インターネットサービスプロバイダ(ISP)のサーバに障害が発生し、数時間にわたってインターネットを利用できなくなった――。この場合、ISPに対して責任を問うことはできるのでしょうか。ISPとの契約約款には、接続障害に関するISPの免責規定が設けられているものの、まったく責任を負わないのはどうか……と思うかもしれません。

今回は、そのような事業者が一方的に定める約款を、消費者契約法第8条の観点から無効にできるかどうかを考えてみます。ISPに対して"完全なインターネット接続環境"を求めることは、技術的にはほぼ不可能と言えます。そうした技術的事情を考慮したうえで、契約約款に定めた免責事項が"有効である"とする程度に合理的範囲内であるか――その判断が本件の焦点となります。(編集部)


【Q】2~3時間にわたりネットが接続障害、ISPに責任はないの?

私は、インターネットサービスプロバイダ(ISP)とインターネット接続サービス契約を結び、自宅のPCでインターネットを利用しています。ところが先日、ISP側が使用しているソフトウェアの小さなバグが原因でサーバに不具合が生じ、2~3時間にわたり接続障害が発生し、インターネットが利用できなくなりました。そこで後日、接続障害に関してISPに問い合わせたところ、「ISPの方で定めた契約約款では24時間以上の接続障害でなければ責任を負わない」との回答がありました。ISPが一方的に定めた契約約款を根拠に、ISPが全く責任を負わないことは認められるのでしょうか。


【A】契約約款で定めた免責事項の範囲内であれば、責任はありません。

ISPが定めた契約約款は、原則としてあなたにも拘束力が及ぶことになり、ISPは契約約款に規定された範囲内でのみンターネット接続サービスを提供する責任を負うことになります。今回のケースでは24時間以上にわたって利用不能の状態が継続していないのでISPに契約違反はなく、接続障害に関して責任を負わないという考え方が有力です。


契約約款の「効力」

ISPとのインターネット接続サービス契約に際して、契約約款の中にISPの責任を免責、もしくは一部免責するような規定があった場合には、その契約約款の効力は利用者・ISP双方の当事者に及び、ISPは契約約款を根拠にその責任を免れることができるのでしょうか?

現代の大量消費社会・サービス化社会では、事業者が不特定多数の相手方と契約を結ぶ場合、あらかじめ定型的な内容が定められている契約条項を契約約款として定め、当事者間の権利関係は、全て契約約款に基づいて処理するというケースは珍しくありません。

このような契約約款の拘束力について裁判例や有力な考え方では、約款によらないという意思表示がなければ、反証がない限り、「当事者は契約約款による意思をもって契約したものと推定する」とされています。

今回のケースでも、契約約款の内容には従わないといった意思表示をしているような場合でない限り、当事者間で契約約款が拘束力を有するものと考えられます。

契約約款の拘束力が肯定されると、当事者間の契約内容は契約約款で定められ、契約約款で定めた内容・範囲で権利を有し義務を負うことになります。

免責条項の有効性

以上のように、当事者間では原則として契約約款は拘束力がありますが、契約約款は事業者が一方的に定めるものであり、事業者が約款の内容を一方的に有利に定めることにより、消費者の利益を害することも考えられます。

このような事態に対して、消費者の利益を守るべく、消費者契約法第8条では、事業者の契約違反(債務不履行)により消費者に生じた損害を賠償する責任について、その全てを免除する条項は無効とされています。また、故意または重過失により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項についても、無効であるとしています。

今回のケースでは、ISP側が契約違反に該当することを前提として、消費者契約法第8条が適用されるとした場合、契約約款の内容は、損害を賠償する責任を免除したものとして無効とされる可能性があります。

「契約違反なのかどうか」が争点に

しかしそもそも、ISPは常時インターネットサービスの提供を保証するような責務は負っておらず、消費者契約法第8条の適用以前に、今回のようなケースでは、そもそも契約違反ではないから責任を負わないという考え方が有力となっています。

すなわち、サービスの性質上、技術的に履行が不可能な場合には、そもそも責務を負っていないために、契約違反の責任が発生しないと考えられる場合もありえます。その場合には、技術的に履行が不可能な一定期間について責任を免責しても、それは契約違反の責任を免除することにはならない場合もあると考えるものです(『逐条解説 消費者契約法 新版』[内閣府国民生活局 消費者企画課編]163頁~165頁)。

インターネットサービスのような電気通信サービスでは、現在の通信環境やIT技術の水準を考えた場合、フルタイムでの完全なサービス提供の保証を期待することは困難です。また、一旦サービスの中断が発生すると、その原因の特定が困難であり、その復旧に一定時間を要する場合があるといった技術的事情もあります。

上記の技術的事情から、常時インターネット接続を保証することは技術的に不可能であり、一定時間のインターネット接続障害は避けられない場合があります。このような場合に備え、契約約款で一定時間の接続障害につき免責と定めていても、その時間が合理的範囲内である限り、そもそもサービス提供責務の範囲外であり、契約違反とならないと考えられるのです。

このような考え方からすると、一定の合理的期間の利用不能状態については、サービス提供責務の範囲外ということになり、そもそも契約違反には該当しません。したがって、契約違反に該当する場合での免責条項を無効とする規定である消費者契約法第8条も適用がないこととなります。

今回のケースは?

今回の相談事例における、24時間未満の接続障害に関しては責任を負わないという約款規定は、前記の技術的事情を考慮すると、一般的には合理的範囲内とされる可能性が高いと考えられます。

したがいまして、前記の有力な考え方からは、2~3時間にわたりインターネットの接続障害が発生したとしても、それはサービス提供責務の範囲外であり、契約違反にあたらないとされ、そのことから、ISPは責任を負わないという結論になります。

ある程度の規模のプログラムでは、その複雑性ゆえに小さなバグの発生は不可避であり、それを使用しているISPに、仮に過失が認められるとしても軽過失と思われること、また、2~3時間という比較的短時間の接続障害であったことから、今回のケースで免責が認められたとしても、価値判断的にも不公平ということにはならないと思われます。

なお社団法人日本テレコムサービス協会が策定した以下のインターネット接続サービス契約約款モデル条項(α版)においても、同趣旨の規定が定められています。

http://www.telesa.or.jp/guideline/pdf/internet_model200807.pdf

(尾形信一/英知法律事務所)

弁護士法人 英知法律事務所

情報ネットワーク、情報セキュリティ、内部統制など新しい分野の法律問題に関するエキスパートとして、会社法、損害賠償法など伝統的な法律分野との融合を目指し、企業法務に特化した業務を展開している弁護士法人。大阪の西天満と東京の神谷町に事務所を開設している。 同事務所のURLはこちら→ http://www.law.co.jp/