金融庁に日参する一方で、新たなビジネスのスタッフ探し

何はともあれ、セゾン投信という会社が発足しました。しかし、この段階では会社とはカタチばかり、投資信託委託業の認可申請にも至らず、金融庁に日参する一方で、新たなビジネスを営むに足るスタッフもクレディセゾンのインベストメント事業部で同社の設立に携わってくれた数人を除き、これから人探しです。

当時、投資信託会社は認可事業として金融庁の厳しい審査基準をクリアする体裁を整えなければなりませんでした。その条件はどんなに小規模なブティックの会社であっても基本的な機能、つまり運用部門から投信計理部門、コンプライアンス部門に至るまで投信業務はすべて自前で賄うことが求められていました。おまけにセゾン投信の事業モデルは直接販売方式、すなわち通常の投信会社であれば、証券会社、銀行に担ってもらう最終顧客たる個人投資家への販売業務も自ら行う必要があるため、販売機能へのシステム投資と人材投入等で更に大きな経済的負担がかかります。これらをすべて賄い継続的に営業可能とするためには普通の会社を創業するよりもはるかに大きな資本が求められます。加えて投資信託委託業務を行うには常時、最低5千万円の純財産額を維持しておかなければならず、そのバッファーも資本として必要です。つまりこの先、セゾン投信が当局の認可を得て実際に営業を開始するためには、数億円から十数億円の規模の資本金が必要であり、クレディセゾンの本格的な出資なくして経営は成り立たないわけでした。

バンガードの加藤社長も何度もクレディセゾンに足を運んでくださり、セゾン投信と見据える新しい投資信託の意義と可能性を関係の首脳陣に訴えて下さいましたが、一向にコンセンサスが得られず、しばらく膠着状態が続きました。

先に実績を作ってしまおうと、澤上氏を講師に「資産形成セミナー」

こうなれば先に実績を作ってしまおうとセゾンカード会員向けに「資産形成セミナー」を開催していくことにしました。澤上さんに講師をお願いしたら、喜んでボランティアとして協力してくださり、会員宛カード利用明細書の中にセミナーのご案内を入れて発信したところ、あっという間に千人以上の応募がありました。

これをカード会員向けのサービスという位置づけにして、東京を手始めに名古屋・大阪と回を積み重ね、澤上さんが訴えて下さる、長期で財産づくりをしていく必要性が、セゾンカード会員という必ずしも金融商品・資産運用という観点で結ばれているわけではない顧客マーケットにも十分共感を得られるという貴重なマーケティングになりました。そして澤上さんの講演の後、主催者からの後援という名目でセゾン投信という長期投資の投信会社を準備中であることをお客様に告げ、公にすることで、少しずつアリバイ作りのようなことをしていきました。もちろん、全く無名の私がいくら熱っぽく語ったところでどれだけ浸透するわけでもないのですが(笑)。

ただセゾンカード会員向けセミナーを開催するたび、この事業への強い手応えを感じ、今度こそ何があろうと絶対に負けられないぞ!との勇気が湧きあがってきたのです。インベストメント事業部には少数ですが、私の想いに信頼して付いてきてくれる仲間もできたのだから尚更です。

執筆者プロフィール : 中野晴啓(なかの はるひろ)

セゾン投信株式会社 代表取締役社長。1963年東京生まれ。1987年明治大学商学部卒。同年西武クレジット(現クレディセゾン)入社。セゾングループのファイナンスカンパニーにて債券ポートフォリオを中心に資金運用業務に従事した後、投資顧問事業を立ち上げ運用責任者としてグループ資金の運用のほか外国籍投資信託をはじめとした海外契約資産等の運用アドバイスを手がける。その後、(株)クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年セゾン投信(株)を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現させるなどにより、現在2本の長期投資型ファンドを設定、販売会社を介さず資産形成世代を中心に直接販売を行っている。また、全国各地で講演やセミナーを行い、社会を元気にするための活動を続けている。

公益財団法人 セゾン文化財団理事
NPO法人 元気な日本を作る会理事

著書
『運用のプロが教える草食系投資』(共著)(日本経済新聞出版社)
『積立王子の毎月5000円からはじめる投資入門』(中経出版)
『投資信託は、この8本から選びなさい。』(ダイヤモンド社)など

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