今の就活生の就活解禁が、これまでの12月から3月に繰り下げられた。この繰り下げには学業優先や留学推奨という学生側の立場に立った事情もあるが、これによって、一部の有名大学以外の学生たちにとっては、かえって就活活動で大変な思いをするケースも出てくるのではないだろうか。

なぜならば、採用する側の企業の採用担当者の時間や費用や労力は有限だからである。企業側の採用活動が3カ月、学生の就活が4カ月後ろ倒しになれば、企業が学生と接触できる期間は減る。「より効率的に、良い学生を採用したい」と思うのが企業側の実状だろう。企業側はこれまでよりも一層"効率的"に就活中の学生にアプローチするようになる。すると、いわゆる「有名大学」の学生にとって、より有利な状況になりかねない。特に文系の学生は、これまで以上に狭き門を乗り越え、早い段階で「他の人にはない自分」を積極的にアピールすることが必須となってくる。

他の人にはない自分らしさとは

もっとも、すでに「他の人にはない自分らしさ」を計る手法として、非言語の選考方法を導入している企業も多い。例えば、ソニーミュージックグループでは、エントリー段階で、動画で応募を受け付けていた。ソニーミュージックグループは、「自分の能力・個性を発揮し、活躍してやるぜ!」という学生を求めていると採用ページに掲載している。まずは「他の人にはない自分らしさ」が不可欠で、エントリーの段階から学生の個性を"効率的"に採用できる仕組みを導入している。 

では、この「他の人にはない自分らしさ」を、アイドル戦国時代と言われる世界で生き残るアイドルは、どのようにアピールしているか。今年6月に結成され人気上昇中の、曲や衣装などをネットで募集をし、世界中のみんなでつくりあげるソーシャルアイドル、「notall(以下、ノタル)」の場合をみてみよう。彼女たちの人気の秘訣の一つは、「ファンによるSNSでの写真と動画の掲載が可能」という点だ。ファンは、スタッフが「このカットがいい」とは判断していないアングルや仕草の写真までみることができる。スタッフがセレクトしない写真が掲載されることで、メンバーのより素に近い個性的な表情をファンは見られる。ファンにとっても、スタッフが許可したのとは異なる自分だけのアングルや、自分だけの表情を撮って掲載できたことで親近感を得る上に、Twitterにハッシュタグをつけ投稿すると、ノタル本人達が直接コメントを返すので、「また投稿しよう」という気持ちにもなる。

就活とは違うSNSという場で、ノタルはファンと一緒に自分たち自身をつくりあげることで、新しい時代の「自分らしさ」を表現し、"共感力"を高めている。最近では、300RTを達成すると初のワンマンライブを開催のところを8時間で達成し初のワンマンライブが開催される。さらに500RT、1000RT、2000RTと達成すると、初ワンマンライブのDVD発売、初CDアルバムの全国発売、ワンマンのチケットを半額など、ソーシャルだけではなく、リアルの場にも「自分らしさ」を展開しつつある。

学生の就活においても、今後は一層「他の人にはない自分らしさ」を求める企業が増えていくことが予想される。「動画でエントリー」のような「個人」によるエントリーではなく、今後は、この「ノタル」のプロジェクトのように、みんなで一つのものを作っていく過程が選考対象として加えられるケースが増えていくのだろう。ソーシャル上の「合宿選考」のように、自分自身の「らしさ」が作られていく過程で、いかに個性を発揮するか。学生の持つ新しい形の個性の発揮を企業は求めていくのかもしれない。


<著者プロフィール>
片岡英彦
1970年9月6日 東京生まれ神奈川育ち。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者、宣伝プロデューサーを経て、2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャーに。後に、MTVジャパン広報部長、日本マクドナルドマーケティングPR部長、株式会社ミクシィのエグゼクティブプロデューサーを経て、2011年「片岡英彦事務所」を設立。(現 株式会社東京片岡英彦事務所 代表取締役)主に企業の戦略PR、マーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加。2011年から国際NGO「世界の医療団」の広報責任者を務める。2013年、一般社団法人日本アドボカシー協会を設立代表理事就任。