送られてきたメールに記載されたURLをクリックしたら、アダルトサイトにつながり、料金を請求された――。いわゆる「ワンクリック詐欺」というものです。サイト利用者に対し「PCや携帯を通じて個人情報を入手した」との脅し文句を示し、これを信じたユーザーが怖くなり、料金を支払ってしまう被害は後を絶ちません。

今回は、ワンクリック詐欺による料金請求が、法的に全く根拠のないものであることを説明します。法的に見て、契約する意思表示がなければ支払義務は生じないことや、利用料が無料であることを信じてサイトに登録した場合も、民法上の「錯誤」にあたるため、無効を主張できることなどについて、詳しく見ていきます。(編集部)


【Q】メールのアドレスをクリックしたら料金請求、払う必要ある?

私の携帯電話に知らないアドレスからメールが送られてきたので、何気なくそのメールを開けて、表示されているリンクをクリックしました。すると、いきなり怪しげなサイトにつながり、会員登録が完了したとして、「料金を1週間以内に指定の口座に支払うように」との表示が出てきました。私の携帯電話の個体識別番号から個人情報も取得したとして、期限内に料金の支払いがない場合には、法的手続をとることもあると書いてあります。私は料金を支払わなくてはならないのでしょうか?


【A】法律上支払う義務は全くありません。

ご質問にあるような請求は、「ワンクリック詐欺」と呼ばれる詐欺行為であり、法律上料金を支払う義務は全くありません。サイトにアクセスしただけで、個人情報が漏れるようなこともありませんから、このような請求に応じてお金を支払ったり、連絡をとったりしないで下さい。対応に困ったような場合には、お近くの消費生活センターや弁護士、警察などに相談して下さい。


「ワンクリック詐欺」とは?

設問事例のように、送信されてきたメールに表示されたリンクをクリックすると、いきなりアクセス先のサイトで「登録料」「利用料」などの名目で法外な料金を請求される事件が何件も発生しています。

設問事例の他にも、以下のようなパターンなどがあります。

  • アダルトサイトや出会い系サイトに誘導されてしまい、そのサイトから抜けだそうとして登録・登録をしない旨のボタンをクリックしたにも関わらず、サイトに登録されたとの画面に切り替わり、登録料や利用料を請求された。

  • 無料と表示されたサイトの登録申込みボタンを押したところ、利用規約中に、無料なのは最初の登録料や無料ポイント分のみであると表示され、料金を請求された。

この後、「携帯電話の個体識別番号やIPアドレスなどから氏名・住所といった個人情報が特定できる」「期限内に支払がない場合には法的手続をとる」などといって、サイト利用者を不安に陥れ、請求されたとおり支払ってしまうケースが多数出てきています。

このような事例が、「ワンクリック詐欺」と呼ばれています。

国民生活センターのサイトでは、ワンクリック詐欺について、相談があった手口の内容が以下のように紹介されています。

http://www.kokusen.go.jp/soudan_now/click.html

「契約する意思表示」がなければ支払義務は生じない

サイト利用者が料金を支払う義務が生じるとすれば、それは、サイトを利用する契約をサイト運営者と締結した場合です。

そもそも、契約は、当事者双方に契約する意思表示があって初めて成立します。

しかし、設問事例では、何気なくメールを開けてリンクをクリックしたにすぎません。そもそも、どのようなサイトにアクセスするのかも意識しておらず、登録ボタンすらクリックしていない以上、サイトを利用する「契約申込み」や「承諾」の意思表示が存在していません。したがって、このような場合に、契約など成立するはずもありませんから、料金を支払う義務は生じません。

サイトから抜けだそうとしたのに、登録画面に切り替わった事例も同じです。

ワンクリック詐欺は、このように法律上全く支払う義務のないにも関わらず、契約が成立したと誤信させて、料金の支払いを請求するものであり、刑法上は詐欺罪、場合によっては恐喝罪も成立するものです。

