誰のせいでもなく……旅に出る。

突然だが、負のスパイラルって本当にある。やることなすこと裏目に出る、っていう感じ。そういう時は、旅に出ちゃおう。そう、あれは連休中の5月3日の夕方。換気扇のフィルターを買いに行ったのだが、20型に合うフィルターがない! それまでにも色々あり、他人から見たら些細なことのように思える換気扇フィルター事件(?)がとどめとなり、「あー、もう旅にでも行っちゃえ」となったわけだ。

で、なんだかなんだしているうちに遅くなり、横浜駅21時59分着。みどりの窓口に急ぐが、閉まっている!! 1分前なのにぃ~。「もっと早く行けよ」という突っ込みが聞こえてきそうだが、こういう性格なんです、お許しください。仕方ないので自動販売機にカードを差し込み、とりあえず金沢までの切符を買う。経路が4つ出るのだが、「たぶん、このルートだろう」というのを選ぶ。7,780円也。とりあえず金沢まで買ったが、おそらく富山か魚津あたりで下車するつもり(ただし、起きられれば)。

横浜駅の7番線ホームにあがると、「22時16分発、東京駅行きの電車は特急型車両ですが、急行券等は必要ありません」という旨のアナウンス。ちょっとラッキーな気分。来たのは373系。特急「ふじかわ」「伊奈路」などに使われている電車だが、「ムーンライトながら」号の車両としてなじみが深いもの。東京駅には22時42分に到着。私が乗ってきていた電車には東京駅で清掃員が乗り込み、勢いよく背もたれを反対方向にかえていく。この電車は、23時10分東京発の「ムーンライトながら」号になるのだ。

横浜駅から(私の)ドラマは始まる

さて、私はというと東京駅から上野駅までは山手線を乗り継ぐ。今でこそ、北へ向かう新幹線も東京駅から出発しているが、北への玄関はやはり上野駅。23時少し前上野駅に着き、16番線に急ぐ。おっと、同じ金沢行きの寝台特急「北陸」が発車寸前。お小遣い事情により今回は寝台には乗れないが、見送ってあげるとしよう。

ボンネット型がキュートな「能登」に乗る

今回の旅では、夜行列車「能登」に乗る。今日は23時11分に入線だ。いつもより少し早めである。「能登」は往年のこだま号(東海道線)を連想させるボンネット型の車両が特徴。使用されているのは489系と呼ばれ、1970年代に造られたもの。さほど古い感じではなく、デザインがレトロでキュート! ちなみに上野駅では、女子2名が先頭車両の写真を撮っていた。

「能登」が発車

「能登」は全部で9両。そのうち自由席は5両。私は先頭車両の9号車に乗り込む。指定席は全席満席というアナウンスがあったが、自由席は6割ぐらいの乗車率だろうか。23時33分に上野駅を発車し、大宮、熊谷、高崎を経て、次に停車するのは直江津4時13分の予定。

大宮を過ぎた頃、車内で急行券を買う。「上野→魚津」1,260円也。隣の席は空席なので、体を横にして寝ることに。そして3時16分頃、長岡に到着。ドアは開かないが、ここで、進行方向が変わる。ここから先頭の9号車が最後尾になるのだ。

長岡で進行方向がかわる

再び目が覚めたのは、泊をすぎた朝の5時。夜行の一人旅で怖いのは、乗り過ごすことなのだが、今回は大丈夫だった。二度寝しないよう、車内をふらふらと歩く。6号車がサロンカーだったのにはびっくり。昔のビュッフェをサロンカーにかえたのものと思われる。荷物を持ち、再度サロンカーに行って写真を撮ることにした。

サロンカー。う~ん、おしゃれ!

ソファーもクッションがきいていて、いい感じ。車掌さんに魚津到着時刻を聞いた時に5時半頃といっていたと思うので(せっかく聞いたのに記憶が……)安心していたのだが、「黒部」駅を経て停車した駅の名前を見てびっくり! のんびりしているうちに、下車予定駅の「魚津」に着いていた!! 急いで、荷物をまとめて「能登」を降りる。当然途中下車で、時刻は5時21分だった。

魚津から宇奈月を経てトロッコ列車に

下車駅を魚津にしたのには、理由がある。魚津に隣接している新魚津から富山地方鉄道(地鉄)に乗り、宇奈月温泉へと行き、トロッコ列車に乗る予定だったからだ。まずは、魚津駅周辺を探索。駅から15分ぐらいで日本海に出る。釣り人が海の中に入りながら、釣りをしている。さすがに6時前だったので、人影はまばら。

写真左は地鉄。上は朝もやの日本海

新魚津駅は木造の駅舎がかわいい。待合室も木造でとても雰囲気がある。6時30分、クリーム地に深紅のラインが入った14760系電車に乗って宇奈月温泉に向かう。この富山地方鉄道では、多くの駅舎が木造である。一部は写真で紹介するが、見ているだけでなぜか心が落ち着くのは私だけではないはず。

屋根がかわいい! 富山地方鉄道(地鉄)の新魚津駅

地鉄の駅舎は独特な雰囲気のものが多い

宇奈月温泉駅着は7時9分。運賃は900円だった。ここからは黒部峡谷鉄道に乗り換える。「まずはそばを食べて」と思ったが、よく考えると私、そばばかり食べている。そばで空腹を満たした後、7時57分宇奈月発欅平行きに乗る。ここから欅平までは約80分の行程だ。

トロッコの軌間は762mm。JRが1,067mmだから、それに比べると狭い。このトロッコの一列に、四人ないし三人が座る。普通車はオープン車両で窓もない。特別客車は窓付なので、行きは特別客車に乗ってみた。宇奈月→欅平の運賃は1,660円、特別客車代が360円。

トロッコ列車が進む

トロッコ列車の重連

トロッコは、宇奈月を出るとすぐに赤い鉄橋、新山彦橋を渡り、黒部川を這うようにさかのぼっていく。トンネル、スノーシェード、またトンネルというように山岳地帯を上っていくのだ。しかし、吉村昭著『高熱隧道』のような過酷な情景は見つけられず。家族連れを乗せたトロッコは平和そのもので、ヨーロッパの古城を連想させる関西電力柳河原発電所ではのどかささえも感じる。

柳河原発電所

関西電力出平ダム、関西電力黒部川第2発電所を過ぎるとまた長いトンネルが続き、鐘釣駅に到着。列車が一時バックしてポイントを切り替えて進み、またトンネル。ようやく終点の欅平に到着した。

雪に閉ざされるシーズンが長い黒部のこと、5月の連休中は欅平周辺の散策コースもまだ未通。散策を楽しむには、もう少しあとの時期に訪れたほうがいいだろう。このあと、また黒部峡谷鉄道と富山地方鉄道を乗り継いで、富山に向かうのだった。

富山の市電(富山軌道)

……宿は予約していなかったのだが、泊るところ、あったっけ? おっちょこちょいな私。もう1つ忘れ物が。前回前々回と余部鉄橋についての話をしてきたが、みなさんにプレゼントを買ってきていたのだ。詳しくはこちらをご覧ください。