【コラム】

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25 免責条項はどこまで盾にできるのか? - 消費者契約法と事業者の義務

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オークションサイトをはじめとするECサイトでは、利用者が詐欺などの被害に遭った場合を想定して、「利用者に発生した損害について一切責任を負わない」という免責条項を利用規約などで規定しているケースがほとんどです。ですが、こうした条項によって事業者側が一切責任を負わずに済むかというと、そうはいきません。

例えば、オークションサイトには、消費者を保護するための「消費者契約法」が適用されます。事業者が消費者契約に違反している場合は、免責条項が無効と判断される可能性があるわけです。これはオークションに限ったことではないので、ECサイトを運営している方は注意が必要です。今回は、オークション事業者に関する判例をもとに、免責条項が無効化されるケースについて詳しく見ていくことにします。(編集部)


【Q】オークション詐欺の被害者から補償請求、サイト側に責任はある?

当社は、一般消費者向けのオークションサイトを運営していますが、落札者から、落札した商品が届かず、商品代金をだまし取られたので、補償してもらいたいという請求を受けました。オークションサイトの利用規約においては、「当社はオークション取引に関連して利用者に発生した損害について一切責任を負わない」と規定していますが、当社が責任を負担しなければならない可能性はあるのでしょうか。


【A】免責条項があっても、必ずしも免責されるわけではありません。

「消費者契約法」では、事業者の責任を全部免除する条項や、故意又は重過失があるにもかかわらず責任の一部を免除する条項などについては、無効とされています。したがって、利用規約で責任を負わない旨を定めているからといって、必ずしも責任が免除されるわけではありません。過去の裁判例では、オークション事業者に詐欺被害防止のための注意喚起の措置をとるべき義務を認めたものもあります。そのため、詐欺被害が横行しているにもかかわらず、利用者に注意を喚起しないなどの特別な事情が存する場合には、オークション事業者に責任が発生する可能性があります。また、オークション事業者が、出品者の出品行為を積極的に手伝い、これに伴って手数料などの対価を得ている場合や、特定の出品者を推奨している場合している場合など、オークション取引に実質的に関与している場合にも、責任が発生する可能性があります。


「消費者契約法」について

消費者契約法は、国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的として定められた法律です。一定の場合に消費者に契約の取消権を認め、消費者の利益を不当に害する条項を無効とするなどの方法によって、消費者の利益の擁護を図っています(消費者契約法第1条)。

同法が適用される契約は、消費者と事業者との間で締結される「消費者契約」と呼ばれる契約です。ここで言う「消費者」とは、個人(ただし、事業に関連して契約する場合を除く)をいい、また「事業者」とは、法人その他の団体及び個人事業者(ただし、事業に関連しない場合は除く)をいいます(同法第2条)。

同法は、消費者の利益を不当に害する条項として、事業者が契約に違反したことによって(または債務の履行に際してなされた不法行為によって)、消費者に生じた損害の責任について全部を免除する条項や、事業者に故意または重過失があるにもかかわらず責任の一部を免除する条項などについては、無効とすると定めています(同法第8条)

本件でも、一般消費者が利用する場合、オークション事業者と一般消費者との間の契約には、消費者契約法が適用されます。したがって、事業者が契約に違反している場合には、利用規約を根拠として責任が発生しないと主張したとしても、利用規約は消費者契約に違反するものとして無効と判断される可能性が高いと推測されます。

もちろん、一般消費者向けオークションサイトと言っても、事業者が利用する場合も考えられます。その場合には消費者契約法は適用されず、利用規約が有効と判断される可能性があります。

なお、オークションサイトではなく、自社のWebサイトで自社商品を販売しているような場合にも、同様に「一切の責任を負担しない」という趣旨の規定を定めているケースがありますが、同様の問題が生じることにご注意下さい。

オークション事業者の「義務」とは?