無料と勘違いしていた場合の意思表示も無効

上記では、そもそも契約をする意思表示が全くない場合でした。それでは、サイトを利用しようと思って、「無料」と表示された登録ボタンをクリックしたところ、利用規約中に無料なのは最初の登録料や無料ポイント分のみであると表示され、料金を請求されたケースはどうなるでしょうか。

サイトを利用しようと思って、登録申込みボタンをクリックしたわけですから、サイト利用契約の申込みの意思表示は存在することになります。

ただし、サイト利用者は、サイトの利用に料金はかからないと勘違いして、サイト利用契約の申込みの意思表示をしているのです。

勘違いしている場合の意思表示は、民法上は「錯誤」といい、錯誤の意思表示は、勘違いしたことにつき重過失がない限り、無効主張できるものとされています。

さらに、「電子消費者契約法」という法律では、インターネット上の取引では、事業者が申込み・承諾の内容を確認できる画面を表示し、かつ、その意思表示を訂正できるようにしておかないかぎり、たとえ表意者に重過失があったとしても、意思表示の無効が主張できるとされています。

ワンクリック詐欺では、もともと利用者を騙そうとしているのですから、確認画面の表示や意思表示の訂正ができるような措置をとっていることはなく、サイト利用者の重過失の有無にかかわらず、錯誤無効が主張できることになります。

したがいまして、この場合も利用契約が成立したとは言えず、料金を支払う法的義務は生じないのです。

なお、以上の詳細に関しては、本連載の第4回で説明していますので、そちらも参照して下さい。

ワンクリック詐欺の違法性

ワンクリック詐欺に対しては、裁判所も厳しい姿勢を示しています。

サイトに掲載された女性の写真画像をクリックした原告が、画像閲覧サービスの会員登録の意思がないのに自動的に会員登録され、画像閲覧サービスの利用料金名目で不当な支払を請求されたとして、被告に対し、不法行為に基づき損害賠償を請求しました。

判決では、このサイトにある前記画像をクリックしたところ、いきなり画面を暗転させ数字や文字を羅列させた後、個人情報取得完了との表示を行い、いかにも相手方のPC内にスパイウェアを侵入させて個人情報を盗み取ったと不安感を与えたこと、IPアドレスによってPCが特定でき、自宅や勤務先に直接請求するとともに、延滞料も請求することがあるなどと威圧的に請求を行うものであることなどを指摘して、原告は被告の行為により、見すごすことのできない精神的苦痛を被ったとして、慰謝料30万円の損害賠償義務を認めています(東京地方裁判所平成18年1月30日判決)。

このように、ワンクリック詐欺のサイトの運営自体、違法性が高いものであることが、裁判例上からも、はっきり認定されているのです。

また、ワンクリック詐欺のようなサイトは、特定商取引法14条の「意に反して契約の申込みをさせようと」した場合にあたるケースが一般的です。主務大臣はサイト運営者に対して、必要な措置を取るよう指示することができ、指示違反は同法72条によって罰金の対象ともなります。

実際はどう対応したらいい?

ワンクリック詐欺では、料金を支払う法的義務は生じないのですから、「会員登録が完了しました」「料金を支払って下さい」などといった表示が出ても、料金を支払う必要はありません。

携帯電話の個体識別番号で個人情報が特定されることなどもありません。携帯電話の個体識別番号から氏名、住所、携帯電話番号などの個人情報がサイト運営者に伝わることはありませんので、そのまま放置しておけば問題とならないケースがほとんどです。

自分で判断できないような場合には、まず、お近くの消費生活センター、弁護士、警察などの関係機関にまず相談してください。

(尾形信一/英知法律事務所)

弁護士法人 英知法律事務所

情報ネットワーク、情報セキュリティ、内部統制など新しい分野の法律問題に関するエキスパートとして、会社法、損害賠償法など伝統的な法律分野との融合を目指し、企業法務に特化した業務を展開している弁護士法人。大阪の西天満と東京の神谷町に事務所を開設している。 同事務所のURLはこちら→ http://www.law.co.jp/