ある派遣社員からの相談事

「派遣社員として働くよりも、正社員として働く方がいいですよね?」と、相談を受けたことがある。このような質問をされる方は、大抵、派遣社員として優秀で、派遣先からの評価も高い方である。だからこそ、自分の将来に向けたキャリアアップを真剣に考えているのだろう。

聞かれたことについて、そのまま答えることを私はしない。なぜこの質問を私にしたのだろうと、その理由を考える。

そして、派遣社員から正社員になることは、とても良いことだと肯定した上で、次のような話をさせてもらった。

派遣社員と正社員どちらに「メリット」があるか?

派遣社員と正社員とを比べた場合、派遣社員には原則は残業がなく定時退社できる。残業を行う場合は残業手当がもらえ、公休日も確保される。単純に時給換算すると社員よりも高いことがある。業務内容はある程度、事前に決められているので、突然の配置転換や職場異動はない。自分が希望の職種を選択しやすく、大手企業に派遣される可能性もある。幅広い人たちに出会うこともできるので、そこから学ぶことも多い。

一方、必ずしも契約が更新され続けるとは限らない。正社員とは社内では区別される。同じ業務を任され、社員よりも優秀であっても、社員のように成果が直接昇給やボーナスには結びつかない。

総じて言えることは、休日の取得や一日の労働時間を気にせずに、バリバリと働いて成果をあげたい。評価を得たい。昇給、昇格したいと思う人には派遣社員という働き方はあまり向かない。もっとも、派遣先として、あえて残業の多い職場を選択することもできるので、バリバリ働き、しっかり残業手当をもらいたい人は、こうした企業を選ぶこともできる。反対に自分はプライベイトを充実させたい。あるいは育児や介護など、他に両立させるべきことがあるという人は、残業の少ない企業を選択することもできる。

派遣と正社員の違いは「メリット」ではなく「リスク」にある

一般論としてだが、こうした派遣社員と社員のメリットとデメリットを相談者に話しているうちに、相談者自身が「派遣社員として働くか、正社員として働くか?」という相談を私にすることにあまり意味がないことに気がついてくれる。双方にメリット・デメリットがあるので、結局は「自分の求める働き方」がどちらなのかという問題なのだ。

もっとも、せっかく質問してくれた以上、私も何かプラスになることを答えねばならない。そこで「メリット」ではなく、「リスク」を考えてみることを勧める。

仮に自分が契約を更新されずに中断されても、すぐに次の派遣先で働くことができるか?

年齢が今よりも上がっていっても、若い人と同じ土俵で必要とされる業務に調整できる自信があるか?

派遣社員としての「リスク」を克服すること自信があれば、あるいはリスクが気にならないのであれば、必ずしも正社員にはならなくとも派遣社員のまま「メリット」を享受する選択肢もある。

一方で、正社員になることによって得られる「安定」も大きい。福利厚生、長期雇用、昇給昇格の可能性等、派遣社員の「リスク」と、正社員の「安定」という面で対比して考えることをお勧めする。

私に相談をしたこの方は、本当は自分は「安定」した仕事を求めているわけではない。1、2年間はバリバリ働いて、しっかりお金を貯め、人脈を作り、3年後くらいには、すでに取得している資格を活かして独立したいと、本当の思いを初めて話してくれた。私は「だったら、今いる大手企業で、もう少し派遣社員として働いて、人脈や元手になる資金を貯めた方がいいんじゃない?」と初めて私自身の本当の意見をいった。

その後、この方は、独立されて、今ではしっかり自分の資格を活かして独立されている。あの時、あえて正社員になくて、結果的にはよかったのではないかと思っている。


<著者プロフィール>
片岡英彦
1970年9月6日 東京生まれ神奈川育ち。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者、宣伝プロデューサーを経て、2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャーに。後に、MTVジャパン広報部長、日本マクドナルドマーケティングPR部長、株式会社ミクシィのエグゼクティブプロデューサーを経て、2011年「片岡英彦事務所」を設立。企業のマーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加。