消費者契約法は、事業者に債務不履行や不法行為による責任がある場合を前提として、消費者の利益を擁護するために、一定の範囲でその責任を免除することを無効とするものです。

オークション事業者の立場からは、オークションサイトでの取引について詐欺被害が発生したとしても、以下のように言いたいと推測できます。

「運営会社は取引の当事者ではないので、債務不履行や不法行為による責任がそもそも発生する余地はない、つまり、消費者契約の適用が問題となる以前の問題として、運営会社に責任はなく、そのことを注意的・確認的に定めたのが利用規約である」

他方、オークションサイトの利用者の立場からは、以下のように言いたいところではないでしょうか。

「オークションサイトを信用して取引を行ったものであり、オークション事業者はオークションサイトを運営することによって利益を得ているから、オークションサイトで行われる取引について一定の責任を負担すべきである」

そこで、オークション事業者がオークションサイトでの取引が安全に行われるよう一定の義務を負担するのか、また、負担しているとすればその内容が問題となります。

この点が問題となった裁判例として、名古屋地方裁判所平成20年3月28日付け判決とその控訴審である名古屋高等裁判所平成20年11月11日付け判決があります。

この事案では、オークション事業者の義務として、以下の義務が認められるかについて問題となりました。

  1. 詐欺被害防止に向けた注意喚起を十分に行う義務

  2. 信頼性評価システムを導入して、詐欺被害を防止すべき義務

  3. 利用者に出品情報を提供・開示し、匿名性を排除して、詐欺被害を防止すべき義務

  4. 詐欺被害を防止するためエスクローサービスの利用を義務付ける義務

  5. 補償制度を充実させる義務

この事件で裁判所は、当該オークションサイトにおいて詐欺などの犯罪的行為による被害が頻繁に発生していたという状況があったことなどを根拠として、運営会社に、上記1の「詐欺被害防止に向けた注意喚起を十分に行う義務」があることを認めています。ただし結論としては、運営会社は相応の注意喚起措置を取っていたとして、義務違反は認められていません。

この裁判例からすれば、詐欺被害が横行しているにもかかわらず、利用者に注意を喚起しないなどの特別な事情が存する場合には、オークション事業者に責任が発生する可能性があります。また、「オークション事業者は、取引の場を提供しているにすぎず、落札者と出品者との個々の取引について責任を負わない」という考え方を採用していないことからすれば、例えば、取引の安全性を「売りモノ」にして高額な利用料を収受している場合や、他のオークションサイトでより高度な安全性基準が一般化した場合など、事情が異なれば、異なる義務が認められる可能性も否定できません。

よって、オークション事業者としては、どのような被害が発生しているか調査を行い、被害を防止するために合理的に講じることができる措置があるかということについて、常に検討する姿勢が大切です。

経済産業省の「電子商取引及び情報取引等に関する準則」

経済産業省が公表している「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」においては、オークション事業者が取引に「直接に関与しない場合」と「実質的に関与する場合」とを分けて、直接に関与しない場合でも、オークション事業者が責任を負担する可能性がある場合として、出品物について警察本部長らからオークションの中止命令を受けていたにもかかわらず、オークション事業者が当該出品物についてのオークションを中止しなかったため、落札者が盗品などを購入し、盗品などの所有者から返還請求を受けた場合などを指摘しており、参考となります。

また、実質的に関与する場合については、オークション事業者が利用者の出品行為を積極的に手伝い、これに伴う出品手数料または落札報酬を出品者から受領する場合や、特定の売り主を何らかの形で推奨する場合には、オークション事業者に責任が発生する可能性があると指摘していますので、ご注意下さい。

(南石知哉/英知法律事務所)

弁護士法人 英知法律事務所

情報ネットワーク、情報セキュリティ、内部統制など新しい分野の法律問題に関するエキスパートとして、会社法、損害賠償法など伝統的な法律分野との融合を目指し、企業法務に特化した業務を展開している弁護士法人。大阪の西天満と東京の神谷町に事務所を開設している。 同事務所のURLはこちら→ http://www.law.co.jp/

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