【コラム】
走りだしてしばらくすると、蒸気機関車のキャブ(運転席)内に白い蒸気が入ってくる。時には、キャブ内に蒸気が蔓延し、1m先もよく見えないくらいになる。そんな中、くだんの機関士は陽気に歌をうたっている。
そんな様子を見て、ルノワール監督の『La Bete humaine(獣人)』(1939年)という映画を思い出した。それも主人公のジャン・ギャバンではなく、機関士助手役のジュリアン・キャレットの方だ。『La Bete humaine』は、蒸気機関車が舞台になったゾラの小説を映画化したもので、蒸気機関車のキャブ内の映像がふんだんに出てくる。多くの映画で道化役として有名だったキャレットは、この映画においても陽気な機関士助手を演じていて、「お前、いつでも蒸気機関車のことばかり、蒸気機関車と結婚しているようだね」とからかわれてほど、ギャバン演ずる真面目な機関士の暗さを救っている。
実際にキャブ内に入って、煙とものすごい揺れの中を旅してみると、蒸気機関士や機関士助手というのは、大変な仕事なんだと実感した。歌でも歌うぐらいの余裕を見せるくだん蒸気機関士のことをちょっとだけ好きになった。
途中からは、イギリスから来たアマチュアが運転を替わった。この線では、蒸気機関車の運転の訓練をひとつのウリにしており、合格した人が蒸気機関車を運転できるようになっている。ま、仮免ということなのだろうか。アマチュア運転士は動作はぎこちないものの、運転はまずまず。駅のホームの所定の位置にもぴたりと停められる。
ところがそのアマチュアが運転中、計器の針が異常を示しているのに気がついた。蒸気圧が高すぎるのだ。すると、もうひとりの機関士が工具入れからスパナを取り出して、慎重にバルブを動かしていく。しばらく格闘していると、針は正常な位置に戻った。「蒸気圧が異常だとどうなるのか」と聞かれたその機関士は、手を両手に広げて一言、「爆発する」と言った。
そういえば、ポーランド映画の『Czlowiek na torze(鉄路の男)』(アンジェイ・ムンク監督 1956年)の中にも、運転中に機関士助手がキャブの外に出て、手すりにつかまりながら、狭いランボードを歩いてバルブを調整するというシーンがある。蒸気機関車の運転というものも、なかなか大変なものなのだと思った。
予定どおり、10時17分にヴォルシュティン駅到着。75km、1時間52分の旅は終わった。ヴォルシュティン駅には蒸気機関車がいっぱい。雪だったので心配したが、機関車がシートにくるまれているわけではなかったのでひと安心。雪をかきわけ、かきわけ、蒸気機関車見学を楽しんだ。そうしてまた、蒸気機関車に乗ってポズナニへと向かうのであった。
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