ブロガーにとって読者からの"コメント"は、楽しみである一方、悩みのタネでもあります。たとえば、あなたのブログに書き込まれたコメントを巡って「名誉毀損」問題が起きたとします。名誉を毀損されたとする人から、書き込んだユーザの情報を開示するように請求された場合、あなたはどうすればよいでしょうか。

あなたは、開示請求者の主張を判断し、請求への対応方法を考えなければなりません。開示請求するための要件は「権利侵害が明白であること」。しかし、書き込まれた内容が事実かどうかは知る由もないでしょう。そこで、このような名誉毀損のケースでは、開示請求者に対し、とくに「"違法性阻却事由が存在しない"こと」の立証を求めることになります。どのような場合に名誉毀損に関する開示請求に応えればいいのか――今回はこの点について考えていきたいと思います。(編集部)


【Q】「名誉毀損」書き込みで発信者情報開示請求が…どうしたら?

「A社のX商品を購入して使用していたら、突然発火して火傷(やけど)をした。A社に補償を求めたところ、賠償金は支払うが、このことは内密にしてもらいたいと言われた。A社のX商品は、発火の危険がある欠陥商品であり、本来リコールされなければならないにもかかわらず、A社は事実を隠蔽している」というコメントが私個人のブログに書き込まれていました。するとA社から、「当該書き込みの内容は、A社の名誉を毀損するものであるから、当該書き込みを行った者の情報について開示してほしい」との要請がありました。どのように対応したら良いでしょうか。


【A】「違法性阻却事由」がないことを明らかにするよう求めてください。

発信者情報の開示請求については、権利侵害が明白であることが要件とされており、名誉毀損が問題となる場合には、開示請求者において「違法性阻却事由」が存在しないことまで主張・立証する必要があります。したがって、開設者としては、開示請求者に対して、「事実の真実性が認められないこと」などの違法性阻却事由の不存在まで明らかにするよう求めるとともに、発信者に対して、発信者情報の開示を行ってもよいのかどうか意見を確認する必要があります。


発信者情報開示の請求について

インターネットではさまざまな書き込みが行われていますが、インターネットには高い影響力・伝達力がある一方、一定程度の匿名性があるため、無責任に他人を誹謗中傷し、名誉を毀損する書き込みがなされることがあり、問題となることがあります。

このような場合、名誉を毀損された人は、当該書き込みを行った者を特定するためには、プロバイダ責任制限法に基づいて掲示板などの開設者に対して発信者情報の開示を請求する必要があります。

もっとも、発信者情報の開示に関しては、発信者の有するプライバシー、表現の自由という権利と、被害者の権利回復の必要性を調整する必要があることから、(1)権利侵害が明白であること、(2)発信者の開示を求める正当な理由があることを要件としています。

本件のような名誉毀損が問題となる場合、ブログ開設者としては、権利侵害が明白であるか否か、判断に迷う場合があると思われます。

そこで今回は、名誉毀損を理由とする発信者情報開示請求に関して、どのような場合に権利侵害が明白であると言えるかについて説明します。

なお、発信者情報開示の請求に対する対応については、第11回コラム「ブロガーの悩み - コメント欄を巡る誹謗中傷・削除要求にどうしたらいい?」で説明していますので、そちらもご参考下さい。

名誉毀損の「違法性阻却要件」とは?

名誉毀損は、不特定人が認識できる状態で事実を摘示して他人の社会的信用を低下させた場合に成立します。ですが、一定の場合には違法性が阻却されます。

違法性阻却の要件に関しては、概要、次のように判示した最高裁判所平成9年9月9日判決(裁判所判例サイトがあり、以下の要件を満たせば違法性が阻却されることになります。

(1) 事実を摘示しての名誉毀損の場合

  • 公共の利害に関する事実であること(事実の公共性)

  • 目的が専ら公益を図ることにあること(目的の公益性)

  • 摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があること(事実の真実性)

または、

  • 事実が真実であることの証明がない場合には行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があること

(2) 事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損の場合

  • 公共の利害に関する事実であること

  • 目的が専ら公益を図ることにあること

  • 意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があること

または、

  • 意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がない場合には、行為者において事実を真実と信ずるについて相当の理由があること

  • 人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでないこと

「違法性阻却事由が存在しない」ことの立証が必要

名誉毀損の被害者が発信者情報の開示請求を行う場合、「権利侵害が明白であること」が要件とされていることから、上記の名誉毀損の要件のうち、他人の社会的評価を低下させる書き込みを行ったという客観的事実だけではなく、違法性阻却事由が存在しないことまで主張・立証する必要があると考えられています。

つまり、事実を摘示しての名誉毀損であれば、開示請求を行う側において、(1)事実の公共性、(2)目的の公益性、(3)真実性の要件、のいずれかを欠いていることを主張・立証する必要があります。

相談の件について

本件の書き込み内容は、X商品は発火の危険性がある欠陥商品であり、A社はそのことを隠蔽しているというものですので、事実を摘示してA社の社会的信用を低下させるものであると考えられます。

次に、違法性阻却事由についてですが、生活用品の生命・身体・財産に関わる危険性に関する事実であることからすれば、事実の公共性は認められ、また、そのような事実を公にすることには目的の公益性も認められるものと思われます。

そうすると、本件では、違法性阻却の要件のうち「事実の真実性の要件」が認められれば、本件の書き込み内容は名誉毀損とはならない可能性が高いと思われます。

もっとも、ブログやホームページの開設者は、通常、書き込まれた事実が真実であるか否かということは知り得ません。

開設者としては、開示請求者に対して、権利侵害が明白であることを立証するように求めることとなりますが、その際には、事実の真実性の要件が認められないことについても、開示請求者に対して明らかにするよう求めなければなりません

他方、発信者との関係では、開設者は、発信者に対しては、発信者情報の開示を行ってもよいのかどうか意見を確認する必要がありますので(プロバイダ責任制限法第4条第2項)、その際に、事実の真実性を含め、名誉毀損が成立しないことについて明らかにするよう求めることとなります

(南石知哉/英知法律事務所)

弁護士法人 英知法律事務所

情報ネットワーク、情報セキュリティ、内部統制など新しい分野の法律問題に関するエキスパートとして、会社法、損害賠償法など伝統的な法律分野との融合を目指し、企業法務に特化した業務を展開している弁護士法人。大阪の西天満と東京の神谷町に事務所を開設している。 同事務所のURLはこちら→ http://www.law.co.jp/