受注したと発表した。

ユーテルサットはフランスに本拠地を置く大手の衛星通信会社で、歴史も実績もある老舗である。その会社が、まだ影も形もないロケットを選んだということは、それだけブルー・オリジンという会社やニュー・グレンへの信頼が、今の段階ですでにあるということである。

もちろん、最初の顧客ということでいくらか値引きはあったかもしれないし、あるいは老舗であるがゆえに、ロケット業界を育てるという意味で、あえて新しいロケットを選んだという面もあるかもしれない。衛星事業者にとって、ロケットの選択肢が増えることはリスク分散になり、競争原理により低価格化も期待できる。ただ、それらは選んだ理由のひとつではあっても、決定的な理由ではないだろう。いくら安価でも、失敗する未来が見えているロケットに高価な衛星を委ねる会社はない。

さらに翌8日には、地球を約700機の人工衛星で覆い、全世界にインターネットを提供することを目指している「OneWeb」も、衛星打ち上げでブルー・オリジンと契約した。その約700機(最新の情報では、ソフトバンクによる投資の結果、さらに2000機を追加する計画もあるという)のうち、約400機を5回に分けて打ち上げ、つまり1回に約80機を同時に打ち上げることになるという。

OneWebは2015年に、欧州のロケット運用会社のアリアンスペースと、ロシア製の「ソユーズ」と、開発中の次世代ロケット「アリアン6」を使った打ち上げで契約を交わしている。またアリアンスペースは、エアバスの子会社で、現行のアリアン5の製造やアリアン6の開発を手掛けているエアバス・サフラン・ローンチャーズ(ASL)が最大株主を務めており、ASLがアリアンスペースを完全に買収するための手続きも進んでいる。つまり、エアバスとアリアンスペースがほぼすべての打ち上げを担うと考えられていた[注1]。

にもかかわらず、ここへきて新進気鋭のニュー・グレンが選ばれたのには、ユーテルサットと同様に、ブルー・オリジンやニュー・グレンへの信頼度が高いことを示している。またOnheWebの場合、打ち上げる衛星数が2700機へと、当初の計画の4倍近くにまで増えたことで、ソユーズやアリアンだけでは追いつかないという事情もあったと考えられる。さらに、アリアン6はまだ開発中であり、打ち上げが遅れたり、運用が始まっても信頼性に問題が見つかる可能性がある。ニュー・グレンも開発中ではあるものの、技術的にまったく異なるロケットを押さえておくことで、リスクを分散させる狙いもあるのかもしれない。

まさしくロケット・スタートを切ったニュー・グレンだが、これからも受注を取り続けることができるのか、そもそもニュー・グレンの開発が順調に進むのかもまだわからない。いずれにせよファルコン9をはじめ、米国の他のロケットや、欧州、そして日本などのロケットにとっても、ニュー・グレンの存在は脅威になりつつある。

ジェフ・ベゾス氏とユーテルサットのRodolphe Bremer CEO (C) Blue Origin

ジェフ・ベゾス氏とOneWebの創業者グレッグ・ワイラー氏 (C) Blue Origin

筆者注
OneWebには英国のヴァージン・グループも出資しており、そのヴァージン・グループの傘下には、小型衛星打ち上げ専用の小型ロケット「ローンチャーワン」を開発しているヴァージン・オービットという会社もある。ただ、基本的には大型のロケットで何十機も軌道に投入し、ローンチャーワンはその機動性を活かして、運用中の衛星が故障した際に代替機を打ち上げるなどの、補佐的な役割を果たすことになっている。

次回は3月24日に掲載予定です。

参考

Blue Origin | BE-4
BE-4 Rocket Engine
Blue Origin details new rocket’s capabilities, signs first orbital customer - Spaceflight Now
Eutelsat signs up for Blue Origin’s New Glenn launcher - Eutelsat Corporate
OneWeb weighing 2,000 more satellites - SpaceNews.com